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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2025.07.02

パートナーシップで攻めて守って価値づくり 加賀建設

はじめに
加賀建設株式会社は、石川県金沢市に本社を構える地域創造型の建設会社である。近年ではウェルビーイング経営に力を入れ、健康経営優良法人の中でも優れた企業のみが選ばれるブライト500に3年連続で認定されている。こうしたことから、従業員の女性比率も高く、新社屋はフルZEB認証を受けた日本海側で最大の木造建築物として、カーボンニュートラルにも取り組んでいる。メインの総合建設事業の中では、日本海側の海岸や施設を守る港湾・海上土木を得意としており、陸上工事や特徴ある建築物など様々な形で社会インフラの整備を推進している。また、地域活性化を目的に国内、海外と多くの事業・プロジェクトを成功させており、地域の発展に寄与するパートナーとして信頼を得ている。
今回の講演では、「パートナーシップで攻めて守って価値づくり」をテーマに掲げ、加賀建設株式会社がどのようにパートナーシップを活用して戦略的な価値創造を実現しているのか、そして次世代のために地域社会と共に成長するビジョンを描いているのか学ぶ。
開催日時:2025年5月21日(北陸開催)

 

パートナーシップによる社会インフラマネジメント

 

国内には約58,000カ所の港湾施設が存在し、その多くで老朽化が進行しており、2040年には50年以上経過する岸壁が全体の約7割を占めるといわれている。また、港湾施設の作業や点検を担う潜水士の人数も高齢化の影響で大幅に減少しており、近い将来に現在の約3分の2にまで減少する見込みである。特に海中や水中の状況は目に見えないため、陥没や崩壊などの問題が発生して初めて対処するという後手に回るケースが多いのが現状である。

 

こうした課題に対する解決策として、「水中ドローン」を開発するスタートアップ企業との連携を通じて港湾施設の点検や、工事での活用など建設DXの取り組み進めている。

 

技術の組み合わせにより、水中作業の安全性向上と作業の「見える化」を同時に実現し、潜水士の負担軽減を見込んだ社会課題の解決にも寄与している。

 

水中ドローンの活用

水中ドローンの活用

 

パートナーシップにより地域の魅力を世界へ

 

建設業で培った管理手法を活かして、地域が持つ食の魅力を活かした事業にも多く取り組んいる。その一つが「棒茶」の事業であり、石川県と石川県立大学による共同研究の特殊な焙煎方法をもとに、生産と販売も手掛けている。棒茶とは、お茶の製造工程で選別される「茎の部分」を焙煎して作られるお茶であり、金沢を代表する特産品の一つである。

 

加賀建設株式会社の鶴山社長は、世界を巡る機会が多かったなか、飲み慣れた日本茶より品質の悪い海外製品が出回っている現状に、海外事業を行っていく可能性を感じた。そして、2019年に農林水産省が輸出先の嗜好に合わせて食品をつくっていく「マーケットイン輸出への転換」を推進していくことを知り、この流れに乗る形で棒茶の海外展開を決意した。

 

海外の方が受け入れやすいような特徴的なパッケージデザインや、オーガニック製品を示すための有機JAS認証、そして最も厳しい食品安全衛生基準であるFSSC22000を取得した。現在、アメリカやドイツ、フランスなど、世界各国に事業を広げていっている。

 

自社製造している棒茶の海外展開

自社製造している棒茶の海外展開

 

 

パートナーシップによる次世代の学びの提供

 

加賀建設株式会社では「ひとづくり=まちづくり」と捉え、次世代につなぐウェルビーイングなまちの持続可能な創造を目指し、以下のような取り組みに挑戦している。

 

まず、地域の古い町家を購入し、子どもたちの生きる力の育成や、自信がつくような学びの提供を目的に、リビング空間やアトリエスペース、図書スペースなどを有する『金石町家(仮)』を2023年にオープン。定期的にイベントやワークショップを開催しており、専門性を持った大人や大学生たちが、地域の小中学生にプログラムを提供している。この施設には市中心部や市外、県外からも見学者が多く訪れており、アーティスト連携の拠点としても活用が進んできている。挑戦的な取り組みを頻繁に行っていくことで、子どもたちの教育や、取り巻く環境に課題を抱えている日本の各地方への展開を狙っている。

 

また、社員の仕事への意欲やエンゲージメントを高めるための取り組みも進めている。具体的には、パートナー企業との積極的な健康経営の推進や、DXを活用した働きやすい環境の整備・休暇制度の充実を図っている。例として、①社内でサプリメントやドリンクの提供。健康アプリを活用して健康面のコントロール。健康イベント&セミナーの定期開催。②家庭の生活状況に合わせて緩やかな形から段々と通常勤務に変えていくといった就業制度や時差出勤の活用。③有給休暇以外にも子どものための特別休暇を整備。

 

このような取り組みを推進していった結果、平均年齢が30代前半と若く、社員の満足度や生産性の向上、新たな人材の確保といった成果が生まれている。そして、顧客から信頼される企業として、地域とのパートナーシップを軸に戦略的な価値創造を進めている。

 

加賀建設株式会社は、これらの活動を通じて地域社会と共に成長し、持続可能な未来を築くための挑戦を続けている。今後もウェルビーイングを基盤とした経営を推進し、社会的課題の解決に貢献していくだろう。

 

フルZEB認証の新社屋

フルZEB認証の新社屋

 

次世代のための地域の学び場

次世代のための地域の学び場

PROFILE
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鶴山 雄一 氏
加賀建設株式会社 代表取締役