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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

ポジションを明確化した重層的な価値共創戦略 丸紅洋上風力開発

丸紅洋上風力開発

丸紅洋上風力開発 代表取締役社長 真鍋 寿史氏

 

グリーン事業でトップランナーへ

 

タナベコンサルティング・細江(以降、細江) 総合商社である丸紅株式会社の電力ビジネスについてお伺いする前に、まずは丸紅全体の戦略について教えてください。

 

丸紅洋上風力開発・真鍋氏(以降、真鍋) 2022年にスタートした中期経営戦略「GC2024」は、改革の3年間を経た「戦略実践の3年間」と位置付けています。戦略は、従来型の既存ビジネスである「ホライゾン1」、既存事業領域の戦略追求である「ホライゾン2」、成長領域や新たなビジネスモデルを創出する「ホライゾン3」に分かれており、重層的なアプローチによって企業価値を向上させていく方針を立てています。(【図表】)

 

【図表】中期経営戦略「GC2024」の基本方針

出所 : 丸紅「中期経営戦略 GC2024」(2022年2月)よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

また、「グリーン事業※1の強化」と「全事業のグリーン化推進」を明記していますが、既存のグリーン事業はホライゾン1、ホライゾン2に分類されるのに対して、脱炭素ソリューションや新エネルギーはホライゾン3に当たります。「グリーンでトップランナーへ」と明確に発信しているのは商社の中で丸紅だけです。

 

細江 どれほど注力されているかが伝わってきます。事業収益や財務関係について、ポイントをお聞かせください。

 

真鍋 まず、事業指針「SPP」は、「Strategy・Prime・Platform」の頭文字を取っています。Strategyは、戦略ありきの徹底。戦略に基づかない事業は基本的にありません。Primeは、主体的な役割を担うこと。リスクコントロールの側面からも、プロジェクトにおいて主導的な立場になることが重要です。Platformは、社内外の知の掛け合わせによる価値創造。商社は多様な商材を扱っており、元来は縦割り組織ですが、横のバリューチェーンを構築したプラットフォーム型で事業価値の向上や収益力強化を目指しています。

 

収益力強化については、最近はPL(損益計算書)ベースのROIC(投下資本利益率)やRORA(リスクアセット利益率)、ROE(自己資本利益率)を重視するようになっています。中期経営戦略の最終年度を迎えますが、現時点での見通しとして全社的な業績は好調です。1兆円ベースだったフリーキャッシュフローは1兆7000億円になる見通しで推移しており、財務基盤を充実・強化すると同時に、成長投資と株主還元に重点的に配分しています。

 

 

丸紅の電力ビジネス

 

細江 丸紅の電力ビジネスの歴史や変遷についてお聞かせください。

 

真鍋 当社の電力事業は3段階に分けられます。最初は1960年代、国内メーカーが製造した機器を海外に輸出する単品機器売りからスタートしました。しかし、国内メーカーが自力で海外に販売するようになり、1970年ごろからは国や電力会社、電力公社などに対して発電設備の設計を含む一括納入を請け負うビジネスモデルであるEPC事業※2がつくられました。これは、情報通信や鉄道インフラ、水インフラにおいても使われているモデルですが、電力では比較的早い段階から活用されてきました。

 

貿易事業者からEPC事業者への移行が第1段の脱皮だとすれば、1990年代半ばからスタートした長期売電契約付のIPP(独立系発電事業者)への流れが第2段の脱皮です。発電所の納入を丸ごと請け負うEPC事業に対し、発電した電気を売るところまで手掛けるサービス型のビジネスモデルのIPP事業は、今も当社の主要なビジネスモデルとなっています。

 

2000年以降になると、丸紅としてはIWPP事業※3の拡大に注力しています。おかげさまで、電力事業に関しては商社の中でも業界1位のポジションを獲得しています。

 

そして、今は第3段の脱皮としてIPP事業から、グローバル総合電力事業者への脱皮を図っている転換期と言えます。発電と電力サービスをつなげる仕事が重要になっていくため、電気を最終ユーザーに販売するところまで手掛けていく必要性が高まっています。

 

細江 グリーン事業は企業単位では取り組みが進んでいますし、政府も後押しするなど市場は拡大傾向にあります。国内外で事業を展開されているのですか。

 

真鍋 世界20カ国で事業を展開しており、海外に49案件、国内32案件を手掛けています。特に、アジアや中東に多くの発電所を持っており、国内外合わせて発電量は約1万1400MW(メガワット)と民間では国内トップの規模を誇ります。そのうち、国内の発電量は563MW。海外と比べて小規模ですが、ほとんどは再生可能エネルギーの発電所です。例えば、長野県の三峰川電力は流れ込み式小水力発電事業と太陽光発電事業を運営しており、CO2(二酸化炭素)を排出しません。

 

細江 商社で水力発電事業を手掛けるのは珍しいですね。社名にもある洋上風力はいつごろから手掛けているのでしょうか。

 

真鍋 2010年に英国のガンフリート・サンズ洋上風力発電事業に参加しましたが、風力発電をけん引するヨーロッパの案件に参加した初めてのアジア企業でした。その後、2012年に洋上風力発電に必須のSEP船(自己昇降式作業台船)5隻を保有するシージャックス社を産業革新機構とともに買収、2013年にはアイルランドディベロッパーのメインストリーム社に出資、2015年には英国のウェスタモスト・ラフ洋上風力発電事業に参加、2022年には最大発電量2.6GW(ギガワット)というスコットランドの海域で多数のウィンドファームを建設するプロジェクト「Scot Wind(スコットウィンド)」の入札に英国企業とデンマーク企業との3社連合で参加し、アバディーン沖の海域リース権を獲得しました。

 

細江 国内でも洋上風力の案件はありますか。

 

真鍋 国内では、2013年に福島浮体式洋上ウィンドファームの運転を開始したのが最初です。東日本大震災後の原発停止を受け、福島県に新たな電源をつくろうと動き出しました。再生可能エネルギーの中でも、浮体式の洋上風力発電はより沖合の水深が深い場所につくります。震災直後からスタートした同プロジェクトにおいて、丸紅は取りまとめ役として事業を推進しました。2019年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金を使った北九州浮体式洋上風力発電の実証事業がスタート。さらに、2020年に秋田港・能代港・洋上風力発電建設工事が始まり、2023年1月から商業運転が開始されました。実質的には、これが国内初の洋上風力発電案件であり、私も携わっていました。

 

 

 

PROFILE
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細江 一樹
Kazuki Hosoe
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 本部長 エグゼクティブパートナー
アパレル商社を経て、2006年タナベコンサルティング入社。2021年より北海道支社副支社長兼教育・学習ビジネス研究会リーダー、2024年現職。学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとしており、大学、専門学校、高等学校、こども園などにおいて、経営改革の実績を持つ。また、「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げるコンサルティングにも高い評価を得ている。著書に『教育改革を先導しているリーダーたち』(ダイヤモンド社)がある。