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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

「あそび」でより良い世界を目指す未来価値創造戦略 酢谷 亮介:ジャクエツの戦略解説

 

戦略的バリューチェーン機能を強化

 

2000年代に入り、多くの園舎の老朽化や共働き家庭の増加による待機児童問題、2016年の認定こども園制度のスタートなどを受けてニーズが多様化すると、同社はバリューチェーンの機能を強化。

 

特に、世の中のトレンドがモノ消費からコト消費へと移る中、商品購入前と購入後にこそ顧客価値が求められると判断し、研究開発や設計、アフターメンテナンスに対する設備投資を実行。専門性のある人材の採用・育成に取り組みながら、製品・サービスの購入前から購入後までの全プロセスで利益を上げられる体制を構築し、付加価値の向上を図った。

 

その一環として設立したのが、2015年に開設した「PLAY DESIGNLAB」だ。同組織は、建築家やデザイナー、医師、研究者、アスリートなど多様な外部フェロー約30名が集まるあそびの研究所である。研究を通して高付加価値のオリジナル商品の開発や、「あそび」を中心とした事業領域の拡大に取り組んでいる。

 

さらに、2019年のホールディングス化を機に福井本社に新工場や開発拠点を新設。企業ロゴやスローガンなどコーポレートメッセージを一新し、「未来は、あそびの中に。」をスローガンに「あそびの環境をデザインすることで、未来価値を創造する。」を新たな使命として定義した。また、事業ドメインを「子ども」から「あそび」に変えることで事業領域は拡大し、異分野連携も活発化している。

 

例えば、コーヒーチェーン店における新店舗設計の安全コンサルティングをはじめ、動物園や美術館、商業施設との連携。さらに、高齢者施設の環境づくりなど福祉分野への参入を果たすなど、子どもに関する知見をあそび環境や安全・安心という横軸でつなぎ、新たな価値を生み出している。

 

メーカーとしてあそびに関する現場の声を聞き、製造し、届ける一方、PLAY DESIGN LABであそびを研究し、構想して社会課題を解決する。この2つを相互作用させながら「未来価値」を創造していく。同社はこれを新たな経営方針として打ち出している。

 

これまでの100年、これからの100年

 

未来価値を創造する一環として作成されたのが、「ブランドブック」と「バリューブック」だ。ブランドブックでは、同社がこれまでの100年間、何を大切にしてきたのか。そして、これからの100年間、あそびを通して社会に対して何ができるのかをつづっている。バリューブックは、「未来価値への9つのアプローチ」を定義した行動指針であり、バリューに基づく現場の成功事例をまとめた「エピソードブック」を通して社内への浸透を図っている。このように、理念やパーパスに共感する社員の存在が、戦略を実装に移す原動力になっている。

 

社会事業として創業し、事業を通して未来に何を残すか。この問いに向き合っているからこそ未来価値創造を戦略へと昇華できる。創業から現在に至るまで、顧客に真摯しんしに向き合って戦略を立て推進する。これがジャクエツの強さの源泉である。

 

PROFILE
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酢谷 亮介
Ryosuke Sudani
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー
困難なことこそ分かりやすく解決に導くことを信条に、クライアント視点でコンサルティングを展開。上場企業から中堅・中小企業まで、クライアントの強みを生かす戦略立案や組織デザインを得意とする。また、人事処遇制度・人材開発体系の構築も数多く手掛け、独自の視点に基づく「現場に合った風土改革」や人材育成支援も高い評価を受けている。