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コラム 2026.03.31

建設業の生産性改革、データが示す課題と突破口

日本の建設業の労働生産性は製造業の半分以下。2035年度には129万人の技能労働者不足が予測される中、国土交通省は生産性1.5倍を目指す「i-Construction 2.0」を推進している。データが示す建設業の生産性改革の現在地と突破口を探る。




製造業の半分以下、目立つ建設業の低生産性

日本の建設業が直面する最大の課題は、他産業と比較して著しく低い労働生産性である。建設経済研究所の「建設経済レポートNo.77」(2025年3月)によれば、2023年の建設業の1人1時間当たりの労働生産性は実質値で3016円だった。これに対し製造業は6128円と、建設業の約2倍の水準にある。(【図表1】)


【図表1】製造業および建設業の労働生産性の推移

【図表1】製造業および建設業の労働生産性の推移

出所 : 建設経済研究所「建設経済レポートNo.77」(2025年3月)よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


ところが、企業規模別に見ると様相が異なる。資本金10億円以上の大手建設企業の労働生産性は年間1人当たり約1593万円と、資本金1000万円未満の小規模企業の約3倍に達する。しかし、建設業全体では従業員の多くが小規模法人に集中しており、この構造が業界全体の生産性を押し下げる要因となっている。


長期的な推移を見ると、建設業の労働生産性は1990年代後半から2010年代初めにかけて大きく低下した。1994年に3197円だった実質労働生産性は、2008年には2359円まで落ち込んだ。バブル崩壊後の建設投資の急減が主因である。ただし、近年は急速に回復傾向にあり、2023年には約3016円まで回復した。2008年以降の15年間で1.2倍以上、2013年以降の10年間で1.1倍以上の改善を見せている。


興味深いのは、この改善の主因が、就業者数と労働時間の減少にある点だ。2016年以降、労働生産性と就業者数の相関係数は約−0.77、労働時間との相関は約−0.92と強い負の相関を示しており、人手不足で分母が小さくなることにより、皮肉にも生産性指標を押し上げている側面がある。



2035年度に129万人不足の危機

建設業の生産性向上が喫緊の課題となっている背景には、構造的な人手不足と急速な高齢化がある。厚生労働省の資料によれば、「建設業就業者」は1997年の685万人をピークに減少を続け、2024年には477万人とピーク時から約30%減少した。このうち「技能者」に限れば、1997年の455万人から2024年には約300万人へと、実に約34%も減少している。


さらに深刻なのは、年齢構成のゆがみだ。2024年の建設業就業者のうち、「55歳以上」が36.7%を占める一方、「29歳以下」はわずか11.7%に過ぎない。技能者に限れば、「60歳以上」が25.8%と約4分の1を占めており(【図表2】)、10年後までには大量離職が避けられない状況だ。日本建設業連合会が2025年7月に公表した「スマートなけんせつのチカラで未来を切り拓く―建設業の長期ビジョン2.0―」では、2035年度に129万人の「技能労働者」不足が生じると予測している。この危機的状況を打開するため、日本建設業連合会は2035年度の生産性を2025年度比で25%向上させる目標を掲げた。これは単なる努力目標ではなく、建設業が存続するための必達条件と言える。


【図表2】年齢階層別の建設技能者数

【図表2】年齢階層別の建設技能者数

出所 : 厚生労働省「第71回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会」(2025年9月24日)の「資料1 最近の建設産業行政について」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


人手不足の一因は、建設業の労働環境の厳しさにある。国土交通省「令和7年版国土交通白書」(2025年6月)によれば、2023年度の建設業の年間の「平均労働時間」は2018時間で、全産業平均より約62時間長い。にもかかわらず、建設業生産労働者の「年間平均賃金」は432万円と、全産業平均の508万円を大きく下回っている。


2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、原則として月45時間・年360時間が上限となった。この「2024年問題」は、建設業に「働き方改革」を迫る契機となったが、同時に生産性向上なしには事業継続が困難になることを意味している。


休日取得の実態も厳しい。国土交通省の2023年度調査では、建設工事全体で最も多い休日取得状況は「4週6休程度」であり、「4週8休(週休2日)以上」を確保できている現場は限られている。


