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【特集】

ブランドビジョン

変容した社会の価値観に対し、自社の存在価値(パーパス)を再定義する企業が増えている。ブランドにおいても、そのビジョンを明確化し、戦略から実践まで落とし込んで成果を上げている事例から、非価格競争を実現し、ブランド力を研ぎ澄ます要諦を学ぶ。
メソッド2023.07.11

コーポレートブランディングに必要な「3つのX」:松本 優香

 

ステークホルダーにブランドを正しく伝える

 

自社が持つブランドの価値を正しく伝え、広げるためには、ブランドと関わる全てのステークホルダーからの「共感」が不可欠である。

 

そのため、ブランド戦略を構築する際に主役となるのは、企業ではなくステークホルダーであるべきだと筆者は考える。

 

自社の製品・サービスを使うユーザーや自社の従業員、社会のそれぞれが、自社のブランドと接触する際に感じる価値が「体験価値」である。

 

ブランディング戦略を策定するに当たり、この体験価値を高められるよう、「ターゲットが各接点においてどのような価値を感じ、どこに共感するのか」という視点で戦略を描く必要がある。

 

つまり、ブランディング戦略の構築は、ターゲットの心理・行動特性を「知る」ことから始まり、ある心理状態やニーズに対して、「どのような価値を、どのような手法で伝えるか」を描くことにある。

 

本稿では、企業が持つブランドの中でも、コーポレートブランドをステークホルダーに正しく伝えるための戦略構築と、ステークホルダーとのコミュニケーションの在り方についてお伝えする。

 

 

3つの体験価値の各ターゲットを把握

 

コーポレートブランディング戦略を策定するに当たり、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)・EX(エンプロイーエクスペリエンス:従業員体験価値)・SX(ソーシャルエクスペリエンス:社会体験価値)という「3つのX」が挙げられる。

 

これらの体験価値が重視される背景として、大きく次の2つの市場環境の変化が挙げられる。

 

❶ マーケットの成熟による製品・サービスのコモディティー化
コモディティー化とは、顧客から見て各企業の商品特徴に差がなくなった状態である。生産技術の向上などによる商品価値の同質化により、商品の質や機能の差別化が難しい時代になった。コモディティー化から抜け出すためには、商品ブランドだけではなくコーポレートブランドも見直し、競合他社との差別化を図り、顧客に最初に想起される企業に変革しなければならない。

 

❷ 流通情報量の飽和とデジタル発展による情報のフィルタリング化
急速なデジタル化により市場に流通する情報量は増加の一途をたどっているが、ユーザーが受け取ることができる情報量には限界がある。結果として、ユーザーに届く情報はフィルタリングされ、趣味や嗜好に合わせた情報でなければユーザーに届けることすらできない。自社の製品・サービス紹介と併せて、開発時の思いをウェブサイトで紹介するなどの適切な情報発信が鍵となる。

 

この2つの変化から、ユーザーは性能や品質、価格の安さ以上の付加価値として、その製品・サービスを手にしたときから使用中、使用後までの感動や心地良さといった「体験」を求めるようになった。

 

コーポレートブランドを伝えるターゲットは、現在の顧客だけにとどまらず、ブランドに関わる全ての人となるため、ターゲットごとに提供すべき体験価値を描く必要がある。
 

CXは顧客に魅力的な体験を届けるアウターブランディング、EXは従業員に魅力的な体験を届けるインナーブランディング、SXは社会へ魅力的な活動を発信するソーシャルブランディングとして、それぞれのターゲットを把握し、最適な戦略を構築することが重要である。

 

アクションプランによるステークホルダーとのコミュニケーション

 

コーポレートブランディング戦略を設計した後は、実行フェーズとして、ブランド価値を伝え、広め、高めていくステークホルダーとのコミュニケーションが必要となる。

 

ターゲットごとに取り組み内容を具現化し、「点での施策」ではなく、一連の流れを持った相乗効果が期待できる「面での施策」を行うためにも、アクションプランを設計し、活用いただきたい。

 

アクションプランの設計においては、まず、それぞれのターゲットに対して行うべきコミュニケーションのKPI(重要業績評価指標)を設定し、5W2Hの観点でKPI達成のために必要な行動(タスク)を洗い出す。そのタスクをスケジュールに落とし込み、長期的にPDCAを回しながら施策を運用していく。

 

ステークホルダーとのコミュニケーションを推進するに当たり、複数のコミュニケーション施策を同時展開する必要があるが、重要なポイントとして次の2つを念頭に置きながら進めていただきたい。

 

❶ ターゲットの声に耳を傾け続ける
ターゲットの心理・行動特性は社会や市場の環境に合わせて日々変化する。ターゲットの調査・分析は戦略構築の際にのみ行うものではなく、定期的・継続的に行うべきである。また、施策を運用する中で蓄積するデータを活用し、常にターゲットの反応に合わせた戦略を推進する必要がある。

 

特に、デジタルマーケティングの領域においては、DMP(データマネジメントプラットフォーム:ウェブ上で蓄積されたデータを管理するプラットフォーム)の考え方に沿ってデータベースを運用することが不可欠だ。

 

❷ 統一されたトーンでのコミュニケーション
同時展開されるコミュニケーションのトーン(ニュアンス)が異なっていると、ターゲットが心に描くイメージが、どのコミュニケーションと接触するかによって変わる危険性がある。コミュニケーションのトーンは、ブランディング戦略に基づき統一する必要がある。

 

コモディティー化する製品・サービス、情報のフィルタリング化により、「商品価値」だけでは生き残れないブランド競争の激しい現代において、コーポレートブランド戦略の設計およびコミュニケーション実行の重要性について述べた。この考え方を基に自社の魅力を正しく伝え、共感を呼び、ナンバーワンブランド確立の一助としていただきたい。

 

※ 「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:なにを」「Why:なぜ」「How:どのように」「How much:いくらで」の頭文字を取った言葉で、情報を正しく整理し伝えるためのフレームワーク

 

 

 

 

 

 

Profile
松本 優香Yuuka Matsumoto
タナベコンサルティング マーケティングDX ゼネラルマネジャー。総合広告代理店にて媒体選定からデザイン提案まで総合的に企画提案営業を経験後、タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社。販促戦略のパートナーとして、「顧客創造に向けた自社の提供価値を磨くブランディング・プロモーション」を実施。顧客に寄り添うコンサルティングスタイルを信条とし、マーケティングの戦略策定から実行・運営までサポートする。
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