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タナベコンサルティンググループの経営コンサルティングの基盤となる考え方や経営トレンドに関するコラムです。
コラム 2025.12.26

中小企業の未来を拓く「100億宣言」の挑戦と可能性

「100億宣言」概要とメリット

「100億宣言」とは、中小企業が売上高100億円を目指すことを公に宣言し、その実現に向けた具体的な取り組みを進めるためのプログラムだ。中小企業庁と中小企業基盤整備機構が主導するこの取り組みには、企業の成長を支援するためのさまざまなサポートが用意されている。


「宣言」には、「1. 企業概要(売上高、従業員数など)」「2. 売上高100億円実現の目標と課題(売上高成長目標、期間、プロセスなど)」「3. 売上高100億円実現に向けた具体的措置(生産体制増強、海外展開、M&Aなど)」「4. 実施体制」「5. 経営者のコミットメント(経営者自らのメッセージ)」を盛り込むことにより、売上高100億円を実現するための企業の強いコミットメントと具体的な実現可能性を明らかにし、日本および地域経済を支える中小企業の加速的な成長に向けた機運の醸成を図る。


帝国データバンクの調査「『100億宣言』企業の分析調査」(2025年7月)によると、7月7日時点で1419社が宣言しており、これは応募対象となる年商10~100億円未満の中小企業約9万3000社のうち70社に1社が宣言している計算になるという。


宣言企業を業種別に見ると、最も多いのは「製造業」(構成比40.2%)。次いで「卸売業」(同16.7%)、「サービス業」(同13.1%)が続く。代表者の年齢別に宣言率(宣言企業÷対象企業×100)を見ると、「30歳代以下」が全体平均(1.40%)の2倍超である2.94%だった。続く「40歳代」も2.38%と高く、若手社長のチャレンジングな姿勢がうかがえる。(【図表】)


【図表】「100億宣言」企業代表者の年齢別宣言率

「100億宣言」企業代表者の年齢別宣言率

出所 : 帝国データバンク
「『100億宣言』企業の分析調査」を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


企業が持続的に成長するためには、経営者が明確な目標を掲げ、それを社内外に発信することが不可欠だ。現在の売上高が数億から数十億円の企業にとって、「100億円」という目標は、一見すると遠い未来の話に思えるかもしれない。しかし、目標を掲げることで、企業の成長スピードは確実に変わる。100億宣言をすることで得られる主なメリットを次に挙げたい。


1. 目標・優先順位の明確化
売上高100億円という具体的な目標を掲げることで、経営者自身の意識が変わり、経営資源の配分や戦略の優先順位が明確になる。これにより、成長に向けた意思決定が迅速かつ的確に行える。「成長」への漠然とした思いを、具体的な行動計画に落とし込むきっかけとなるのである。


2.補助金・優遇税制、専門家などの支援
「100億円」という目標は単なる数字ではなく、企業の成長意欲を象徴するものである。政府は、成長を目指す企業に対して、「中小企業成長加速化補助金」をはじめとする補助金や、経営戦略の策定や資金調達、マーケティング支援など、実践的なサポートを提供している。


3. 外部からの信頼獲得
目標を公にすることで、外部のステークホルダーからの信頼を得やすくなる。「この会社は本気で成長を目指している」と認識されることとなり、資金調達や新規取引の機会が増え、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性が高まる。


4. 経営者ネットワークの構築
100億宣言を行った企業同士が交流し、情報共有や連携を図る場が提供される(経営者ネットワーク)。これにより、地域や業種を超えたネットワークが構築され、他社の成功事例や課題解決のヒントを得られる。この取り組みが、機運醸成や、より多くの経営者が100億企業を目指しやすくなる「好循環」を生むと考えられる。


5. 社員のモチベーション向上・一体感醸成
「売上高100億円を目指す」という大きな目標は、社員にとっても刺激的だ。自分たちの仕事が会社の成長に直結していると実感することで、日々の業務に対するモチベーションが高まる。また、目標を共有することで、社員一人一人が「自分たちの会社はどこを目指しているのか」を理解し、同じ方向を向いて行動するようになる。これにより、組織全体の一体感が醸成される。



「100億宣言」企業の事例

実際に宣言をした企業の事例を製造業、卸売業、サービス業から1社ずつ紹介したい。


1社目は突っ張り棒をはじめ家庭日用品の企画、開発などを行う平安伸銅工業。同社は2033年までに売上高100億円を目指し、既存事業においては新商品投入とアップセル・クロスセル強化により年率10%の成長を、新規事業においてはものづくりを軸とした事業創造・変革により年率20%の成長を目指す。


そのためには突っ張り技術の水平展開をはじめ既存事業の強みを生かしつつ、新素材や新技術の開発を進めることで、福祉・建材・防災など社会課題に対応する商品を創出。また、「暮らすがえ」文化の発信を軸に、共創パートナーの開拓や定量・定性データの収集で新たなニーズを探索し、SNSやイベント、ECを活用したユーザーとの接点を拡大しながら文化の普及を図る。体制再編や専門家の活用、BtoB製品開発、物流体制構築などを計画中だ。


2社目は金属鋼材の卸売りおよび研磨加工、板金加工を手掛ける石原金属。2035年の売上高100億円達成に向け、業務の根本から見直しを図り、戦略的に取引量を拡大していく。また、付加価値の高い加工部門の売り上げ比率を向上するため、M&Aや東南アジアの市場開拓を実現し、年率11%程度の成⾧を目指すという。


そのために、基幹システムの開発や業務のDX化を通じて効率化と属人性の排除を図り、製造体制強化のためのM&Aを検討する。加えて、JETRO(日本貿易振興機構)を活用した東南アジアへの販路拡大や、産学連携による独自技術「湿式研磨」を強化し、競争力を高める。


計画を推進する具体的な施策としては、業務マニュアルや教育プログラムの整備、DX推進人材の登用、技術や知識の標準化を通じて業務効率化を図るとともに、加工部門の拡大に伴う人員配置や部署連携を強化し、海外市場開拓の専属チームを設立することで、組織全体の競争力を高めることを挙げている。


3社目は猿田彦珈琲だ。同社はコーヒー専門店「猿田彦珈琲」の運営、生豆の産地直接取引・焙煎ばいせんなどを手掛ける。2029年の売上高100億円達成に向け、主力の店舗事業と注力中の法人営業・卸やECの拡大により、年率17%程度の成⾧を目指す。


成長として挙げられているのは、駅前など好立地への出店を通じたブランド力向上や、新規顧客の獲得。また、高品質な商品や快適な空間の提供、限定メニューの開発により顧客満足度とリピート率を向上させるという。さらに、複数事業の展開に対応したサプライチェーンの最適化や物流効率の改善を進め、全社的なDXを加速させることで、データに基づいた意思決定や顧客体験の向上、業務プロセスの効率化を実現する。


店舗開発を円滑に進めるための連携体制の構築や、新店舗立ち上げ時のスタッフ育成を強化。加えて、サプライチェーンマネジメント機能を強化し、調達から配送までを一元管理する専門チームを設置するとともに、店舗別の収益性分析やKPI(重要業績評価指標)管理を徹底し、投資効率を最適化して財務体質を改善する。


今は到底100億円に届かない企業規模であっても、売上高100億円の実現は、決して夢物語ではない。実際に、多くの企業が目標を達成し、新たなステージへと進んでいる。重要なのは、「自分たちにもできる」という信念を持ち、第一歩を踏み出すことだ。


※ ライフステージや家族の成長、季節や気持ちの変化に合わせて、暮らしに自ら手を加え、ありたい「私らしい暮らし」を実現していくこと