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【特集】

パーパスから描く未来戦略

企業活動の持続可能性が重視され、企業に「パーパス」を求める機運が高まる中、自社の存在意義やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再定義する企業が増えている。パーパスの実現に向けた中長期ビジョンを構築し、事業計画に落とし込んで、自社の成長を加速させるメソッドを提言する。
メソッド2023.08.02

パーパス・MVVから落とし込む事業ポートフォリオ設計:藤原 将彦

唯一無二の事業ポートフォリオを設計する

 

外部環境の変化が激しさを増す現在、企業はサステナビリティ(持続可能性)の追求や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実装により、事業レベルではポートフォリオの組み替え(最適化)、組織レベルでは新しいスキルを活用できる人材の育成・確保、それらを付加価値創出につなげるための組織開発などの変革が求められている。

 

複数の事業活動を行う企業においては、各事業のシナジー(相乗効果)があるものだが、十分でない企業は少なくない。事業間でシナジーを生みながら複数の事業を束ねて経営する際は、マネジメントの複雑化や管理コストなどのリスク検証を行いながら戦略を立てることが重要である。

 

ゆえに、事業ポートフォリオを組み替える前には、「自社はどのような価値に最も重きを置くべきか」を定義する必要がある。そのための判断基準となるのが、自社のパーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)だ。

 

企業価値・存在価値を高めるには、自社の絶対的な価値基準となるパーパスとMVVを起点に「自社の貢献価値」を具体化し、事業ポートフォリオを再設計して、唯一無二のビジネスモデルを実現しなければならない。

 

事業ポートフォリオのマネジメント

 

事業ポートフォリオの組み替えのポイントは、次の3つである。

 

❶ トップマネジメントの責任

経営層には、事業ポートフォリオの最適化とシナジー創出に取り組む責任がある。各事業に対する経営資源の再配分と、必要に応じた事業ポートフォリオの組み替えが必要だ。単一事業で経営を行っている企業にとっても、中長期的に見れば今後発生し得る重要な経営課題である。

 

企業が経営環境の変化を乗り越えて持続的に成長するためには、①既存事業の継続的な改善、②新規事業の創出、この2つを同時に行うことでイノベーションを起こす「両利きの経営」が必要だ。経営層は、経営資源の再配分について決断、実行し続けなければならない。事業ポートフォリオに対する方向付け・執行・見直しといった、マネジメント責任者としての主導的な役割が求められる。

 

経済産業省の「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」(2020年7月)にも、「事業ポートフォリオマネジメントの基本は、以下のとおり、①企業理念・価値基準に基づき、②ビジネスモデルとして複数の事業を営む戦略の妥当性を明確化し、経営戦略を策定した上で、③事業ポートフォリオを定期的に見直す仕組みを構築し、これを適切に運用することである。」と記載されている。

 

自社の企業理念や価値基準として、「どのような事業を通じて価値創造や社会貢献を目指すのか」という考え方を明確化し、現場部門も含めて共有・浸透を図ることが重要となる。

 

❷「4象限フレームワーク」の活用

企業理念や価値基準、中長期的な経営戦略、ビジネスモデル、サステナビリティの観点など、企業としての基本的な方向性を前提とした上で、資本収益性と成長性を軸に事業を評価する。

 

事業評価の標準的な仕組みとして、「4象限フレームワーク」(【図表】)の活用が有効である。このフレームワークは、資本収益性と成長性の観点から定量評価を行った上で、各事業の位置付けや課題を確認するためのツールである。事業ポートフォリオの在り方について検討する際には、関係者に共有すべき基本的な枠組みとして活用できる。

 

【図表】事業評価の「4象限フレームワーク」

出所 : タナベコンサルティング作成

 

❸ バリューチェーンの視点

事業ポートフォリオの組み替えに当たり、商品・サービスの異なる企業が組み合わさった企業グループの形態であるコングロマリットへの変化が予想される。コングロマリット化がうまくいけば、シナジーによって企業はさらに成長できる。

 

コングロマリットのメリットとして、①事業間シナジーの発揮、②ポートフォリオ形成によるリスク分散、③市場開拓と新規事業参入などが挙げられる。

 

だが、LTV(顧客生涯価値)の向上や経営リスクの分散、新たな企業価値創造といった、いわゆる「コングロマリット・プレミアム」につながる一方、事業間シナジーが発揮されないと経営資源は分散したままとなり、コミュニケーションが不足する。ガバナンスが機能しなくなり、企業価値が下がっている状態「コングロマリット・ディスカウント」に陥ってしまう。

 

ここから、事業ポートフォリオとバリューチェーンは密接に関係していることが分かる。顧客に提供する付加価値をどのような事業の組み合わせで構築するかについて、バリューチェーンの視点で検討することが重要である。

 

事業構成を明確にした後は、「各事業における競争優位の源泉がどこにあるのか」を分析する。事業ごとのバリューチェーンを分析することで、価値創造プロセスを明確にするのだ。上流から下流工程までのビジネスプロセスを洗い出し、「事業の競争優位の源泉がどこにあるのか」「付加価値を拡大するために強化すべきポイントがどこか」を見いだす。

 

自社の事業ポートフォリオとそれぞれのバリューチェーンを洗い出し、競争優位の源泉を理解した後に考えるべきことは次の2つである。

 

1つ目は、分析した競争優位の源泉をさらに強化し、付加価値を進化させること。2つ目は、競争優位の源泉を拡大させ、新たな付加価値を創造することである。「バリューチェーンにおける競争優位の源泉を進化・拡大させる」という視点で、中長期的な事業ポートフォリオを検討することが重要だ。

 

ステークホルダーとの対話を通じて企業文化を醸成する

 

パーパスとMVVを経営戦略に実装するためには、パーパスとMVVに基づく経営戦略をビジョンに組み込み、「企業として何を目指しているのか」「社員一人一人にどのような行動が求められているのか」を明確にする必要がある。社内で価値観が統一され、社員が同じ目標を持つことができれば、戦略の実行推進力が高まる。また、経営戦略に合わせた人材戦略を策定すれば、自律的に行動できる社員が増え、自社のビジョンに共感した人材を集めることもできる。

 

経営戦略を実現するためには、自己変革能力が求められる。自己変革能力は日々の活動や取り組み、つまり、企業文化を通じて醸成されるものである。企業文化を醸成するためには、経営トップ自らがパーパスやMVVを発信していくとともに、企業文化の浸透に関する適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、検証するマネジメントが重要だ。

 

 

 

 

Profile
藤原 将彦Masahiko Fujihara
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン ゼネラルパートナー
クライアント視点でのコンサルティングスタイルで、企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を中心に活躍中。また、新規事業開発・推進に前向きな情熱を持って取り組み、クライアント企業の成長エンジンづくりに貢献している。
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