
シーユーシー 執行役員 鎌苅 亮介氏
笑顔になれば笑顔にできる
少子高齢化と医療従事者の不足が深刻化し、過半数の病院が経営難に苦しむ日本社会では、あらゆる人々が「終末期をどこで、どのように生きるのか」という課題に直面している。
2014年設立のシーユーシーは、その厳しい現実を直視し、訪問診療クリニックの経営支援をスタート。その後、病院や透析医療にも対象を広げて、医療のプロフェッショナルはいるが経営のプロフェッショナルが不在の医療現場を「働きやすい職場」「働き続けたい職場」に変革しようと、財務・人事・組織開発などのサポートを手掛けている。
創業3年目の2017年にはホスピス事業を、翌2018年には居宅訪問看護事業を立ち上げ、「医療という希望を創る。」というミッションのもと、末期がんや難病など医療依存度の高い患者が最期まで自分らしい生活を送れるよう、質の高いケアサービスを提供している。
「24時間365日、計り知れない緊張とプレッシャーの中で働いている医療従事者のウェルビーイングを高めていけたら、ホスピスや訪問看護・介護の利用者の方々にも、より良いケアが提供できると考えています。つまり、『医療という希望を創る。』というミッションには、患者さまとご家族はもちろん、医療従事者にとっての希望という意味も込められているのです」
そう語るのはシーユーシー執行役員の鎌苅亮介氏だ。医療従事者が幸せでなければ、患者を幸せにすることはできない。深夜早朝を問わず、求めがあれば患者のもとに駆け付けることが日常の職場で、どうしたらサステナブルな働き方を実現できるのか。同社が導き出した答えは、「理念」を中心とした経営に徹することだった。
私たちの上司は「理念」
創業者で代表取締役の濵口慶太氏は、常日頃から「みんなの上司は『理念』だからね」とグループ全体に呼びかけているという。ホスピス事業を手掛けるシーユーシー・ホスピスは「『前を向いて生きる』を支える。」、訪問看護事業を担うソフィアメディは「英知を尽くして『生きる』を看る。」というミッション(使命)を掲げている。「ミッションをそらんじることができない社員は1人もいないと思います」と鎌苅氏。それほどまでに同社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は社内に浸透している。
「本当に希望を創り出せているだろうか。前を向けているだろうか。他にもっとできることはないか。現場では、皆がミッションを合言葉にして、自社のケアやサービスの在り方を常に問い続けています」(鎌苅氏)
肉体的にも精神的にも負荷の大きい業務をこなしながら、さらなる改善・変革を追求し続けるモチベーションを、同社の社員はどのように維持しているのだろうか。
「私たちは、理念を実現するため『5Way』という指針に基づいて行動しています。その5つとは、『①「自分の立場」ではなく「患者様の気持ち」で考える。②「できない理由」ではなく「できる方法」を探して実行する。③「既成概念」にとらわれず「理想」を追求する。④「専門性」の前に「人間性」を重視する。⑤「上下」ではなく「ひとつのチーム」として手を重ねる。』です。
そういう日常を積み重ねる中で、利用者から『ありがとう』という言葉をいただくと、それがやりがいとなって、『また明日、頑張ろう』というサイクルにつながっていくのです」(鎌苅氏)
例えば、わが子の結婚式まで余命がもたないかもしれない患者のために、施設内でささやかな式を企画し、ウェディングドレスとタキシードでの記念撮影を実現するなど、どうすれば希望をかなえられるかを常に考え、「工夫してできることなら積極的に取り入れていきたい」と挑戦を重ねているという。
シーユーシーグループの共通ミッションである「医療という希望を創る。」は、技術や薬の提供だけを意味しているわけではないのだ。

