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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.10.30

はたらくをよくする®エコシステムの社会実装を促すピースマインド 荻原 英人

日本、アジアにおけるEAPのパイオニア

 

ピースマインドは、日本やアジアにおけるEAP(従業員支援プログラム)サービスのパイオニア企業として、創業26年で1400社超の支援を重ねてきた。国内企業や外資系グローバル企業、海外展開する日系企業に、他に先駆けてコーポレートウェルビーイング支援ビジネスを提供し進化を続けている。

ウェルビーイング支援には、2つの観点がある。1つは、社員と企業が価値を創造し高める「攻めの投資」、もう1つは多様なリスクや課題を解決・予防する「守りの投資」である。

メンタルヘルスに取り組む企業が少なかった1998年の創業当時、ピースマインドは個人の抱えるさまざまな不安や人間関係の不和やメンタルヘルスの不調など「はたらく人が抱える『不』を解決し、心豊かな未来を創る」ことをミッションに掲げた。

 

誰もが抱く悩みやストレスの解決を支援すること、心理専門職のプロフェッショナルが心の健康を支える仕組みをつくること、社会的にサポート資源が認知され活用されること。心を支えるメンタルヘルスを社会的なインフラにするため、足りないことは自らの手で創り出す決意で3つの志を立てた。

その後、日本初のオンラインカウンセリングサービスの個人支援からEAPによる法人支援へ事業領域を拡大し、「『はたらくをよくする®エコシステム』を創り、社会をいきいきとした人と職場で満たす」をビジョンに定めた(【図表】)。

 

単なる「不」のリスクヘッジの効用で終わらず、人も組織もいきいきと本来持つ価値を発揮する「ありたい姿への投資」にする思いを込めている。さらに、付加価値も高め、より良い状態に変えていく信念を「Working Better Together」という言葉で紡いだ。

 

【図表】ピースマインドのビジョン
【図表】ピースマインドのビジョン
出所 : ピースマインドコーポレートサイトよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

ウェルビーイングは、投資対効果が高い経営施策である。社員が心身ともに健康で良い状態で働くための予防施策によって、社員のエンゲージメントが向上し、パフォーマンスや生産性が高まり、職場環境が改善し、業績向上にもつながる。価値創造とリスクヘッジはどちらも重要と捉え、本気で取り組むと、確かな経営投資になることを、当社の支援する多くの優良企業が証明している。

 

高まるウェルビーイングへの注目

 

日本で自殺者が年間3万人を超えた1998年以降、「心の健康」は国を挙げた解決テーマである。厚生労働省は職域支援施策を求める指針策定やストレスチェックの義務化、経済産業省も健康経営の推進などで後押しし、顕在化する「不」の課題は解決から予防へフェーズが進んだ。

コロナ禍は、働くことや幸せの意味など、ウェルビーイングを一人一人が考え始めるトリガーになった。近年は上場企業の人的資本情報開示の義務化、ハラスメント防止の法制化、コンプライアンス意識の高まりにより、社員と組織のウェルビーイングを経営アジェンダに掲げる企業が増えている。

一方、現場では課題が残る。「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレス」を感じる労働者比率は2024年68.3%※1に到達。「ワークエンゲージメント」(仕事への熱意)も日本は7%で、国際平均の21%を大きく下回る※2。これらは経営アジェンダになるべき課題であるが、同僚や上司、職場環境、経営方針に影響を受けて「不」が生まれる重要性を理解していない経営者は少なくない。

ピースマインドは、はたらく人の「個」と「職場環境」、さらに企業の「経営と組織」の考え方や仕組み、3つのレイヤーをより良く変えていくアプローチを構築してきた。それなくしては、根本が変わらないからである。

なぜ課題が発生するのか、ありたい組織としてどんな姿を目指すか。顕在化する「不」の解決策や、把握できていない潜在的な悩みやリスクに、どんな伴走が必要か。ストレスチェック、エンゲージメント、プレゼンティーズム※3など、企業が持つ定性・定量的なデータを中長期でモニタリングし、学術的なエビデンスに基づき専門的かつ多面的に分析し、個・職場・経営の各レイヤーを支援する独自のコンサルテーションを提供している。

TCGと連携し新たな付加価値創出へ

 

人的資本という非財務的な価値を、経営の未来を創るために重視するのは世界的な潮流である。また、メンタルヘルスの「不」により、年間でGDP(国内総生産)の約1.1%相当の経済的損失が生じ※4、労働人口が減少し続けていく日本は、課題先進国と言える。

 

パフォーマンスを落とさず、より良い状態でより長くはたらき続ける活性化に向けて、社員と組織のウェルビーイングは投資価値の高い取り組みだと、まず経営者自身が理解することが大きな一歩であり、全ての起点になる。

当社は2025年5月、TCGと資本業務提携を締結した。ウェルビーイング領域に特化しボトムアップによる提案活動が中心だったが、経営・人事部門の課題テーマは複雑・細分化している。今後は経営トップをはじめ多面的な接点を持ち、一貫対応で最後まで伴走できるコンサルティングのアプローチが不可欠であり、より有効な施策を推進できる。

 

経営目線に立つトップマネジメントアプローチのコンサルティングで強みを発揮し、ウェルビーイングの重要性も深く理解するTCGとの連携・協働により、生産性やエンゲージメントが高まる「はたらくをよくする®」を社会に実装するために、大きなシナジーを発揮できる。

ウェルビーイングの専門サービス企業と、経営コンサルティング企業の連携は、世界でも例のない挑戦である。また、TCGの顧客基盤である中堅企業は、日本の成長戦略の担い手として期待が高まっている。大企業中心だった「はたらくをよくする®」姿が中堅企業にも広がれば、社会全体の底上げにつながる。人と職場がいきいきと価値を生む土台を広く社会に根付かせ、心豊かな未来社会の実現を中堅企業の現場から加速していきたい。

経営のトップアジェンダとして戦略を描き、各企業のリソースにふさわしい支援を提供するために、ピースマインドは進化し続けていく。2025年新たに発足した「心の健康投資推進コンソーシアム」(P31参照)の共同発起人かつ理事としても、産学官連携のムーブメントを起こし、ウェルビーイングにしっかりと投資する社会づくりを目指したい。

 

※1 厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」2025年8月
※2 GALLUP「State of the Global Workplace 2025 Report」2025年5月
※3 欠勤には至っていないが、健康問題が理由で出勤時の生産性が低下している状態。WHOが提唱した「健康問題に起因するパフォーマンス損失」の指標
※4 Hara et al., JOEM 2025

PROFILE
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荻原 英人
hideto ogihara
ピースマインド(タナベコンサルティンググループ)
代表取締役社長
国際基督教大学卒。1998年メンタルヘルスサービスのピースマインド創業。日本・アジアにおけるEAP(従業員支援プログラム)サービスのパイオニアとして「はたらくをよくする®」事業を推進。Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」選出。著書『レジリエンス ビルディング』(英治出版)。一般社団法人心の健康投資推進コンソーシアム共同発起人・理事。