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研究リポート
PR/広報研究会
クロスメディア時代を生き抜くために欠かせない「PR/広報」の本質的価値と、顧客体験価値向上に成功している企業の事例を通して、最適なコミュニケーション手法を研究します。
研究リポート 2025.09.30

「牛乳石鹼」のファンづくりコミュニケーションとは 牛乳石鹸共進社

【第4回の趣旨】
タナベコンサルティングのPR/広報研究会では、多種多様な企業の成功事例から、自社におけるPR戦略構築から具体的実装力を強化する方法を学び、自社の魅力を最大限に発信する広報・PRのメソッドを提供する。
第2期第4回のテーマは「ファンマーケティング/マスメディア活用による情報拡散」。売上不振から起死回生を成し遂げた牛乳石鹼共進社株式会社の宮崎氏より、ファンづくりにつなげるコミュニケーション戦略や各種成功施策について解説いただいた。

開催日時:2025年8月29日(大阪開催)

 

はじめに

 

牛乳石鹼共進社(以降、牛乳石鹼)は、創業116年を迎える老舗企業であり、石鹸業界において確固たる地位を築いてきた。その象徴ともいえる商品「カウブランド 赤箱」は、発売から約100年を経た今もなお、多くの消費者に愛され続けている。しかし、近年、ロイヤルユーザーの高齢化やテレビCMの撤退によって認知度が低下。ブランドの存続に大きな課題をもたらした。こうした状況下で、同社は「ファンマーケティング」という新たなアプローチを採用し、ブランドの再定義とターゲット層の拡大に成功した。本研究会では、牛乳石鹼の取り組みを通じて、企業がどのようにしてファンを育成し、ブランド価値を持続的に高めていくのか、その戦略と実践を学ぶ。

 


 

長きに渡りブランドが愛される戦略づくり

 

同社の「カウブランド 赤箱」が長きにわたって、多くの消費者に支持されている背景には、商品の品質を守り続ける姿勢と、消費者との深い信頼関係がある。

 

同社は、赤箱の「肌にやさしい」という特性を一貫して訴求し、皮膚科医からの推奨や、口コミによってブランドへの信頼を築き上げた。近年は、SNSやブログでの一般ユーザーからの口コミを活用し、若年層にその価値を伝える努力を続けている。これにより、従来のユーザーだけでなく、若年層にも支持されるブランドへと進化した。長期的な視点でブランド価値を育む姿勢は、全ての企業にとって経営のヒントとなるだろう。

 

 

 

赤箱のパッケージ変遷(上)
牛乳石鹼の商品ラインアップ(下)
出所:宮崎氏講演資料より

 

時代に合わせて変化するブランドの在り方

 

ロイヤルユーザーの高齢化が進む中で、若年層へのアプローチが急務となった同社は、時代の変化に応じて「ブランドの在り方」を柔軟に見直してきた。例として「赤箱女子」のプロモーションが挙げられる。同プロモーションでは、ターゲット層を若年層の女性に設定し、SNSを活用して、ブランドの価値を再構築。単なる商品PRにとどまらず、消費者のライフスタイルや価値観に寄り添う表現で展開された。結果として、若年層の間で「カウブランド 赤箱」 がプチプラコスメとして認知されるようになり、ブランドの新たなファン層を獲得することに成功した。時代に合わせてブランドを進化させる重要性を示す好例と言えよう。

 

※現在は、ジェンダーを限定せず展開中

 

 


同社の「赤箱女子」特設サイト(実施当時)
出所:宮崎氏講演資料より

 

ファンマーケティングの考え方と具体的事例

 

同社では、ファンマーケティングを通じてブランド価値を高める施策を展開している。その一例が、スノーボードやクライミングといったマイナースポーツへの支援だ。スポーツを通じて、選手やファンとの深いコミュニケーションを図り、ブランドへに対する愛着を育んでいる。

 

加えて、キッザニアでの石鹸工場体験や銭湯文化とのコラボレーションなど、体験型イベントでは、消費者にブランドの魅力を直接伝える。これらの施策は、単なる広告活動ではなく、消費者との共感を生む場を提供するものであり、ファンマーケティングの本質を体現している。


スノーボード選手である岡本圭司選手のスポンサーを務める(左)
1979 年から開催されている学生軽音楽コンテスト「スニーカーエイジ」に出資している(右)
出所:宮崎氏講演資料より(?)

PROFILE
著者画像
宮崎 清伍 氏
牛乳石鹼共進社
コーポレートコミュニケーション室 室長