質の高いケアの実現のため、実践的な研修やオンライン講座などにより、一人一人が主体的に知識やスキルを磨き続けている
声が集まる仕組みづくりに注力
シーユーシーでは、この「専門性の前に人間性を重視した前向きでフラットなチームワーク」を、患者のみならず、グループで働く全社員と経営陣、支援先医療法人など、全てのパートナーに対しても発揮していこうと、ウェルビーイング経営の土台となる「CUC Partners Promise 働くみなさまとの約束」を策定。「一人ひとりが働きがいを感じ、夢や理想に挑戦できる環境を実現する。」という誓いを立てて、具体的な施策の整備に取り組んでいる。
その起点となるのが、社内の専門チームが毎月実施しているサーベイだ。グループ社員のうち約6割は、看護師・介護職・セラピスト(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)などの医療従事者である。同社は日々発生する現場の悩み事や困り事を丁寧に吸い上げ、課題解決に向けた面談を実施。解決に向けて1つずつ施策を整備していった。
その施策は、①フィジカル・ウェルビーイング(身体の健康)、②ソーシャル・ウェルビーイング(仲間とのつながりや貢献感)、③キャリア・ウェルビーイング(働く意味、やりがい、自己成長)という3つの分野に大別することができる。
①は、サステナブルな働き方を実現するために必要な施策だ。1時間単位で有給を取得できる制度や、深夜から翌朝にかけて連続勤務にならないよう一定の休息時間を確保する「インターバル制度」、3日連続で有給休暇を取得すると奨励金として1万円が支給される「こころみる休暇」などが挙げられる。中でも1時間単位の有給取得制度は好評で、2024年度はソフィアメディだけで9318件の利用実績があった。この制度は2025年度以降、グループ他社へも導入を進めている。
「子育て中の社員がお子さんの送迎や学校の面談に向かう際、後ろ髪を引かれることなく職場を抜けられるという声が寄せられています」と鎌苅氏。患者ごとに担当者を固定すると、責任感の強さもあって他の人にバトンタッチしづらくなってしまうため、いつ誰が抜けてもチームで対応できる態勢を整えているという。
同じ日に休みの希望が集中し、人手不足になってしまうことはないのだろうか。
「そうした状況にならないよう、チームで相談しながらシフトを調整することが当たり前になっています」(鎌苅氏)。柔軟な人間関係は、②の施策の賜物である。
感謝の思いを記したメッセージカードを贈る「Thanks Message」、コロナ禍を乗り越えて2022年に発刊した理念BOOK『ありがとうのうた』を活用したシーユーシー・ホスピスの理念読書会など、シーユーシーグループには日頃から②の文化があるからこそ、①の制度が円滑に機能するのだ。
以上のように、心身の健康を保ちながら働ける安心感があれば、③の施策も生きてくる。相手が受け止めやすい言葉の選び方を学ぶ「アサーティブコミュニケーション研修」、社員が自分の得意な領域で講師となり、全社に知見をシェアする「CUCアカデミア」、オンラインビジネススクール、グループ間のポジション公募制度「Dream」など、シーユーシーでは今、自己研鑽する社員や、新しいことへの挑戦を試みる社員が年々増えている。
「一度に数百人の参加希望者が集まる研修プログラムも少なくありません。医療従事者は、学ぶ意欲が飛び抜けて高いです。常に厳しい状況にあっても『だからこそ、どうする?』という考え方をすると、積極的に前を向いて仕事ができるのだと思います」(鎌苅氏)

CUCホスピスの理念BOOK『ありがとうのうた』。本部と施設スタッフの垣根を越えて、事業の意義を深く理解することに役立っている
立ち戻れる原点がある安心感
「本当にこれで良いのだろうか」という迷いや葛藤を抱えながら、正解のない問いに、自分なりのケアで答えを出していかなければならない医療従事者にとって、「理念」は灯台とも言うべき心の拠りどころとなる。その確信があるからこそ、シーユーシーは理念の浸透を経営の中心に据えている。
例えばシーユーシーでは、5〜6人程度の少人数で、異なる部署・職種・年次の社員同士が、5つの行動指針「Way」について語り合うオンラインのトークセッション「フィロトク」を週1、2回のペースで開催している。また、グループ各社では年1回、全従業員が集まり、理念を体現した優れた取り組みを讃える表彰を行っている。
直近では、グループ全体の新入社員のうち46%が、入社の動機について「理念への共感」と回答した。また、「理念体現度」の自己評価は、5点満点中4.17と着実に向上。一方、離職率は年々減少傾向にある。
事業面においては、創業当初から2026年3月期までのCAGR(年平均成長率)を見ると、医療機関事業で24.2%、ホスピス事業で41.7%、居宅訪問介護事業で15%と、連結で28.5%のプラス成長を実現している。
「理念を浸透させていこうと愚直に取り組み続けてきたことが、今日の会社の成長や働きやすい職場づくりに寄与しているのだと実感しています」(鎌苅氏)
シーユーシー(CUC)の社名の由来は、「Change Until Change(変わるまで、変える)」。どんなに課題が山積しても、動かしがたい現実があっても、希望は見いだせる。生死を見つめる医療現場で磨かれた信念が、働く人々の心を支えている。
(株)シーユーシー
- 所在地 : 東京都港区芝浦3-1-1 msb Tamachi田町ステーションタワーN 15F
- 創業 : 2014年
- 代表 : 代表取締役 濵口 慶太
- 売上高 : 470億4300万円(連結、2025年3月期)
- 従業員数 : 5145名(連結、2025年3月期)
 
				 
					 
					