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コラム
海外リポート
タナベコンサルティンググループ主催の海外企業視察リポートです。
コラム 2020.01.31

フランス視察2019リポート

 

タナベ経営の新規事業開発研究会は、2019年9月30日~10月5日の日程で欧州のスタートアップ大国フランスを訪問し、スタートアップ企業やそれを支援するベンチャーキャピタル、インキュベーション施設など11社を視察。新たな事業を生み出すノウハウについて大きな学びを得た。今回はそれらのうち、4社を紹介する。

 

 

STATION F
わずか2年で創り上げた最高水準のスタートアップエコシステム

 

STATION Fは、2017年にフランス人実業家で、大手通信企業Freeの創業者でもあるXavier Niel氏によって立ち上げられた世界最大級のインキュベーション施設。現在約1000社3000名が入居しており、大学や政府の機関、民間企業(Google、Amazon、Appleなど)のサポートサービスを受けることができる。

 

入居企業は6カ月に1度、入れ替わる仕組みとなっている。入居できるのは応募企業のわずか9%で、どれだけダイナミックな取り組みができるか、意欲があるかを世界中の100の実業家がインタビューで見極め、合否を決定している。以前のフランスでは「公務員になりたい」という学生が多かったが、今は「実業家になりたい」という学生が増えている。若くして成功した人を実際に見ると、大企業で働くのではなく自ら起業したいと考えるようになるもの。STATION Fなどの民間サポートや政府のサポートなど、官民を挙げたサポート体制が若者の意識を変えている。

 

 

 

DC BRAIN
海外からも注目されるBtoB向けAIで戦略的に勝つ

 

DC BRAINは2014年に誕生したスタートアップ企業。現在の従業員数は30名だが、その数は毎年倍増している。AIをベースにしたソフトウエアの開発を行っており、複雑なネットワークの運用をいかに最適化できるかが事業目的である。

 

2014年にまず取り組んだのは、エネルギー関連企業のネットワーク最適化だ。活用されないまま放置された膨大なデータの可視化とその活用によって、年間で数百万ユーロの節約ができるまで生産性を高めることに取り組んだ。

 

フランスのR&D(研究開発)のコストは北欧に比べ低いというメリットがあり、MicrosoftもFacebookもフランスにR&D施設を持っている。また、フランスのAIの取り組みに関しては、エネルギー、健康、環境関連のBtoB(法人向け)に巨額の資金が投入されている。というのも、BtoC(消費者向け)の個人データの活用は欧州全体で禁止されており、大々的に行っている米国や中国に勝ち目がない。勝てる部分はBtoB向けAIということで、国として戦略的に取り組んでいるのである。

 

 

 

Orange Digital Ventures
Orangeグループの戦略に沿って
相乗効果を生み出せる企業に投資し、イノベーションを生み出す

 

フランスの主要電気通信事業者の一つであるOrangeは、世界中で16万6000人の従業員と2億3200万人の利用者を抱える大企業だ。Orangeグループのコーポレートベンチャー部門・Orange Digital Ventures社はフランスだけでなく、アフリカにも投資を行っており、投資事業はフィンテックやIT事業が多い。

 

Orangeとの相乗効果が見込めるか、グループの戦略と合致しているかが投資のポイント。グループが進出している国の情報共有や進出支援など企業レベルに合わせてサポートしている。1年間に投資先として調査するのが1200社、その中の1%以下に投資しており、これまで5年間で1億5000万ユーロの投資実績を有する。Orange社内では、意思決定を迅速に行うため、マネジメントのヒエラルキーをなくしている。また、多様な職種のメンバーが考えをシェアすることで、新たな事業を生み出し続けている。

 

 

 

 

IOM Technology
開発スピードを重視し
1億ユーロの資金調達を実現したスタートアップ企業

 

2019年に設立したIOM TechnologyはIoT分野で活動するフランスの新興企業。医療分野の「相互運用可能なソリューション」の設計・開発・マーケティングに特化し、患者のケアに関与する全ての医療関係者(遠隔相談プラットフォーム・ヘルスセンター・医師)がアクセスできる医療クラウドを構築している。

 

言語やサービス利用方法に関しては、初めから世界を想定して開発している。同社はこのほど、民間の投資家を募り、1億ユーロの資金調達を実現。幹部には、医療関係の優秀な人材を登用している。事業立ち上げのスピード、製品開発のスピードは速く、9カ月間で50の医療サービスを開発した。

 

 

なぜ、フランスにはスタートアップが多く誕生するのか?

 

そのポイントは3点ある。

 

1.スタートアップをサポートするエコシステムの構築

公共および民間でスタートアップをサポートするエコシステムが確立されている。また、資金面の援助だけではなく、スタートアップと一緒に成果を出すことに前向きである。

 

2.スタートアップして何かを成し遂げたいという野心

収益を上げる、世界中に広めるといった起業家としてのビジョン、正しい野心が若者全体に強くある。

 

3.将来を視野に入れた戦略的思考

R&Dといった機能において、世界中の大企業を魅了できている。また国を挙げて注力しているAI分野では、「BtoC分野では勝てないのでBtoB分野で勝つ」というように戦略的な思考で諸施策が実施されている。

 

欧州のスタートアップ大国フランスに学ぶべきスタートアップスピリッツは次の2点である。

 

1.スタートアップ企業とタイアップして成果を出すイメージを日頃から持つ

スタートアップ企業と取り組むと何ができるのか、日頃から視野を広げてイメージすることが必要である。“何か一緒に面白いことをやろう!”といった漠然とした動機からスタートすることはない。“これを成し遂げたいから一緒に成果を出そう!”という理念に基づく明確なビジョンからスタートする。そのためにどの企業と組み、いつまでに成果を上げるかを明確に持つ必要がある。

 

2.スタートアップにとって魅力的な働き方や成果の上げ方を構築する

「ビッグビジョン、スモールスタート、クイックインパクト」。つまり、大きな目的・目標を掲げ、小さいことから始めて、早く成果を示す、という思考になる必要がある。また、初めから世界を視野に入れることも重要である。このように、思考をスタートアップに合わせることが重要であり、それは「誰にも負けない情熱を持つ、正しい野心を持つ、そして、常に未来を考える」ということである。