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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2025.09.30

斜陽産業における人材活用~こだわりと固定概念を捨てた全方向施策~ 中和石油

女性が活躍し業績につながる会社へ

北海道札幌市に本社を置く1954年設立の中和石油グループは、ガソリンスタンドの運営を母体とする事業グループです。現在は18店舗を展開し、ガソリンスタンドに付随する整備や車両販売・リース、レンタカー、不動産の各事業、灯油・プロパンガスの配送、アイスクリームの製造・販売、外国人人材紹介サービスの新事業も手掛けるなど、事業の多角化を進めています。

 

当社の主力事業の1つである石油エネルギー事業は右肩下がりが続く斜陽産業と言われており、20年以上前から人手不足に陥ってきました。私は2010年代に発想を変え、男性中心だった店舗業務に女性採用を強化すると応募者が増え始め、現在では男女比率が逆転しました。

 

「女性が多い会社」から「女性が活躍して業績につながる会社」へと、一歩踏み込んだ転換も図りました。そのきっかけは、店長もスタッフも全員が女性という店舗が偶然にも誕生し、1年後に好業績を記録したことです。その店舗のオペレーションを他店舗と比較研究し、その成功要因を標準化して全社的に展開した結果、各店舗の業績も大幅に改善しました。

 

現在も通年で女性社員・スタッフを積極的に採用しており、一般職から店長、幹部へとキャリアを築ける、女性が活躍しやすい環境づくりを推進しています。

 

また、外国人技能実習生の採用も進めており、単なる労働力としてだけでなく、将来のリーダー候補として育成することを目指し、大卒者の採用も開始しました。

 

さらに、日本人社員の定年については目安として「80歳宣言」を掲げ、意欲のある社員が長く働き続けられる環境を整備しています。

 

 

多様性を生かす「人材活用マルチ戦略」

「人材活用マルチ戦略」とは、既存の事業に人を当てはめるのではなく、今いる人材やこれから採用する人材の多様性を生かし、その人材で実現可能な事業へと変革していくアプローチです。例えば、週3日・1日4時間しか働けない子育て中の女性や、日本語がつたない外国人、70歳代の高齢者、性的マイノリティーのスタッフでも、「しっかりと職務を遂行できる」という結果が全てであると考えます。そのため、経験や属性といった従来の条件を問わず採用を行っています。

 

人材活用マルチ戦略は、特に女性活躍で大きな成果を生んでおり、ガソリンスタンドは他社店舗よりも清潔になり、セルフドライブスルー洗車機の売り上げは業界平均の2倍を超える実績となりました。汚れやすい洗車機をこまめに清掃し、清潔に保つという活動が売り上げの向上に直結することが数字で証明され、同様の取り組みを導入した当社の他店舗も次々と業績が向上しました。

 

従来の視点では見過ごされがちだった部分に気付き、実践は容易でも継続が難しい地道な活動を定着させられたのは女性スタッフの功績です。また、接客応対も、一部の男性スタッフに見られた「押し売り型」のトークから、自然な会話の流れで提案する「優しいアドバイス型」へと変わりました。

 

高齢者の雇用延長については、個々のライフプランに応じて希望する年齢まで働けるよう面談を行い、モチベーションを維持するためのサポートを重視しています。外国人社員も70名に増え、作業ルールや業務フローを明文化・動画化して周知を図るほか、継続的な日本語教育も実施しています。

 

現場改善の余地はまだ大きいですが、ガソリンスタンド業界全体が年率3%で縮小を続ける中、当社は対照的に年率3〜4%で伸び続け、SNSでの口コミ評価向上にもつながっています。

 

「自社の今」を全て見直す

当社は、マルチな人材活躍を可能にする制度改革も進めてきました。待遇改善では、2005年にサービス残業を禁止し、男女差のない業務内容や評価にしました。給与・待遇については、年間休日や賃金を増やし、10年前の2015年と比べて年間労働時間は10%以上減少。対照的にスタッフの収入は、平均で10%以上増加しました。業務改善については、費用対効果が見込める業務は、外注化や機械化によって積極的に「省力化」を進めています。マニュアルの動画化や業務ルール・チェックリストの標準化にも注力し、誰もがすぐに活躍できる働きやすい環境を築いています。

 

こうした構造改革を進める上で、私が指針としてきた考え方を共有します。それは、「いまいる人、いまあるもの」で事業を再構築するために、まずは真摯しんしに「自社の今」を見つめ、何ができるかを徹底的に考えることです。その大前提として、あらゆる固定観念を捨て、「思い込みは悪である」との信念のもと、全てをゼロから見直すことが重要です。

 

経営者は、自ら始めた事業を途中で断念しにくい傾向がありますが、感情に流されることなく、客観的な実績に基づいて冷静に自社を評価し、現実と向き合うことが不可欠です。

 

そして、トップの意志として最も重要なのは、全てを「陽転思考」で捉えることです。人材活用を進める際、「女性は非力で車に興味が薄く、休みがちだからガソリンスタンドに向かない」と言われてきました。ですが、実際には、共感力やコミュニケーション能力の平均値は女性の方が高く、清掃など地道な作業の継続力にも優れています。

 

同様に、高齢者は豊富な経験価値を、外国人は若さと意欲的な行動力をもたらしてくれます。一見してネガティブな部分ではなく、ポジティブな部分に着目し、それを最大限に生かせるよう業務を最適化すること。それこそが、本来の経営者や管理職の仕事です。

PROFILE
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杉澤 謙次郎 氏
kenjiro sugisawa
中和石油 代表取締役
1975年北海道生まれ。信州大学卒業後、日本IBMに入社しIT業界に従事。2006年に家業である中和石油に入社。2015年に代表取締役に就任し、さまざまな変革を推進。特に、「新しい挑戦が人を成長させる」という強い信念のもと、女性や外国人、高齢者など多様な人材が活躍できる環境整備を推進している。現在では女性比率が約50%に達し、10~80歳代までの幅広い年代が働く組織を実現している。