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モデル企業
地域から未来を拓く:中堅企業の挑戦
全国で輝く中堅・中小企業に焦点を当て、その挑戦や歴史をひも解きます。
モデル企業 2025.09.29

未来を切り拓くSKホールディングスの人材育成  〜すべての人材に経営力を〜 SKホールディングス

未来を切り拓くSKホールディングスの人材育成 〜すべての人材に経営力を〜

暮らしをより豊かにするエコシステムの確立へ

 

―― SKグループは、株式会社サイコー、株式会社SKトレーディング、株式会社ステップスナイン、株式会社SKホールディングスの4社で形成されています。各社の事業内容をお聞かせください。

 

1973年創業のサイコーはSKグループの中核企業で、古紙や産業廃棄物などの収集・処理を行っています。SKトレーディングは企業の廃棄物処理担当者の代行業務を展開し、ステップスナインはスーパーマーケットなどの店頭に古紙リサイクルステーションを配置して家庭から出た古紙をポイントに交換できるシステムを運営・管理。SKホールディングスはグループ各社の新規事業のインキュベーター的な役割を担い、広報や人事・採用も担当します。グループ全体の売上高(2024年度)は約98億円です。

 

ステップスナインが展開する古紙リサイクルステーションは全国トップクラスの431カ所に及び、月間約7000tの古紙を回収します。また、SKトレーディングは全国64企業と取引を行い、約1350店舗から出る古紙や廃棄物の管理を担当。SKグループの古紙取扱量は、東北地域トップクラスの15万tに及びます(2025年4月時点)。

 

新たな取り組みとしては2つの事業を推進しています。1つ目が「Pocci!(ポッチ)」です。会員企業が古紙をリサイクルする際、重量に応じたポイントを提供し、地域に根付いたスポーツチームや“こども食堂”などを運営する団体を支えるプラットフォームづくりを推進しています。

 

2つ目は「ぐるっとポン」。これはリサイクルステーションと連動した“リサイクルアプリ”で、景品が当たるデジタルガチャが楽しめるほか、電子マネーやスーパーで使える割引券に交換できるコインがもらえる仕組みです。全国に約12万人の会員登録者がおり、月間PV数は200万に達します。

 

産学連携の研究活動にも積極的に参画し、東北大学と共同で「AIを活用した変動リサイクルポイント・システム」の実証実験を通じて、古紙持ち込み件数の大幅な増加を確認できました。

 

 

価値観を共有し、心理的安全性の向上と事業拡大を実現

 

―― 約200名の社員を有するサイコーの離職率は3.9%(2023年度)と非常に低いですね。

 

廃棄物処理業は離職率の高い業界です。2012年のサイコー代表取締役就任以前から「社員に長く勤めてもらわないと事業が拡大しない」という危機感を抱いていました。「給与をもらうためだけに会社に所属する」といった関係性では、離職率は低減しません。中小企業は給与面で満足感を高めるのは大変難しいですが、社員間のつながりや仕事のやりがいの面では高い満足感を共有できるはずです。経営者と社員が強く深くつながるのは非常に大事だと思うので、さまざまな情報をオープンにしながら「社員みんなで作っていく箱」みたいな会社でありたいと意識しながら、離職率低減に取り組みました。

 

具体的な取り組みの1つに、毎月開催する「誕生日会」があります。非管理職で誕生日を迎えた社員を集め、業務の話はせず日常的な会話を通して経営者である私のことを知ってもらおうと、2008年くらいにスタートしました。

 

培った信頼関係をしみじみと実感できたのは、東日本大震災が起きた翌日の2011年3月12日。多くの社員が出勤して「何かやれることはありませんか」と言ってくれたのです。自らも被災して大変な状況なのに……。その時に感じた一体感が、事業の復興を加速したと思います。

 

―― 「自分力向上プロジェクト(ジリキ)」という研修制度があります。その内容を教えてください。

 

「他人と意見を交わしながら自分力を高める」との意味を込めたプロジェクトです。

 

2009年からサイコーの幹部社員と部課長が集まって「何のために働くのか」「従業員と管理職はどのような関係性であるべきか」といったテーマについて毎月議論を重ねる中で、価値観を共有して部下の話をバイアスなしで聞き取るトレーニングを開始。2011年からは入社3年目までの新卒社員も、さまざまなテーマで議論を重ねながら自分力の向上に努めています。

 

プロジェクトに参加した社員の総数は100名ほどになるでしょう。これも離職率の低減に大きく影響していると思います。

 

―― ジリキプロジェクトは15年ほど継続しています。かなりのリソースをかけていますね。

 

サイコーは労働集約型のビジネスモデルなので、社員を確保するためにプロジェクトの実施を決断したのは事実です。しかし、今振り返ると、その決断によって価値観を共有しながら働く仲間が増えたことが、互いの個性を認め合える、心理的安全性の高い職場環境を生み出しており、SKグループの事業拡大につながっています。

 

 

共創を通じ、新たな価値を生み出す

 

―― SKグループの将来ビジョンをお聞かせください。

 

細分化する地域課題を解決するビジネスを展開したいと考えています。SKグループのリソースだけで多様な課題を解決するのは難しいので、さまざま会社と共創して解決する「共創コミュニティー」をつくり始めました。

 

ホームページなどを通して「地域を良くしたいという思いを持ち、私たちと何か新しいことをしたい人、同じような価値観を持っている人は意見交換しませんか」と発信することで仲間が増えており、“価値観の共有化”が進んでいると感じます。

PROFILE
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齋藤 孝志 氏
takashi saito
SKホールディングス 代表取締役
1975年仙台市生まれ。SKグループ代表。現在、スーパーと連携した個人向け古紙回収ボックス「リサイクルステーション」の全国展開や、企業から出る古紙でスポーツ少年団や子ども食堂などの地域団体を支援する「Pocci!(ポッチ)」などの社会課題解決型の新規事業を展開中。2022年には地元経営者と共同で「株式会社雑談会議」を設立、仙台市の定禅寺通りでイノベーションプラットフォーム「IDOBA」を運営、企業経営者や行政、フリーランス、学生などが集うイベント「雑談ミーティング」を定期開催し、地域課題解決の事業共創に取り組む。