公共工事でも建設技術者・技能労働者の約3~4割でしか週休2日を導入できておらず、民間工事では約1割強に過ぎない。完全週休2日制の実現は、建設業にとって依然として高いハードルとなっている。


※ 厚生労働省「第71回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会」(2025年9月24日)の「資料1 最近の建設産業行政について」



i-Construction 2.0が生産性改革への道を開く

こうした危機的状況を打開するため、国交省は2024年4月に「i-Construction 2.0―建設現場のオートメーション化による生産性向上(省力化)―」を策定した。これは同省が2016年から推進してきた「i-Construction」の進化版で、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍に向上させることを目指す野心的な取り組みである。


i-Construction 2.0の中核は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」の3本柱だ。


施工のオートメーション化では、自動施工・遠隔施工の安全ルールを策定し、2024年度から現場での試行工事を開始。異なるメーカーの建設機械を同一プログラムで動作させるための共通制御信号の策定も進められており、研究開発用のオープンプラットフォーム「自律施工技術基盤OPERA」も整備された。


データ連携のオートメーション化では、BIM/CIMの原則適用を2023年度から開始し、3次元設計の標準化を推進。2026年度を目標に、3次元モデルから算出される数量を直接積算に活用するツールの開発・試行も計画されている。


施工管理のオートメーション化では、遠隔臨場を検査にも拡大し、画像解析による配筋計測技術を導入するとともに、大型構造物へのプレキャスト製品適用を推進し、リモート化・オフサイト化を進めている。


では、これらの取り組みは実際にどの程度の効果を上げているのだろうか。前述した国交省の「i-Construction 2.0」によれば、これまでのi-Constructionの取り組みにより、ICT施工の導入で平均約21%の作業時間短縮が実現したとしている。また、ドローンを活用した測量で、従来手法の約4割の人員で実施可能になった。建設業の付加価値労働生産性は、2021年度に2015年度比で約9.2%増加しており、効果が数字として表れ始めている。


ICT施工の普及も着実に進んでいる。同資料によると、ICT施工が、2022年度時点において、ICT施工を実施できる直轄土木工事の87%で実施され、2015年度と比較して平均約21%の作業時間の短縮効果を確認したという。


また、地方自治体への展開も加速している。都道府県・政令市におけるICT施工の公告件数は、2016年度の84件から2022年度には1万3429件へと約160倍に急増しており、全国的な広がりを見せている。


民間企業の取り組みも本格化している。日本建設業連合会は2016年に「生産性向上推進要綱」を策定し、2025年度までに、2015年度比で10%の生産性向上を目標に掲げた。2021年11月の理事会では、この目標を2020年度時点で達成したことが確認され、さらに「2025年度までに2020年度比で10%向上」という上方修正目標を再設定した。


そして、2025年12月には「生産性向上推進要綱2.0」を策定し、2030年度目標として「2025年度比10%向上」、2035年度目標として「2025年度比25%向上」を掲げている。



デジタル技術が開く「生産性1.5倍」の未来

財務省は2025年11月7日の財政制度等審議会で、i-Construction 2.0の目標達成には年平均2.4%程度の生産性向上が必要とし、公共事業関係費も国土交通省の掲げる生産性向上の目標を織り込んだ水準とすべきだと提起した。これは生産性向上を前提とした予算編成への転換を意味しており、建設業界全体に一層の取り組み加速を促すものだ。


日本の建設業は今、歴史的な転換点に立っている。人口減少と高齢化という構造的な制約の中で、デジタル技術を駆使した生産性改革と働き方改革を同時に実現しなければ、社会インフラの維持すら困難になる。


しかし、データが示すように、ICT施工やBIM/CIMの導入により、確実に成果は上がり始めている。2040年に向けた生産性1.5倍という目標は決して絵空事ではなく、官民の取り組みにより実現可能な射程に入っている。


中堅・中小企業の経営者にとって、建設業の生産性改革は、自社の生産性向上を考える上でも示唆に富む先行事例と言えるだろう。