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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2025.10.21

本業である「柿の種」事業のさらなる進化を実現 阿部幸製菓

【第1回の趣旨】
第4期デザイン経営モデル研究会では、デザイン経営やデザイン思考の実践領域を絞り、社内の新しい取り組みを頓挫させない、ゼロからイチを生み出し、カタチにし、組織への定着および成長までを描く「デザイン力」のコアスキームを研究。組織や事業に新しい「何か」を取り入れることが得意な社員やチームが実践する「デザイン思考実践スキーム」とその応用事例に触れ、社内改革のヒントを提供している。
第1回2日目は、新潟県小千谷市に本社を置き、阿部幸製菓に、「本業である『柿の種』事業の更なる進化を実現~新たな壁に挑戦し続ける歴史とプロセス~」をテーマに、3代目社長の阿部幸明氏に講演いただいた。柿の種を主力とした小型米菓のBtoB事業を軸に、さまざまな事業展開で企業価値を高め続ける同社の取り組みに学んだ。

開催日時:2025年9月9日(新潟開催)

 

新たな壁に挑戦し続ける阿部幸製菓

 

1899年に創業し、1964年の設立から60年超の歴史を持つ阿部幸製菓は、日本の米菓業界において独自の地位を築いてきた。「世界中の人々に笑顔の輪を、私たちの食品を通じて広げてゆきたい。」という経営理念のもと、事業の多角化と革新的なブランディングを推進している。

 

最大の強みは、「業務用柿の種」で国内トップシェアという揺るぎないBtoB事業基盤にあるが、近年はBtoC市場へも積極的な進出を図っている。その象徴が、若者層や贈答品市場をターゲットにした「かきたね」ブランドや、発売から100万本以上を売り上げたヒット商品「柿の種のオイル漬け」である。

 

同社の事業領域は、米菓製造にとどまらず、総菜製造、外食事業、鏡餅事業、さらにはペットフードや冷凍食品にまで広がっている。これにより、単なる米菓メーカーから、広範な食文化を創造する企業へと変貌を遂げつつある。

 


先代が築き上げた「安価で高品質な米菓製造ノウハウ・知見・ナレッジ」のもと生れた柿の種文化。文化を継承し、時代に合わせて花開かせるために、阿部幸製菓は挑戦を続けている

 


 

創業以来の価値を時代に合わせて進化

 

同社の事業の柱は3つある。1つ目は「業務用柿の種」事業。安価で高品質な柿の種の製造販売において日本一の流通量をを誇る。これがグループ事業の基盤となっている。2つ目は「100円前後で購入できる、どこでも置ける鏡餅」の製造販売で、こちらもトップシェアである。3つ目は海外事業で、中国に2カ所の製造拠点を運営している。

 

同社は“柿の種屋”としての新たな市場ポジションを確立するため、発信力の強化を進めている。例えば、時代に合わせ従来の発想にとらわれない商品開発を進めた結果生まれた、ご飯のお供としての柿の種「柿の種のオイル漬け」は、売上規模約1.5憶円を達成。販路を新潟とECサイトに絞り、新潟土産として新たなポジション獲得を狙っている。

 

ほかにも、若い女性をターゲットにした持ち運びやすいおしゃれな「かきたね」は、売上規模2億円を達成している。いずれも「業務用柿の種」の強みを生かしつつ、従来の枠を超えた商品開発による成果である。

 


左:ご飯のお供としての柿の種「柿の種のオイル漬け」
右:女性や若い人が持ち運びたくなる、おしゃれでシェアしたくなる「かきたね」
あくまでも柿の種という商品特性を生かした新ブランドを開発することにこだわった

 

 

日本文化を守るための承継型M&A

 

阿部幸製菓は、米の消費量減や少子高齢化など、日本の食文化の根幹を脅かす問題が深刻化しつつあることを憂慮。利益だけではなく、文化を守り継承するために「お米と和の嗜好品メーカー」として新たな一歩を踏み出すことを決意した。

 

同社が掲げるビジョン「日本の食のクオリティと新潟らしさを守る嗜好品メーカー」として、他の事業領域の企業のM&Aを進めている。2025年9月時点では、「元祖ゆず七味」を製造する調味料メーカー、創業約220年の歴史を持つ和菓子メーカー、皮からあんまで一貫製造する技術を持つ最中メーカー、「元祖柿の種」で有名な大手メーカー、新潟5大ラーメンの中心となる人気ラーメン店をグループ化した。

 

各社に共通する特徴は、後継者不足で悩み、かつ日本文化として後世に残すべき技術や価値を有している点だ。同社はこれらの企業とのグループ化を通じ、歴史・文化を守るために新たなシナジー効果を生む挑戦を続けている。

 


阿部幸製菓は「100億宣言」を掲げる売上高100億円を目指す企業でもある。
日本文化を守り継承する目的で推進するM&A事業を基盤に目標達成に向けて邁進中

 

 

「米PlusOne」コンセプトの誕生

 

阿部幸製菓のリブランディング戦略やM&A戦略には、同社の存在意義を再定義した「米PlusOne」というコンセプトが根底にある。これは、日本の宝である「米」に、何かひと手間加え、時代のニーズに応えるというコンセプトである。同社はその思いを「米PlusOne」という一言で表現した。

 

先述した通り、今は米の消費量減に伴う産業活性化の必要性が問われる時代である。同社は従来のプロダクトアウト型思考から脱却し、市場が求めるもの、未来に生きる人々が求めるものは何かというニーズを見据えたマーケットイン思考を取り入れた。このコンセプトは、M&Aを進める中で「お米と和の嗜好品メーカー」を目指すというビジョンが生まれた結果、たどり着いたものである。

 

「米PlusOne」は、商品開発や事業成長、企業発展のすべてを貫く同社の理念であり、ステークホルダーが信頼を寄せる旗印となっている。このような明確なコンセプトを持つことは、挑戦を続ける企業にとって極めて重要である。

 


「米PlusOne」コンセプトを参考に、研究会参加者が自社にとっての「PlusOne」を考えるワークショップを実施。新規事業だけではなく、既存事業の根本的な見直しを懸ける際にも新たな切り口を提示してくれる万能なコンセプトだ

PROFILE
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阿部 幸明氏
阿部幸製菓株式会社 代表取締役社長