ブランディングと広報の関係
広報・PRと聞いて何を思い浮かべるだろうか? PRは「Public Relations(パブリック・リレーションズ)」の略で、「企業と“社会”がより良い関係を構築する施策やコミュニケーション活動」を意味する。ここで言う「社会」とは、ステークホルダー(顧客・従業員・株主・取引先・コミュニティー・報道関係者など)を指す。
一方、ブランディング活動は、企業や製品・サービスのブランドストーリーを構築し、ターゲットに「新たな記憶」や「認識」を持ってもらうのが目的だ。
広報は「メディア露出の獲得」と捉えられがちだが、それは一側面に過ぎない。広報の本質は、ブランディング活動によって「メッセージ」や「アイデンティティー」および「イメージ」を社会に正しく伝え、認知度・信頼度・評判を向上させることである。
また、広報は会社や製品・サービスのイメージが毀損される危機を察知し、ブランド価値の低下を回避する「危機管理広報」の役割も担う。
この10年、デジタルメディアの台頭やSNSの爆発的な普及によって、消費者のタッチポイントとなる媒体はデジタルメディア、各SNSプラットフォーム、キュレーションアプリなどにシフトし、コンテンツもテキストだけでなく、写真や画像、動画など多様化している。
当然、従来のマスメディアのコンテンツの作り方も変化してきた。いわゆる「ネタ」となる企画を立てる際、「リサーチ」「情報ソース」をインターネット上で取得するようになったのだ。
こうしたネットの普及により、広報の在り方やその戦略も対応が迫られているが、今も昔も変わらず大切なのは「ブランド価値を最大化するためのコミュニケーション設計」である。
「ブランディング×広報」の実行事例
ケース1:オウンドメディアを駆使して広報戦略を構築、多くの報道を獲得し業界大手へ成長
タメニー(東京都品川区)が運営する「パートナーエージェント」は、オウンドメディアを活用して広報活動を成功させた大手婚活サービス(結婚相談所)だ。同社は当時、生まれたばかりの「婚活」というキーワードに着目して広報活動を実施した。
目標▶婚活大手の地位を獲得し、業界のネガティブイメージを払拭
【ステップ1】認知向上:リリース調査を活用したオウンドメディアの運用
【ステップ2】報道価値の創出:報道価値をつくる広報の施策を展開
【ステップ3】ブランドチェンジ:業界イメージの底上げ、婚活大手5社へポジションチェンジ
まず着手したのが情報発信だ。目に見える製品やサービスがないため、報道価値を生み出してメディアに発信することが鍵となる。
そこで「結婚」「恋愛」「婚活」に対する人の意識調査を実施し、プレスリリースにして発信する「調査PR」を提案。調査データはオウンドメディア「婚活総研」にまとめた。最初に大きく報じられたのは「草食男子」に関する調査データだった。まだ浸透していなかった「草食男子」というキーワードでの調査結果は多くのメディアで取り上げられ、「報道連鎖」を巻き起こした。こうした独自の調査コンテンツを発信し続けた結果、メディアに“面白い調査データを持つ会社”“面白い広報企画を打ち出す会社”として認知されていった。
並行してテレビ向けの報道価値をつくることに注力。当時流行していた「朝活」と組み合わせた「朝婚活」「ランニング×婚活=ラン婚」など、テレビで撮影しやすい“画になる施策”をトレンドと絡ませて企画したところ、取材が殺到した。広告では「1年婚活」というメッセージを打ち出し、結果を出す姿勢を示した。こうして同社は「新進気鋭のユニークな婚活会社」というブランドイメージを獲得し、次第に「婚活大手」と表現されるほど成長。併せて「婚活」という言葉を浸透させ、業界のイメージをポジティブなものへ変えることに成功した。
ケース2:世界がターゲット! 新作「劇場用アニメ」の広報活動、世界数十万人規模のSNSコミュニティー誕生秘話
次に、新作映画の世界上映が決定していた某有名アニメーションの広報に取り組んだ事例を紹介する。
目標▶新作アニメ公開の世界的な告知:SNS上で世界最大のファン・サイトを形成
【ステップ1】マーケティング調査:世界中に散らばる同アニメのファンをリサーチ
【ステップ2】ファン市場の形成:SNS上で非公式グループを開設してファンを1つに
【ステップ3】新作の告知:非公式グループ上で、新作公開まで定期的に映画情報を投下
この広報活動の舞台はSNSだ。当時、雑多に存在していたSNSグループを1つに集約することを目的として新たなFacebookページを作成した。これが結果として28万人規模のファンを持つ、コミュニティーベースに成長したのだ。
ポイントは、集約先のFacebookページを非公式にしたことだ。これによりファンがブランド(アニメ)へのコメントや考え、ファンメイドの作品を投稿しやすくなり、コミュニケーションが活発になった。運営側は、まだ世に出ていないビジュアル、レアなフィギュアの写真、各国で開催された展示会の様子などを発信し、高いエンゲージメント率を実現した。
映画公開終了後の現在もこのSNSグループは拡大を続けており、新作の発表やグッズ販売、イベント告知などへの活用を模索している。
核となる「メディアインバウンド施策」
これらの成功の秘訣は何か。それは、「メディアインバウンド施策」だ。これはカーツメディアワークス独自の考え方で、「メディアを引き込む報道価値をつくること(メディアが追いたい情報をつくること)」を核とする広報戦略の1つである。
マスメディア(特にテレビ)の現場では、企画を作る際に必ずリサーチをする。そのため、Google検索やSNSで行われるリサーチに引っかかるコンテンツが、オウンドメディアやWebニュース媒体に掲載されていることが重要だ。つまり「取材の問い合わせや依頼(インバウンド)」を獲得するのがメディアインバウンド施策(【図表】)なのである。
【図表】メディアからの取材依頼を獲得するために広報型コンテンツを充実させる「メディアインバウンド施策」
ブランディングの一般的な手法は広告だと思われがちだ。しかし、広告で企業自らブランドを語ったところで、信頼度は向上しない。一方、メディアインバウンドに成功すれば、マスコミなど第三者がブランドやサービスについて語ってくれるため、認知はもちろん、信頼度も増していく。認知獲得のためだけに大きなコストを投下する「広告」では決して得られないものを、「広報戦略」では得られるのである。
ブランディングの鍵は、新たなブランドイメージを持ってもらうことで、社会と良好な関係を築き、第三者の報道や口コミを味方に付けることだ。したがって、継続的な情報発信と関係構築が必要不可欠である。 ブランドも広報も「一日にしてならず」だ。