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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2018.10.31

自律的人材の育成に必要な研修のポイント:HRコンサルティング

環境の変化が激しい現代は、「VUCA(ブーカ)」の時代だといわれている。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(あいまい性)で構成されるアクロニム(頭字語)である。一度は見聞きしたことがあるのではないだろうか。

要するに、いまは「予測不可能」な時代に突入しているということだ。そのような先の見通しが見えない環境では、予想外の出来事や変則的な事象に対し、即断即決することを恐れないリーダー人材を育成することが求められる。これは、政治や軍事の世界だけでなく、ビジネスの世界においても同じである。

しかも現在のビジネス社会は、生産年齢人口の減少に伴う「人手不足」「採用難」という問題に直面している。これを克服するために、企業はいっそうの生産性向上が求められている。特に、新卒・若手社員の早期戦力化が、今後の企業成長にとって欠かせない要因となりつつある。

 

 

企業の人材育成にかける費用と問題意識の推移

厚生労働省が毎年実施している調査で、「能力開発基本調査」というものがある。これは、国内の企業や事業所(支社・支店、営業所、工場などの拠点)に労働者の能力開発の実態を尋ねたものだ。

同調査から、企業が正社員のOff-JT(職場外訓練)に支出した費用の増減状況を見ると、「過去3年間に支出を増やした」企業の割合は2010年度以降、ほぼ右肩上がりに上昇を続けている。また、「今後3年間の見通し」についても、増加予定とする企業の割合が上昇傾向を示している。さらに、教育の実施主体である事業所でのOff-JT実施率を見ると(正社員)、近年は上昇傾向が続いている。(【図表】)

だが、能力開発を強化する動きが目立つ半面、人材育成に「問題がある」と考えている事業所の割合はいっこうに下がらず、むしろ上昇傾向を示している。これは現場での人材教育が場当たり的に行われ、体系的・計画的な研修ができておらず、従業員の能力・スキル向上が進んでいないことがうかがえる。

タナベ経営では、企業の人材教育予算は総人件費の3%が基本だと考えている。しかし、教育投資の比率の適否を論じる以前に、そもそも自社が計上している能力開発・人材教育の予算に見合った成果は得られているのだろうか。

【図表】事業所調査/Off-JT実施率と問題意識の割合の推移

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出典 : 厚生労働省「能力開発基本調査」

 

 

 

成果につながる研修の3つのポイント

では、成果につながる教育研修とは、どのように進めればよいのだろうか。次に、そのポイントを3つにまとめた。

1.教育体系が自社の人材ビジョンや戦略と整合性が取れているか

私は経営者や人材育成担当者と議論を交わす中で、「人材ビジョン(自社が求める人物像)」が不明確なケースが多いと感じている。自社が求める人材や自社の戦略の方向性と、実施している教育研修がマッチするように、いま一度自社の人材ビジョンを検討し、その結果を自社の教育体系や研修内容に落とし込んでいただきたい。

2.研修の参加対象・目的・目指す成果を明確にしているか

研修受講後、「今日はいい話を聞いた」「ためになる話が多かった」という感想をよく耳にするが、“参考”レベルで終わっていることが多い。「成果につながる」研修にするためにも、まず研修の目的をしっかりと定めてほしい。

例えば、「管理職のマネジメントレベルを上げたい」という場合、次の観点を意識して研修の目的・成果を設定していただきたい。

①誰を対象者とするのか

管理職と言っても、部長なのか次長なのか、課長なのかという対象の階層をはっきりさせる必要がある。

②解決したい課題は何か

選抜メンバーに高い水準のマネジメントを学んでもらうためなのか、管理能力が低いメンバーの底上げを図りたいのかなど、研修を通じて何を解決したいのかを明確にする。

③どんな変化を起こすか

職場でのコミュニケーション力強化なのか、業績マネジメント力の強化なのか、顧客対応力の強化なのか、または管理職としての基本姿勢やマインドの向上なのか、研修によって何を変えたいのか明確にする。

これらを明確にし、研修目的をより具体的に設定することが重要だ。

3.研修の学びを業務につなげることを意識しているか

従業員が研修内容を最大限、業務で活用するためには、リフレクション(振り返り)が大切となる。研修内容をその場限りの学びで終わらせないため、次のポイントでフォローすることを推奨する。

①学びを具体的にどのような業務で生かすのか、目標を設定する
②1カ月後の実施計画を立てさせ、実践した結果を記入させる
③実施計画の振り返りを行う

目標を達成した場合、なぜ達成できたかポイントを整理し、目標が未達の場合、どのようにすれば達成できるかの振り返りを行う。研修後のフォローで、学びのPDCAを回し、研修を実務につなげることが非常に重要である。いわゆる「70:20:10の法則」、つまり人間は70%が仕事の経験、20%が上司・先輩からの指導・アドバイス、10%が研修など座学で成長するからだ。いくら自分が成長できたと研修で実感しても、実際に仕事の成果として研修効果が表れるのは10%にすぎない。

ある意味、研修は「やる気スイッチ」を入れる場なのである。今まで知らなかった知識や気付きを得て、業務に対するモチベーションを上げ、自身の業務にどうすれば生かせるかに力を入れることが重要なのだ。

 

 

教えることは「学ぶ」こと

教育・研修の目的は「学びから自身の業務で成果を出すこと」である。従って、研修後のリフレクションとして、自身の業務に学びをすぐ生かすことや、自身の知識・学んだことなどを上司へ報告するとともに、部下・後輩がいる人は後進の指導・育成へ積極的に取り組み、研修の効果を高めていただきたい。

ローマ帝国の哲学者セネカは、「人は教えることによって、もっともよく学ぶ」との格言を残している。人に教え、質問を受けて答える過程で、借り物の知識が自分の知識へと変化するからである。また、人に教えることを前提にして学ぶと、学習内容の理解は飛躍的に高まることが知られている。

人事部門の担当者は、現在の研修制度や研修内容をいま一度見直してほしい。ちょっとした工夫だけでも、研修の成果が向上するケースは思いの外、多いのである。

 

 

 

 

Profile
渡邉 雄太Yuta Watanabe
アカデミーコンサルティングチームのサブリーダーとして、クライアントの人材開発を支援するとともに人事全般のコンサルタントとして活躍中。また、経営トップの思いの具現化に向け、現場のリーダー・メンバーと一体となった企業変革を推進し、実現することを得意としている。
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