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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.08.29

顧客データを活用したロイヤルカスタマーへのCRM戦略 山崎 雄大

顧客データ利活用の重要性と課題

 

人口減少や消費行動の多様化、高度情報社会の進展で、従来のマーケティング手法では成果を上げることが難しくなっている。こうした企業環境の変化に伴い、新規顧客の獲得が困難になる中、既存顧客との関係性を深めるCRM(顧客関係管理)の重要性が増している。

経営環境の変化に対応する上で重要となるのが、「顧客データの利活用」である。顧客データは、顧客の行動や嗜好を理解し、適切な施策を設計するための基盤となる。しかし、多くの企業では次のような課題が見られる。

❶ データの分散管理
部署間でデータが統合されておらず、活用が進んでいない。例えば、営業部門とマーケティング部門がそれぞれ独自の顧客データを管理している場合、全体像を把握することが困難になる。

❷ ロイヤルカスタマーの不明確さ
「自社にとってのロイヤルカスタマーが誰なのか」を特定できていない。重点的にアプローチすべき顧客層が不明確となり、施策の効果が薄れる可能性がある。

❸ 施策の偏り
新規顧客獲得に注力しすぎるあまり、既存顧客の育成がおろそかになっている。結果として、顧客の離脱率が高まり、収益の安定化が困難になる。

本稿では、これらの課題を解決し、ロイヤルカスタマーを育成するための具体的なCRM戦略の作成方法を解説する。

 

顧客データを活用したCRM戦略の設計

 

ロイヤルカスタマーとは、「自社ブランドに強い愛着を持ち、他社製品に乗り換える可能性が低く、さらにブランドを推奨してくれる顧客」を指す。ロイヤルカスタマーを特定するためには、「定量的アプローチ」と「定性的アプローチ」の2つが有効である。

定量的アプローチの例として、RFM分析(Recency:最終購入日、Frequency:購入頻度、Monetary:購入金額)がある。このRFM分析を活用して、顧客をセグメント化する。

例えば、来店頻度や購入金額が高い顧客を特定し、重点的にアプローチすることで、売り上げの拡大につなげる。ある企業では、RFM分析を基に顧客を分類し、ロイヤルカスタマーを含めた各顧客層に対して適切な施策を実行することで、売り上げの拡大を図る戦略を策定した。

定性的アプローチの例としては、インタビューや観察調査が挙げられる。顧客の購買行動の背景や価値観を深く理解し、ロイヤルカスタマーがどのような感情や価値観を持っているのかを明らかにすることで、彼・彼女らに響く施策を設計できる。ロイヤルカスタマーの特徴を明確にし、育成のための具体的な施策を設計していく。

CRM戦略とは、「顧客データを利活用したアプローチにより、『顧客の満足度』を向上させ、継続利用を促進することで『自社の収益』を高める戦略」である。(【図表】)

 

【図表】CRM戦略の全体像
【図表】CRM戦略の全体像
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

CRM戦略の実現に向けては、戦略が求める顧客像を基に、それを実行する組織体制を構築し、顧客の識別と関係性強化を繰り返すことで、顧客ロイヤルティーを向上させることが重要である。また、CRM戦略を成功させるためには、顧客データを「インプット」「マネジメント」「アウトプット」の3段階で活用することも肝要だ。

❶ インプット:顧客データの収集
顧客データの入力ルールを統一し、必要な情報を確実に収集する。例えば、営業担当者が顧客との接点で得た情報をシステムに入力する業務フローを設計することで、データの品質を向上させる。後続の分析や施策に活用できる基盤を整えることが可能となる。

❷ マネジメント:データの統合と管理
部署間で分散しているデータを統合し、必要な頻度(リアルタイム、週次など)で連携する基盤を構築する。例えば、顧客管理システムとウェブサイトのデータを統合すれば、オンラインとオフラインの行動を一元的に把握できる。顧客の購買履歴や行動パターンを詳細に分析し、施策の精度を高めることができる。

❸ アウトプット:顧客へのアプローチ
収集したデータを基に、顧客体験を向上させる施策を実施する。具体例として、顧客情報に基づく誕生日クーポンの送付や、購入履歴に基づくパーソナライズされた提案などが挙げられる。

 

全社視点でのCRM戦略推進とKPI設定

 

CRM戦略の推進には、経営層と現場が連携し、全社的に取り組むことが不可欠である。また、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、進捗しんちょくを可視化することが求められる。

KPIの具体例としては、まずインプット段階で「顧客データ入力率」や「更新率」、マネジメント段階では「データ連携回数」や「同期成功率」、アウトプット段階では「リピート率」や「メール開封率」「コンバージョン率」などを設定すると良い。

KPIを用いた改善例として、「営業担当者の顧客情報入力のタイミングの明確化による入力内容の標準化」が挙げられる。これにより、データの収集効率と品質が向上し、その後の施策効果の測定と改善を繰り返すことで顧客満足度の向上が可能となる。

カフェ運営におけるCRM戦略の事例を紹介したい。あるカフェでは、アプリを活用して顧客の購買履歴や行動データを収集し、パーソナライズされた提案を行っている。例えば、夕方の時間帯に特定の顧客層へ向けてアプリ通知を送り、来店を促進するといった形で顧客との関係性を深めている。このような取り組みが、顧客満足度の向上とロイヤルカスタマーの育成につながるのだ。

人口減少や消費行動の多様化により新規顧客の獲得が困難になる中、既存顧客との関係性を深めるCRM戦略の重要性は高まっている。特に、ロイヤルカスタマーの育成は、収益安定化の鍵となる。

本稿の重要ポイントをまとめると、まずはロイヤルカスタマーの定義を明確化すること。 RFM分析やインタビュー調査を通じて、「自社にとってのロイヤルカスタマーが誰であるか」を特定する。

次に、顧客データの収集・管理体制を整備し、顧客体験を向上させる施策を実施すること。データ入力ルールを統一して情報連携の基盤を構築し、誕生日クーポンやパーソナライズされた提案といった、顧客満足度を高める施策を導入する。

最後に、CRM戦略を全社戦略として推進すること。戦略が求める顧客像を設定し、それを実行する組織体制を構築した上で、経営層と現場が一体となって取り組む必要がある。

顧客データを利活用してロイヤルカスタマーを育成し、顧客との関係性を深めることで、競争の激しい市場での優位性を確立していただきたい。

 

 

PROFILE
著者画像
山崎 雄大 
YUTA YAMAZAKI
タナベコンサルティング
マネジメントDX チーフコンサルタント

地方自治体にて予算・決算調整、長期収支計画策定、飲料メーカーの新ブランド立ち上げに参画。その後、中小企業支援機関にて年間60社以上の経営者へ事業計画立案支援を行った後、タナベコンサルティング入社。デジタルを活用したマーケティング支援をはじめ、小売業のCRM戦略策定・実行支援を行うなど、常に経営者視点を意識したコンサルティングを展開している。中小企業診断士。