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コラム
海外リポート
タナベコンサルティンググループ主催の海外企業視察リポートです。
コラム 2019.08.30

イタリア視察2019リポート

タナベ経営の「ナンバーワンブランド研究会」は2019年4月15~17日、参加企業18社(22名)と共に北イタリアの4都市(ミラノ・ベローナ・トリノ・ボローニャ)を訪問し、付加価値の高いものづくりを展開する企業7社を視察。地方創生のブランディング戦略について大きな学びを得た。今回はそれらのうち、4社を取り上げて紹介する。

Torino/トリノ
Maserati マセラティ

マセラティ(エミリア=ロマーニャ州モデナ)は1914年に設立され、現在はフィアット社傘下にあるスポーツカーメーカーだ。「クアトロポルテ」「ギブリ」「グランツーリズモ」などのモデルを展開。同社のクルマの特徴はエンジン音と加速力(フェラーリがエンジンを供給している)である。近年、日本での人気が高まっており、ここ10年の売り上げは約10倍の伸びを示すなど好調という。

現在は量産ラグジュアリーブランドへの変化を目指し、従来の少量生産から転換して拡大戦略を進めている。見学したトリノ工場は大量生産へシフトしており、平均生産数目標は日産70台だった。工場の従業員数は1760名で、その7割が男性である。ただ、最終工程の組み立て作業では手先の器用な女性が多かった。

安全・コスト・オートメーション化への取り組みや、生産管理、品質コントロール、人材育成、エコ対策を重視した活動を展開。生産ラインを含めトヨタ自動車など日本のメーカーを相当に研究していることがうかがえた。

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Milano/ミラノ
Ermenegildo Zegna エルメネジルド・ゼニア

エルメネジルド・ゼニア(ロンバルディア州ミラノ)は、言わずと知れたイタリアを代表するファッションブランドである。1910年にエルメネジルド・ゼニアがテキスタイルメーカーとして創業。1968年にプレタポルテ(高級既製服)事業を、1972年にはパターンオーダー(基本パターンを選んで自分の体型に調整するもの)事業を開始した。

また、1980年代にミラノとパリで単独ブランドの店舗を展開。現在は80以上の国・地域の555店舗(うち直営店は311店舗)で販売されている。紳士服だけでなく革小物やワイヤレスヘッドホン、iPhone専用カバー、高級車(マセラティ)の内装など、幅広いライフスタイルのジャンルを手掛けている。

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Verona/ベローナ
Santa Margherita サンタ・マルゲリータ

サンタ・マルゲリータはベネト州ベローナに本社を置くテラゾーメーカー。テラゾー(terrazzo)は、天然大理石を砕いたチップをセメントや樹脂などで固めた人造大理石※1のことで、主にキッチンカウンターや洗面台、壁・床などの内装材として用いられる。

ベネト州ベローナは赤い大理石「ロッソベローナ石」の産地として知られる。同社は50年以上にわたる実績を持ち、天然大理石のようなテクスチャー(質感)を作り出す技術力が強み。また、世界市場を早くから開拓してきたパイオニア的存在で、製品は70カ国に輸出されている。同社はライバル社との競合を避け、顧客ニーズに応じて地域で連携し、製品を供給しているのも大きな特徴だ。

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Bologna/ボローニャ
Alce Nero アルチェネロ

イタリアは欧州最大の有機農地面積を持つ「有機農業先進国」である。耕地面積に占める有機農業面積は14.5%(2016年は179.6万ヘクタール)で、日本は0.2%(1.0ヘクタール)にすぎない※2。そのオーガニック農法の先駆者がアルチェネロ(エミリア=ロマーニャ州ボローニャ)だ。1977年に設立された農業協同組合で、欧州でいち早く有機農法を実践したことで知られる。同社の製品は種まきから収穫、梱包の全工程を厳格な品質管理体制でチェックしており、世界中から高い評価を得ている。

6000ヘクタール以上の有機農地を運営し、同国内の1000名を超える農家や養蜂家、生産加工者などが所属する。製品(約300種類)はパスタ、コメ、トマトピューレ、青物野菜、豆類、フルーツ・野菜ジュース、バルサミコ酢、オリーブオイル、ハチミツやポタージュ、ベビーフードまでそろえる。有機食品の需要増加を背景に、同社の売上高は2000年の917万ユーロから、2017年には7800万ユーロと8.5倍に拡大した。

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ラグジュアリーブランドを支える四つのポイント

ミラノやベネチア、トリノなどを擁する北イタリア地方は、いわゆる“ブルーバナナ”※3を形成する欧州屈指の先進工業地帯だ。また世界的なラグジュアリーブランドの発信源として、つとに知られる。プラダ、アルマーニ、フェラーリ、カッシーナ。これらの名だたるブランドは全て北イタリア発である。

さらにパルミジャーノ・レッジャーノ(チーズ)やプロシュット・ディ・パルマ(生ハム)、バローロ(ワイン)など、食品分野でも高付加価値な製品を供給し、世界市場で盤石な産地ブランドを確立している。この「Made in Italy」のブランド力を支えるのが、地場の中小企業だ。

イタリアでは、中小企業の割合が99.9%(2017年/欧州委員会、日本は99.7%)を占め、職人によるものづくりが経済の土台を支えるなど産業の構造が日本とよく似ている。同国のブランディングへの取り組みは、日本企業のロールモデルとして大いに参考になる。

そうした趣旨のもと、タナベ経営・ナンバーワンブランド研究会は北イタリアの企業視察を実施した。現地訪問したイタリア企業の工場・店舗視察を通じて得たポイントは、「地域連携」「伝統と革新性」「揺るぎない自信」「語り継ぐ歴史」という四つにまとめられる。これらは日本の中小企業のブランディングでも十分に実行可能である。自社でブランディングを進める際は、これらのポイントを念頭に検討していただきたい。

※1 大理石の粉や砕石を全く含まない樹脂製の代用品は“人工大理石”と呼ぶ
※2 農林水産省「有機農業をめぐる事情」(2019年3月)
※3 英国南部からライン川流域を経て北イタリアへ至る、欧州で特に発展した地域。湾曲型に連なる形と欧州旗の青色からそう呼ばれる