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【特集】

人事KPI

人材の成長やパフォーマンスを測定する重要業績評価指標「人事KPI」。人的資本経営の成果を可視化し、定量的に評価するのに必須の指標として注目されている。パーパス(存在価値)に基づいて構築された経営戦略に人事戦略を連動させ、個人の成長を企業の持続的成長につなげる人事KPIの設計について提言する。
メソッド2023.06.01

「エンゲージメントサーベイ」の活用による人事KPIの設計:浜西 健太

 

メガトレンドによる転換期

 

ここ数年の間に、SDGsに向けた取り組み、働き方改革、ウェルビーイング経営※1、パーパス経営※2など、その年を代表するメガトレンドが目まぐるしいスピードで経営環境に押し寄せ、自社戦略との相関関係を考えるきっかけを生み出している。

 

これらのメガトレンドの影響により、「組織(会社)と組織に属する個人(社員)の関係性」はさらなる変化をたどっており、目下、大きな転換期に入っている。

 

また、新型コロナウイルスが「5類感染症」へ移行され、本格的にアフターコロナに移行する2023年春以降においては、組織軸と個人軸がよりアライメント(並列的)な関係に近付く中でシナジー(相乗効果)を発揮し、独自性や創造性を何倍にも高めて成果を上げていく「センス・オブ・オーナーシップ※3」が機能した組織にますます注目が集まるだろう。

 

 

人事領域におけるエンゲージメントとは

 

会社と社員の関係がアライメントになると、社員の会社に対する「愛着」や「熱量」、「信頼」といった要素が、会社とどのように作用し合うのか(貢献しているのか)に注目が集まる。

 

会社と社員の関係性が「縦」ではなく、「横」のつながりで捉えられるようになり、結果として、社員の持つ愛着や熱量、信頼を総称した「エンゲージメント」に関心が集まる。

 

人事領域におけるエンゲージメントとは、「組織と個人のつながりの中で育まれる自発的な関係性」を指し、一般的には、社員の会社に対する愛着心や思い入れと解釈される。近年は、このエンゲージメントを定点的に観測し、持続的成長を実現するための経営指標として用いる企業が増えている。

 

エンゲージメントを短期的、かつ、継続的に計測するアセスメント手法を「エンゲージメントサーベイ」(自発的に貢献する意識調査)と呼ぶ。2022年は、社員満足度調査にエンゲージメントサーベイを導入する動きが顕著であった。

 

タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)は、企業成長において、単にエンゲージメントの向上に着目するだけではなく、「エンゲージメントの向上と会社の持続的成長が相関関係にある指標をつかむことが本質である」と考え、独自のTCGエンゲージメントロジックを構築している。TCGエンゲージメントは、「エンゲージメント(カルチャー+仕事エンゲージメント+組織エンゲージメント)×パフォーマンス」で表すことができる。

 

TCGエンゲージメントは、エンゲージメントを測る3つの指標に加えて、業績(成果や結果)との相関関係をつかむ3つのパフォーマンス指標を設けている。

 

❶カルチャー:愛着

 

エンゲージメントの源泉となる「全社員が意識的・継続的に育んだ価値観や文化」が自社にどのように作用しているかを測る指標。例えば、パーパス・ミッション・価値志向などである。

 

❷仕事エンゲージメント:熱量

 

「仕事と社員の関係性」を指し、働きがい(やりがい)がどのように作用しているかを測る指標。モチベーション、レジリエンス(復元力)などが挙げられる。

 

❸組織エンゲージメント:信頼

 

「組織と個人の関係性」を指し、働きやすさがどのように作用するかを測る指標。心理的安全性、DE&I(ダイバーシティー、エクイティー&インクルージョン)の推進などが挙げられる。

 

❹パフォーマンス:成果

 

経営活動に対する成果を指す。自社が持続的成長を実現する上で不可欠となる基準指標である。会社の重要業績指標として、売上高増加率、営業利益増加率、人員増加率などと比較する。また人事KPI(重要業績評価指標)として、労働生産性、労働分配率、平均給与水準などと比較することもある。

 

TCGは、TCGエンゲージメントをベースに「TCGエンゲージメントサーベイ」を開発した。人材投資効果を可視化し、課題の改善傾向を評価できるようになっている。このサーベイは、四半期を目安に比較的短いスパンでの実施を推奨している。定期的に組織状態を把握し、改善を繰り返すことで、人的資本経営の実践に近付くだろう。

 

 

人事KPIの観点から見るエンゲージメント

 

人事戦略を推進する上では、人事KPIを設計することも忘れないでいただきたい。

 

人事KPIとは人事領域におけるKPIを指し、①人材マネジメント領域、②人材育成領域、③人材の配置転換領域、④エンゲージメント領域の4つに対する評価指標である。

 

ここでは、④エンゲージメント領域に関するKPIについてポイントを絞って紹介する。

 

前提として、エンゲージメントサーベイのスコアをエンゲージメント領域に関する人事KPIに活用することを推奨するが、「事業ライフサイクル」※4と、『ティール組織』(英治出版、2018年)で著名なフレデリック・ラルー氏が提言する「5つの組織の発達段階」(【図表】)に留意いただきたい。

 

 

【図表】5つの組織の発達段階

出所 : フレデリック・ラルー著、鈴木立哉訳『ティール組織』
(英治出版、2018年1月)よりタナベコンサルティング作成

 

 

事業ライフサイクルが導入期であり、組織の発達段階が意図したレッド組織であれば、エンゲージメントサーベイのスコアをうのみにする必要はない。逆に、事業ライフサイクルが成熟期にあり、組織の発達段階がオレンジ組織で、グリーン組織を目指す途中なら、ミッション、DE&I、心理的安全性に関連する指標を人事KPIとして追求する必要がある。

 

また、事業ライフサイクルと5つの組織の発達段階に加えて、「自社の中長期ビジョンを実現するための人事戦略」とのつながりも、エンゲージメント領域に関するKPIを追求していく上では重要であることを意識していただきたい。

 

 

※1…心身ともに、また社会的にも満たされる環境を整え、社員の意欲やエンゲージメントを高める経営手法
※2…自社のパーパス(存在意義)を明確にし、社会へどのように貢献していくのかという「貢献価値」を高める経営手法
※3…全社員が当事者意識やリーダーシップを持ち、それぞれが組織やチームに最大限貢献していくという概念
※4…企業における事業規模の変化を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つに分けたもの

 

 

「エンゲージメントサーベイ」の活用による人事KPIの設計:浜西 健太

 

 

 

 

Profile
浜西 健太Kenta Hamanishi
タナベコンサルティング HRゼネラルパートナー。「誰もが幸せに働ける会社を生涯かけて追求する」をポリシーに、組織・人事に関するプロフェッショナルとして多くのコンサルティングを展開。特に、経営者へのコーチングが高い評価を得ている。クライアントのステージに合わせた人事制度設計および組織開発を通して、エンゲージメント向上と売上倍増へと導いた実績多数。
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