社長の寿命<事業の寿命<会社の寿命の方程式が成立する「100年経営」に向け、自由闊達に開発する新たなチームデザインこそが、生産性の源泉となる。
「チーム力」で生産性を改革する
データによれば、国内企業382万社※1のうち100年以上続く企業は3万3069社※2と全体の0.87%にすぎません。会社を継続させることがいかに険しい道であるかが分かります。では、企業が生き残っていくには何が必要か。タナベ経営が社風に関するアンケート調査※3を実施したところ、会社が最も成長したのは創業者の時代であり、代を重ねるにつれて成長率が鈍化していくとの結果が明らかになりました。時間の経過とともにベンチャースピリットや創業の精神が薄れてしまうのは致し方ないことですが、企業が生き残るには新しいビジネスモデルやブランドの創造が不可欠。これらを生み出し続けるためには組織づくり、つまり「チーム力」が必要なのです。
チーム力に注目する理由はほかにもあります。今、国内の人材不足が深刻です。総務省「国勢調査」によると、2015年の生産年齢人口(15歳~ 64歳)は7728万人。それが2030年には約850万人減少して6875万人になると予測※4されており、企業にとって生産性の向上がますます重要になるでしょう。
ところが日本の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中22位※5と、ギリシャよりも低いのが現実です。さらに、米国の調査機関が発表した「働きがいのある会社ランキング」(グローバル企業)※6を見ると、残念なことに上位25位以内に日本企業は入っていません。働きがいは生産性の鍵となります。タナベ経営では生産性の指標として「1人当たり経常利益年間300万円」を提言していますが、高い生産性を実現するには働きがい改革、働き方改革が必要です。国は働き方改革の推進に力を入れていますが、企業も真剣に取り組むべき時期を迎えているといえるでしょう。
また、チーム力のキーワードとなるのが「全員活躍」です。これを実現するには日本企業の組織構造という根本的な問題と向き合わねばなりません。成長を続ける企業はここに真正面から取り組んでいます。企業の組織デザインが変わり始めているのです。
例えば、国内の寒天市場でシェア8割を占める伊那食品工業(長野県伊那市)は、末広がりに成長を続ける「年輪経営」の実践によって48期連続増収増益を果たしたことで注目を集めました。私は同社の塚越寛会長と対談(本誌2017年8月号)した際、「創業10年目に研究室を立ち上げ、今日まで社員の1割を研究に充ててきた」と伺いました。
これは食品業界において非常に思い切った投資ですが、新市場開発やブランド化に成功したことで、同社は高い生産性を実現しています。こうした自由闊達に開発する組織、チーム力が必要とされているのです。チーム力次第で1+1 が3や4、5になるのです。
ビジネスモデルは、理念から生まれる戦略
では、そもそも企業におけるチームとは何か。タナベ経営では「理念・ミッションを共有し、顧客にとっての価値を高める継続的な全社員活動の単位」と定義しました。キーワードは「理念の共有」「顧客価値」「全員活躍」です。
私はさまざまな会社を訪問しますが、新入社員の方々と話していても「おや、トップと話しているようだ」と感じることがあります。トップと新入社員の話す内容が一致しているということは、経営理念やビジョンが組織全体に浸透している表れです。とはいえ、経営理念の浸透は簡単ではありません。全員で唱和しているだけでは浸透しないのです。
経営理念を徹底するには、自社の考え方をまとめた「ビジョンブック」の活用が有効です。創業の精神や背景を含めたストーリーとして伝えることで、経営理念の理解は深まります。さらに社員同士がビジョンブックを基に語り合い、確認し合って日々の業務で実践する。この繰り返しの中で浸透していくわけです。
真に成功する戦略とは理念から生まれたものです。「戦略は理念に従う」のです。従って、理念が組織やチームに浸透すれば、全社員の発想や活動そのものが戦略につながっていくことになります。
おのずと、顧客のために働くことがチームの目的となるのです。
「チームブランディング」という組織力
チーム力を高めるには、次の3つのステップを踏むことです。
(1)戦略推進力を高めるチームブランディング
第一のステップは、組織をデザインするところから始まります。ポイントは、顧客価値を追求するチームデザインであること。
参考になるのが、眼鏡レンズを製造・販売している東海光学(愛知県岡崎市)の事例です。売上高100億円、社員数400名の中堅メーカーである同社は、女性だけの商品開発チーム「女子開」を組織。このチームが開発したのが、パーソナルカラー理論に注目した『肌美人』『美美Pink』という商品です。特に美美Pinkは内閣府の革新的研究開発プログラム(ImPACT)で優秀入選アイデアに選ばれ(2016年)、NHKや女性ファッション誌でも取り上げられました。
同チームの研究開発により、従来の男性だけによる営業活動では決して得られなかった多くの新たなファンをつくったのです。現在、彼女たちは眼鏡販売店の「パーソナルカラーアドバイザー」として活躍。コンサルタントとしての役割も果たしているといいます。ちなみに東海光学の経営理念は「顧客第一主義」「全員参加の経営」「独自性の発揮」。納得です。
また、家具を製造する関家具(福岡県大川市)でも、社内の若手デザイナープロジェクトや女性社員を集めた開発プロジェクトを展開。若手社員や女性社員によるブランド開発が成長の原動力となり、創業以来48年連続の増収を続けています。
2社の事例は、市場や顧客と向き合うチームづくりによって新たなビジネスモデルやブランドが生まれている点、そして多彩なブランド戦略に合わせたチームが組成されている点で共通しています。専門領域を掘り下げていく過程で、専門領域が細分化されてブランドが増えていくという組織デザインです。これは、チームブランドが多角化(コングロマリット)していく可能性を広げます。新しいチームをデザインして、チームに投資することです。