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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2017.10.31

イノベーションのために必要な たった一つのこと:村上 幸一

 

どこでイノベーションを学ぶか

ビジネスの世界に限らず、世の中の全ての発明や革新はゼロから生まれていない。イノベーション(Innovation)ではなく、“レボリューション”(Revolution)と呼ばれる18世紀後半の産業革命でも、その原動力となった蒸気機関や紡績機などは、英国をはじめとする欧州各国で中世より蓄積された製造技術によって生まれている。その意味では、どこからどのようにビジネスモデルやイノベーションを学ぶのかが重要な着眼となる。

学びやすい同業界からの学びは改善(Improvement)レベルからなかなか脱し切れず、模倣(Imitation)で終わってしまうことが多い。もちろん、自社が同業他社に大きく差をつけられている場合は、同業界からの学びも有効で意義があり、そのレベルに達することは大切だ。しかし、学びやすい同業界のモデルは、同業他社にとっても学びやすく、模倣がしやすい。

ただし、同業界からの学びでも、イノベーティブな展開が可能なケースはある。それは海外の先進事例からの学びだ。日本は島国であり、日本人は英語をはじめとする外国語の習得が苦手な傾向にあるため、ボーダーレス化した情報時代において後れをとりやすい。つまり、その中で海外先進事例を国内でいち早く取り入れることができれば、限定された日本という特定市場の中でイノベーター(革新者)になり得る。

自社に取り入れる学びは、遠ければ遠いほど難しくなる半面、成功すれば簡単に模倣されることはない。つまり異分野―異文化・異業界・異業種―の事例は、イノベーションにとって最良の学びとなる。

 

 

異質との接触と融合が起点となる

ビジネスモデルのイノベーションと、組織風土のイノベーションには、共通したアプローチがある。それは異質からの学びだ。異質との接触と融合は、常にイノベーションの源泉となる。

例えば、“暗黒時代”と呼ばれるほど文化的に停滞していた中世ヨーロッパで、ルネサンスが起こったきっかけは、他ならぬイスラム文化との接触がきっかけであった。また、日本が明治維新という革命によって、近代化に成功していくきっかけは、海外列強といわれる欧米諸国との接触だった。

ビジネスモデルイノベーションのアプローチが異分野からの学びであるとすれば、組織風土イノベーションのアプローチは異質な組織や人材との接触にある。純粋培養で同質化した人材だけでイノベーションを起こすのは難しい。異質・異端・異能の人材を積極的に既存の組織へ取り入れることによって、新たな視点、新たな気付き、新たな知見が得られる。

最初の段階では既存の人員とのコンフリクト(意見・感情・利害の衝突)が生じるものの、それがいわゆる化学反応として作用し、通常とは異なる結果が生まれる。人は同質の仲間たちと行動を共にすると、あうんの呼吸で仕事ができるし、スムーズにコミュニケーションもとれる。そこへ異質な人材が入ると、あうんの呼吸は乱れ、足並みをそろえるための説明や説得に時間がかかる。

しかし、これが大切なのである。あうんの呼吸で物事が進んでいく組織では、確かに業務の効率化は進むかもしれないが、イノベーションは起こらない。

異質な人材の受容を意味する言葉として、近年、「ダイバーシティー」(Diversity、多様性)がよく使われる。ダイバーシティーは、企業マイノリティー(少数派)の女性や外国人を差別することなく受け入れるという義務や、新卒採用で応募者数を増やすための手段という消極的な捉え方をされることがある。

しかし、ダイバーシティーは企業成長の起爆剤ともなるし、イノベーションを起こす源泉ともなるため、積極的に推進するべきだ。実際、イノベーティブな組織では、女性がいきいきと活躍し、さまざまな国籍の外国人社員が会議で活発に議論している。私も仕事柄、多種多様な企業の会議に参画するが、中高年男性だけの会議と、女性や外国人が入り交じった会議では、議論の深さや提案の切り口、質疑応答の中身が大きく異なる。

同質化した集団の中では、「暗黙の了解」や、周囲の雰囲気を察知して意見や行動を控える「空気を読む力」が備わってくる。そうした組織で最も懸念すべき点は、重大な問題が隠れてしまうことだ。誰も指摘できずに言い淀んでいる限り、その問題の根本は解決されず、表面上だけの話し合いとおざなりの対策で終わってしまう。その点、異質な人材は場の空気を読まず、疑問に思ったことは率直に口にし、問題提起をする。これがイノベーションの原動力となるのだ。

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組織風土イノベーションのための3つの実践

イノベーションとダイバーシティーは密接な関係にあり、組織風土イノベーションのためには、次の3つの実践が有効だ。

(1)異質な人材との交流

異質・異端・異能の人材との交流が、組織に新しい風を吹き込み、変革を生み出す鍵となる。女性(女性が多い職場は男性)、外国人、若手、中途入社者などの積極的な採用と活用が重要である。ここでさらに大切なことは、職務や役職階層にかかわらず、彼・彼女らに活躍の場を与えることだ。

特に、業歴が古く、同質化が根付いている組織では、性別や国籍、年齢などに対して一種の固定観念があり、多様な人材を擁しながら職務や役割を限定してしまうケースが多い。そうすると、結局は組織内でその属性に応じたボーダーを築くことになり、多様性のある採用を行っているにもかかわらず、多様性が生み出す成果を享受できない。

(2)異質の業務体験

新卒入社から定年まで、社員に一貫して営業畑や技術畑、経理畑を歩ませるケースが大企業でもある。社員は特定部門・地域の専門的な知識と技能を習得することはできる半面、一方向からしか企業を見ることができない。偏った業務経験を持った社員ばかりだと、イノベーションは難しい。さまざまな部門や地域で多くの業務を経験させることが望ましい。現実的に人手不足や効率性の問題で人事異動などが困難な場合、プロジェクトの組成による異質体験の場を創出するとよいだろう。

(3)異質の業界との接触

異質な異業種・異業界からの学びが大切だ。経営者・経営幹部などのトップ・マネジメント層は、積極的に外の世界へ目を向けなければならない。現状の自分の業界とはすぐに結び付かないかもしれないが、先進国や急成長している新興国、最先端技術や街の流行、まったく接点のない業界や業種といった世界に好奇の目を向け、現場にまで足を踏み入れる。企業はトップの器以上に大きくならないといわれる。トップ・マネジメント層が、自らの世界を広げ、多様な価値観を持たなければイノベーションなど起こせない。現地・現品・現実を重視する三現主義の精神で、多様なフィールドワーク(実地研究)を実践することが重要である。

イノベーションは、起こしたいと願うだけでは起こらない。積極的にボーダーを壊し、異質なものとの接触を経験してみてほしい。イノベーションのために最も大切なこと、それは「異質からの学び」なのである。

 

 

 

 

PROFILE
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村上 幸一
Koichi Murakami
ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。