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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2017.08.31

「マネジャー」と「リーダー」の違い:中須 悟

 

これからの時代に必要な幹部とは

企業にとって幹部教育は永遠のテーマである。幹部のリーダーとしての力が企業の生産性や成長性に直結することは言うまでもないだろう。幹部教育の在り方は時代とともに変化する。時代の変化に気付かず旧態依然とした教育を施したり、教育すること自体が目的となって中身に何の工夫もなければ、その成果は限定されたものとなる。

では今の時代、あるいはこれからの時代に必要な幹部とはどんな人材か。また、幹部教育はどうあるべきかを考察してみたい。

幹部には2つの役割がある。「マネジャー」としての役割と「リーダー」としての役割である。この2つを明確に区分しておかなければ、今の時代に求められる幹部像は思い描けない。
マネジャーに求められる価値判断力

マネジャーとは、つまり「管理者」である。管理する対象は、人、ルール、業績、方針など多岐にわたる。あるべき姿や方向性に対し常に的確な現状認識をしながら、正しく状況判断をすることが求められる。マネジャー教育の目的は、「幹部が正しく判断する能力を養うこと」と言ってよいだろう。

正しく判断するためには、その人なりの価値判断基準がなければならない。借り物の価値判断基準では説得力に欠け、他人の意見(場合によっては部下の意見)に左右されてしまうからだ。

物事には常に二面性がある。しかもその両方とも重要であるというケースがほとんどだろう。その上、一方を立てれば他方が立たないという矛盾の構造でもある。このとき安易に割り切って一方の側面で判断すると、すぐに他方から反対意見が飛んでくる。それを権力で抑え付けるのは簡単であるが、それでは真の問題解決にはならない。

幹部はそれら矛盾する意見の真ん中に自らの価値判断基準の軸を据え、誰もが納得する判断を下さなければならないのだ。

 

本質に迫ること

では、誰もが納得する価値判断基準とは何か? その鍵は「本質に迫ること」にある。本質とは「頭で理解する」ものではなく、「体で覚える」感覚と言ってよい。本を読んだだけでは分からないし、表面的な理解だけでも得られない。本質に迫る唯一の方法は、仮説と検証のアプローチである。言い換えれば、熟慮と経験の繰り返しなのである。

経験とは、自らがチャレンジしたことに限定される。指示されたことやモノマネは有効な経験とは言えない。まず成果を出すために何をするかを考える。つまり仮説を持つこと。次にそれを自分で実行してみる。

経験不足であれば最初は失敗に終わるだろう。その失敗から学び、再度チャレンジする。それを繰り返し、諦めなければやがて成功する。成功した段階で、当初立てた仮説や失敗経験は全て「成功の原理原則」になる。諦めてしまえば、それで終わり。何の学びも得られない。「このやり方はダメだ」とレッテルを貼ると、その人の可能性を狭めてしまう。逆に早い段階で成功してしまうことも、ある意味で不幸だ。ノウハウの蓄積が不十分であり、次にチャレンジしたときに再現性がなく失敗に終わるのである。そういった自らの原理原則を、実践を通じて体得していかなければならないのだ。

自らの原理原則とともに成功体験を実感したとき、目の前が開けた感覚を味わえるだろう。またこれまで経験したことが必然に思え、全ての事象が線でつながっているように見えるだろう。それがモノの本質にたどり着いた瞬間である。このとき、その人は幹部としての段階を1つ上がったと言える。その状態を得たらもうそれまでの段階に戻ることはない。自らの価値判断基準の軸も備わっており、間違った判断をすることもなくなるのだ。

この本質的な判断は平時ではなく、有事の際にこそ求められるだろう。上意下達の指示や決まり切ったルーティンワークを回しているときの判断は、一定の知識と経験があれば誰でもできる。不測の事態や前代未聞の事故が生じたときなどに幹部としての真の力量が問われる。高度なマネジメント能力とは有事の際に発揮されるのである。

 

リーダーとしての成長過程

リーダーとは、文字通り「先導者」である。マネジャーが決められた方向性の実行を管理する役割であるのに対し、リーダーは方向性そのものを決める役割となる。その発想もマネジャーが演繹的であるのに対し、リーダーには帰納的なものが求められる。

言い換えれば、マネジャーは与えられたミッションを具現化し、効率よく成果を出すための組織や計画を作り実行させるが、リーダーはミッションそのものを決めることが求められ、そのための現状認識として多角的に事実を押さえていく。「道なきところに道をつくる」ための創造性が必要とされるのである。

そういった戦略判断力というべきものはどのように鍛えたらよいのか?その鍵は自らの成長過程にあると言えよう。リーダーとしての成長段階は、孔子の残した言葉になぞらえることができる。

「十有五にして学を志す」

企業人としては学生を卒業して、社会人として道を歩み始めた段階と言えよう。この段階の価値判断基準は文字通り「学ぶ」ことであり、仕事の基本を身に付けるとともに幅広い知識を吸収し、多様な経験を積むことが肝要であると言える。まだ何かに絞らずに、何事にも旺盛な好奇心で臨むことが大切である。

「三十にして立つ」

一通りの経験を身に付けたら、自らが立つ道を決めるのがこの段階であろう。つまり自身の専門性を決めることである。富士登山に例えるなら、河口湖ルートで登るのか、御殿場ルートを行くのか、または富士宮ルートなのかを選ぶことである。道を選んだら30代のうちは、その道のナンバーワンを極めるために努力を重ねなければならない。

「四十にして惑わず」

自身の専門性を高めていくと、あるレベルから物事の本質や全体像が見えてくるだろう。富士登山に例えれば、8合目くらいから眺望が開けてきて山の全貌が見えてくる。

つまり専門性を極めるというのは、視野を狭めることではなく、視点が高くなることによって、逆に視野が開けてくることなのである。山頂を極めることができれば、河口湖ルートだろうが、御殿場ルートだろうがゴールは共通であることに気付くはずだ。

「一芸に徹すれば、万般に通じる」

富士登山の例えとは逆に、井戸を掘り続けていくとやがて地下水脈にたどり着き、その水脈は地中で果てしなくつながっている。全体像が見える瞬間である。

この領域は、経営全体を見通せるゼネラルリーダーの領域だ。専門性を極めた結果が、他のあらゆる専門性と高度なレベルでつながり、ダイナミックな仕事ができ、かつ的確なマネジメントが可能になる。自分自身の仕事に迷いがなく、自信と誇りを持ち、いかなる難問であろうと、未知の領域であろうと的確に判断ができるであろう。

リーダーとして成長するためには20 代、30 代の過ごし方が重要である。経験年数は勤続年数に比例しない。前向きなチャレンジを重ね、視野が開けるまで諦めなかった者だけが、真のゼネラルリーダーの領域にたどり着けるであろう。

マネジャーとリーダー。その特性は基本的に違うが、幹部人材たる者はその両方を併せ持つ必要があろう。

結果としてマネジャータイプ人材、リーダータイプ人材という分かれ方はあっても、どちらかを目指すというものではなく、両方をバランスさせることが重要なのである。

 

 

 

 

PROFILE
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中須 悟
Satoru Nakasu
「経営者をリードする」ことをモットーに、経営環境が構造転換する中、中堅・中小企業の収益構造や組織体制を全社最適の見地から戦略的に改革するコンサルティングに実績がある。CFP® 認定者。