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【特集】

ブランドビジョン

変容した社会の価値観に対し、自社の存在価値(パーパス)を再定義する企業が増えている。ブランドにおいても、そのビジョンを明確化し、戦略から実践まで落とし込んで成果を上げている事例から、非価格競争を実現し、ブランド力を研ぎ澄ます要諦を学ぶ。
メソッド2023.07.11

PR戦略でナンバーワンブランドを確立する:飯島 智佳

 

ステークホルダーとより良い関係を築く

 

企業ブランディングを進める際は、ブランドビジョンを構築した後、そのブランド価値をステークホルダーに正しく伝える戦略設計が必要となる。

 

サービスブランドにおいては、消費者の購買行動の流れを描いた「マーケティングファネル」に基づいて戦略設計すると分かりやすい(【図表】)。マーケティングファネルの認知拡大から発信フェーズにおいて重要となるのがPR戦略の設計である。

 

【図表】マーケティングファネルを軸とした「PESOモデル」の活用例

出所 : タナベコンサルティング作成

 

PRと聞くと、プレスリリースの発信を思い浮かべる人も多いだろうが、本来PR(パブリック・リレーションズ)とは、「企業がステークホルダーと良好な関係を築くための活動」である。「社会と良い関係を築くためのコミュニケーション」と言い換えることもできる。本稿で言うPR戦略とは、広告やプロモーション、パブリシティー全てを含めて、ブランド価値をステークホルダーに正しく伝えるブランドコミュニケーションモデルを意味する。

 

マーケティングファネルと「PESOモデル」の連携

 

マーケティングファネルに基づいてPR戦略を設計する場合、「PESOモデル」と掛け合わせてフレームワークを考えることで、メディアを包括した戦略を設計できる。

 

PESOモデルとは、米国の著名なPRパーソンであり経営者でもあるジニ・ディートリッヒ氏が提唱したメディア戦略モデルであり、次の4つのメディアで構成される。

 

❶ ペイドメディア(Paid Media)
外部に広告出稿を依頼して拡散するメディア。ウェブ広告であればターゲットを絞った配信が可能であり、費用対効果も計測しやすい。デメリットとして、企業からの一方的な発信となるため、消費者にとって信頼性の低い情報となる。ウェブ広告、テレビCM、OOH※1、雑誌広告などが挙げられる。

 

❷ アーンドメディア(Earned Media)
マスメディアや消費者などの第三者から発信される情報メディア。信頼・共感性が高く、低コストで効果を生む可能性がある。デメリットとして、企業による情報コントロールができないため効果予測が難しい。ニュース、新聞記事、口コミサイトなどが挙げられる。

 

❸ シェアードメディア(Shared Media)
SNSを起点に情報発信されるメディア。拡散性の高いメディアであり、好みや価値観が近い人物からの発信となるため信頼・共感性が高い。デメリットとして、アーンドメディア同様に企業による情報コントロール、効果予測が困難である。主にYouTube、Instagram、Facebook、Twitter、TikTokなどが活用されている。

 

❹ オウンドメディア(Owned Media)
自社サイトやブログなど、自社で保有、運用しながらステークホルダーに発信するメディア。自社で情報をコントロールしながらブランディングを進めることができる。デメリットとして、コンテンツを蓄積することで初めて効果が出てくるため、短期の効果が見込めない。企業ホームページ、ECサイト、広報誌、メールマガジンなどが挙げられる。

 

これら4つのメディア特性を考慮した上で、どれか1つだけではなく、4つのメディアを組み合わせた「メディアミックス」によってPR戦略を設計することが重要である。

 

なお、アーンドメディアとシェアードメディアは第三者発信のメディアであるため、戦略設計時のフレームワークでは【図表】のように、「第三者にアーンドメディアとシェアードメディアでどのような情報を発信してもらいたいか」という点を意識しながら、ペイドメディア、オウンドメディアを設計すると良い。

 

アクションプラン・キービジュアルの作成が重要

 

PR戦略設計後に、実装に向けたアクションプランを作成することで戦略を具現化しやすくなるためお勧めしたい。

 

アクションプラン作成においては、まず組み立てた各メディアプランのKPI(重要業績評価指標)を設定し、5W2Hの観点でKPI達成のために必要なタスクをスケジュールに落とし込む。アクションプラン活用時には、タスクの進捗状況の確認や、状況に応じてプランの変更を判断するPDCAサイクルの仕組みも併せて取り入れることが重要である。

 

またブランド価値をステークホルダーに正しく伝える上で、クリエイティブも欠かせない。前述の通り、ブランドをステークホルダーに正しく発信するためには、さまざまなメディアを横断的に活用することが好ましい。一方で、複数のメディアを活用する際、メディアごとにクリエイティブのトーン&マナー(文章やデザインなどの統一性を保つためのルール、以降はトンマナ)にばらつきがある企業も少なくない。さまざまな原因が考えられるが、クリエイティブはブランドの“顔”となる存在であるため、トンマナが統一されていないと正しくブランドメッセージを伝えることができない。

 

まずは、サービスブランド、あるいは商品ごとに「キービジュアル」と呼ばれる主な訴求内容を要素として入れたメインデザインを作成し、キービジュアルを基に各クリエイティブを作ること、外部に発信される全クリエイティブをブランディングの観点からチェックをする体制を組むことが重要である。近年、マスメディアの影響力が弱まり、SNSなどを起点に消費者の影響力が高まり始めている。企業として情報を正しく発信しづらい環境に変化しているのだ。

 

本稿で紹介したPR戦略を基にブランディング活動を推進し、ナンバーワンブランドの確立を実現していただきたい。

 

※1 Out Of Home:交通広告や屋外広告、サンプリングイベントなど、屋外(家以外)で展開するメディア
※2 ユーザーの検索キーワードに連動して表示されるテキスト形式の広告
※3 過去にウェブサイトを訪問したことのあるユーザーに配信される広告

 

 

 

 

 

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Profile
飯島 智佳Chika Iijima
タナベコンサルティング ブランド&PR ゼネラルパートナー。販促代理店のアカウントエグゼクティブとして、大手食品メーカー販促プロモーションの企画立案、実行推進に従事後、タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社。消費者心理を理解したソリューション提案を得意としており、主にBtoC企業のブランドの魅力を最大化するマーケティング戦略の立案・実行をサポートする。
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