地域活性化に取り組む中で、立ちはだかった壁(現実)
私は前職で、全国の地方自治体から依頼を受けて、レジャーやアクティビティーを活用したデジタルマーケティングによる観光客の誘客支援を手掛けた。約3年の在籍期間での出張回数は約300回に及び、さまざまな地域へ足を運んだ。その多くは人口減少に直面し、数十年内に自治体の存続すら危うい地域ばかりだった。
地域の観光資源を磨き、多くの人へ伝え、いかに足を運んでもらうか。地域と真摯に向き合う中で感じたのは、「今、地域にある会社・組織の活性化により、“付加価値向上と新たな仕事の創出”」ができなければ、多くの魅力ある地域が近い将来に消滅するという危機感だった。
その後、タナベコンサルティングに転じ、観光業や自治体事業を切り口に、経営コンサルティングからセールスプロモーションまで全社でバリューを発揮すべく、一気通貫でソリューションを展開中だ。本稿では私自身が活動を通じて収集した情報から、地域活性化モデルを提言する。
(1) 地域愛ある社長の思いを形に
地域金融機関の紹介で、地域密着の小売業を展開するオーナー社長から相談を受けた。「A市が農地集積を行った土地に大規模な観光農園を作り、都内から誘客、地元を活性化したい。3カ月で基本構想を練ってほしい」。観光農園の構想は十数年前から社長が温めていた夢(構想)だった。
私を含めたプロジェクトチームは、社長と次世代経営者・役所担当者・地域連携企業のメンバーと集中討議を重ね、観光農園基本構想を策定。当社は成功モデルの検証や調査・コンセプト・集客目標・収支計画・意思決定構造や出資比率案・市申請書類作成を行い、短期集中で基本構想を描き切った。行政承認後の実行支援も提案し、現在申請中である。
(2) 自治体施策を積極的に活用
中部地方の某県から、稼働中の観光サイト(複数)をリニューアルして1つに統合、デジタルマーケティングにシフト(紙→Web)する戦略策定の相談があり、地元Web制作会社と関連企業3社で連携し取り組んだ。
Webサイトの在り方や情報発信・受け入れ体制などを考える中で、「県ならではの滞在・経験価値(コンテンツ)をサイトで提供する」とのテーマを掲げた。現状分析から始まり、構築後の運用・改善を重視したデジタルマーケティング戦略を策定。2019年4月から構築に着手し、運用・改善後は地域事業者への誘客を狙った広告出稿や予約促進施策を用意している。
(3) 食品開発講座を開催
農林水産省から山村指定を受け、消滅の危機に瀕する734市町村に対して、収入・雇用・産業創出を目的に交付される「山村活性化支援交付金」※1がある。同省担当者から、「事業を3年やっているが、特産品・産品開発方法に課題がある。レクチャーしてほしい」と相談があった。
そこで当社食品チームと連携し、山村向けの食品開発講座を開催。全国約10地域が参加し、参加者から「体系的に学べた。早く相談したかった」「開発を支援してほしい」などの声をいただいた。地域資源はあり、交付金(資金)もあるが、実行力・ノウハウに課題がある地域は多い。さまざまな企業・人と連携し成果を出してほしい。
私の経験と前述の事象を通じての考察は次の4つである。
① 地域密着かつ地域愛があり、事業発展と地域貢献を“&” で実現したい社長がいる。
② 自治体側で業界・地域を活性化するための施策、予算が確保されている。
③ 資源と資金があっても実行力・ノウハウがなく、さまざまな企業・人との連携で課題を解決していく必要がある。
④ 時間がない(流出・高齢化)。
ビジネスモデルを論じる際、「産業や業界のくくりを取り払う」ことが重要だといわれるが、これは地域も同じで業界・会社・部署・組織などさまざまな壁を越え、「よってたかって」課題に取り組む時代が来ている。
タナベコンサルティングの考える地域活性化モデル
長野県の地方銀行である八十二銀行は、地域経済活性化支援機構と共同で官民ファンドを立ち上げ、同県山ノ内町の活性化に向け地元企業・住民と連携し、観光客誘致を図る地域活性化モデル「WAKUWAKU やまのうち」に取り組んでいる。
地域金融機関の主導による活性化支援は「地域との調整に時間がかかり、横展開が難しい」「金融機関のビジネスモデルとしていかに収益化するか」などが課題になる。そこで私は、地場の中堅・中小企業を軸にしたモデルを構築し、自治体や地域金融機関などを巻き込むモデルを提唱している。
事業スキーム案は、地域活性化を目的に地場の中堅・中小企業に対し、タナベ経営が「後継者育成・新規事業展開」のコンサルティングを実施。一方、地域金融機関や自治体、地域のステークホルダーを巻き込み、組織(地域商社、DMO※2)を立ち上げて運営すると同時に人材育成へつなげる。(【図表2】)
【図表2】地域活性化の事業スキーム(構想)
自治体予算も活用しつつ、新しい商品やサービスを実際に構想し、新規事業として形にしていく。つまり、地場の中堅・中小企業が主導し、自治体や金融機関との調整役やノウハウの指南役として経営コンサルタントを活用し、人材育成と新規事業開発を進め、地域活性化を実現していく。1年目の原資としては、「山村活性化支援交付金」や「地方創生関係交付金」など各官公庁で用意している補助金や自治体事業を活用したい。
「地域貢献」「次世代後継者育成」「域内での新規事業展開」をお考えの方は、今回提言した地域活性化モデルを模索してほしい。
※1 定額支給(1地区当たり上限1000万円、最大3年間)
※2 Destination Management Organization(官民が連携し、地域の観光地に多くの人やお金を呼び込むための組織)