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コラム
トップマネジメント変革
経営者は、持続的成長を実現するため「変化を経営するリーダー」でなければなりません。トップ自らが変化を起こす主役であるための着眼点について提言します。
コラム 2025.03.28

Vol.4 過去肯定・現状改善・未来創造

本連載では「チームコンサルティングバリュー クライアントを成功へ導く18のブランド」(ダイヤモンド社、2023年)から抜粋したメソッドをご紹介します。Vol.4では、過去を肯定し、現状を正しく認識しながら、明るいビジョンを示すリーダーシップについて解説します。

 

「在るべき姿」を描き、正しい危機感を醸成する

 

「未来は明るくなければならない」。未来は予測するためにあるのではなく、未来は創るためにある。会社は、顧客と社員の明るい未来を創るために存在し、明るい社会を創るために経営をしているのだ。

 

内閣府の世論調査(「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」2014年)によると、日本人の70パーセントが将来に不安を抱えているという。私は「組織の危機感」を2つの側面からチェックする。一つ目は、直面する危機的状況に対して「どうしよう、どうしよう……」と単に右往左往する危機感、すなわち〝不安感〟である。二つ目は、「あるべき姿から見た現状とのギャップ」である〝不足感〟だ。「今のままではダメだ」「このままではあるべき姿に到達しない」と感じる意識である。正しい危機感は後者からしか生まれない。「正しい危機感とは『不足感』」と一言集約できる。そう考えると、日本人の七〇パーセントが抱えている将来への不安の原因も明確になる。つまり、日本という国家にビジョンがないからである。ビジョンを創造し、国民にそれを示すリーダーがいないから不安なのだ。

 

会社の組織がそうなってはならない。トップマネジメントの仕事の第一ボタンは「ビジョン」をつくることである。それをステークホルダーに知らせ、そのギャップから正しい危機感を醸成することだ。したがって、それが「現状改善」につながる。

 

業績不振や赤字なのに危機感がないトップマネジメントを、私は多く見てきた。逆に、業績が好調なのに、危機感を持って経営にあたるトップマネジメントとも仕事をしてきた。「あるべき姿から見れば常に不足感があるので、危機意識が持続している」と感心したものだ。現状に満足しないのである。志、夢、ビジョンを持っている人の共通点である。ビジョンとはそこへ到達する数値を明確にすることではない。あるべき姿の解像度をどこまで上げることができるか、なのである。解像度が上がれば上がるほど、現状改善のテーマがあきらかになる。そして、正しいビジョンを策定するときのトップマネジメントにとって大切なことは、「過去を丸呑のみ」する肯定感である。トップマネジメントは清濁併せ呑む心を持ち、過去を肯定しながら会社に対して明るい未来を描かなければならない。過去を否定してその逆だけをやろうとしたり、自分の好みのことだけをやろうとしたりする。もちろん、それが「知・選・行」のリーダーシップサイクルの結果であればよいのであるが、そうなっていない場合が多い。

 

したがって、変革のリーダーシップがとれず、全員が賛成する現状維持という選択をして、結局、淘汰の道を歩んでしまっている場合が多い。マネジメント偏重の官僚型トップマネジメントの最たるものである。過去を受け入れなければ今の自分もないし、リーダーシップサイクルもできない。できればその丸呑みが創業の原点であったり、創業のスピリッツであったりするとさらによい。トップマネジメントがそのような気持ちで一枚岩になれたなら、非常に強いリーダーシップを発揮することができるだろう。

 

過去を肯定できなければ、現状をありのまま、素直に受け入れることができなくなる。結果、現状認識を間違えてしまう。過去がどうであれ、あなたが今のトップなのである。過去を反省することはあるだろうし、反面教師とすることもいいだろう。しかし、今、あなたが社長室に座っているのは、その歴史の先にあることを理解するためなのである。過去、現在、未来は一本の線で結ばれてはいるが、時間軸で見れば「今」を生きているだけにすぎない。今という現在から会社の過去と未来をどう見るかは、リーダーであるあなた自身が決めることなのである。

 

したがって、リーダーにとっては、ビジョンを描かず、予測ばかりして不安になり、どうしよう、どうしようと社員に不安感を抱かせ、そうなった過去を否定し、今の現状を改善しないような評論家型のリーダーシップはやがて組織を滅ぼすことになる。注意が必要なのだ。