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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

リユースで世界をつなぐソーシャルビジネス戦略 エコリング

エコリング

エコリング 代表取締役 桑田 一成氏
「何でも買い取る」「全て売り切る」リユースビジネスモデル

 

タナベコンサルティング・巻野(以降、巻野) 株式会社エコリングは、創業者である代表取締役の桑田一成氏が2001年5月に設立されました。ブランド品や不要品の買い取りを中心に、リユースサービス事業を軸に業界をけん引するパイオニア企業です。

 

エコリング・桑田氏(以降、桑田) 大学を卒業して7年間勤めた後、IT系企業を起業しましたが、より高い技術を持つ競合が現れてやめました。生活のために自宅で、身の回りの物をネットオークションで販売するうちに「これはビジネスとして成り立つ」と気付き、買取専門店を立ち上げました。しかし、資金がないのでボロボロな商品しか買えず、しかも早く全てを売り切らないといけません。

 

ただ、お客さまはもちろん「高く買ってほしい」のですが、それよりも「部屋をすっきりさせたい」から何度も利用されるのです。結果的に、必死になって編み出したのが「何でも買い取る」ことで、店頭から手ぶらで帰っていただくスタンス。質屋さんとは違う、当時の世の中にはないビジネスモデルでした。先行者利益で競争相手がなく、勢い良く事業を伸ばしました。海外展開やフランチャイズ事業、オークション事業も始めて、今は国内外21社のホールディングスグループです。

 

何でも買う、ということは、さまざまな不要品も買い続けるわけです。国内で徹底的に売る努力をして、それでも売れない商品はタイで販売します。また、フリーマーケットへの出品や、恵まれない生活環境の方々を支援したり寄付したりしています。買い取った物は100%リユースし、世界をもっとハッピーにすることを目標に日々、活動しています。

 

巻野 苦労の多いスタートから、何でも買い取り早く全て売り切る原体験が生まれ、顧客ニーズともマッチングして独自の強みになったのですね。創業以来23期連続の黒字で、コロナ禍も伸び続けた理由は何でしょうか。

 

桑田 2017年11月に立ち上げた「エコリング・ジ・オークション」(エコオク)が、コロナ禍で飛躍的に伸びました。買取専門店の伸びが鈍化し、私たちにできる新たなモデルとしてウェブオークションのプラットフォーム事業にもかじを切りました。

 

全国にあったリアル市場がコロナ禍で経営難になり、姿を消しました。でも、私は「雇用調整などで生活に困る人が増えるこんな時こそ、お金になる物を買い取る仕組みを動かさないといけない」と危機感を抱きました。企業体力が続く限り支援していこうと続けた結果、リアル市場を利用していたお客さまや取扱商品の物量が、一気に増えました。

 

巻野 事業モデルの転換と社会課題解決型の使命感が、成長につながりました。直近の利益率は10%超と非常に高収益で、本当に素晴らしい業績です。

 

 

戦わずに「共に勝つ」戦略

 

巻野 エコリングの使命感の根幹を成すのが、経営理念「価値を見いだす使命共同体」です。

 

桑田 リユース業界は江戸時代から明治、大正、昭和へと、扱う商品が移り変わってきました。私たちは時代に合わせて商品の価値を見いだし、ラインアップを変えることで永続する企業になれるということです。その思いから「価値を見いだす使命共同体」という経営理念をつくりました。

 

もう一つ、困っている社員がいたら、残りの全社員でバックアップし助け合う組織を目指すことも、「共同体」の言葉に込めています。

 

巻野 在りたい姿を、端的に分かりやすくまとめた一文で、社員の皆さんの旗印になっています。理念を実現する戦略も独特の考え方です。

 

桑田 切磋琢磨せっさたくまして業界自体を盛り上げる「共に勝つ」という考え方です。それは、戦わないということ。「戦いを略す」ことから本当の「戦略」が生まれます。競合他社と同じことをやるのは足を引っ張るだけです。それは競争じゃなく業界のパイを取り合う戦争で、何も生まれない。私たちがやるのは競争で、業界でまだ誰もやってないことをすれば邪魔にならないし、成功することで業界に気付きが生まれ、まねしてもらえば良い。そんな立ち位置で戦略を練り、全社員に伝えています。

 

巻野 戦略とは一般的に、ライバルにどう勝つかを考えます。「共に勝つ」はエコリングが先行して業界を引っ張り、同業他社にも新たな市場を提供していく「戦わない戦略」なのですね。

 

桑田 戦わないためには、競争相手を知る必要があります。やりたいことがあってもバッティングしたら、戦争になってしまいますから。絶対に戦わずに協調性を保ちながら、競合他社の社長になった気分で、どんな方向性へ進もうとしているのかを見極めています。必ず誰もやってない「穴」がありますから、そこを狙って進みます。

 

また、業界の慣習にそぐわず利益至上主義で高収益を上げるライバル企業からも、好ましくない感情はいったん抜きにして、そこに必ずある何かしらの「学ぶべき魅力」を研究し続けることも大切だと思っています。

 

PROFILE
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巻野 隆宏
Takahiro Makino
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン エグゼクティブパートナー
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。中小企業、中堅企業から大手企業まで、数多くの企業の持続的な変化と成長をサポートし、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に、事業の選択と集中による高収益ビジネスモデルへの変革を手掛けている。