【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会第5回では、「ガバナンスモデル 自走するための権限移譲と必要なガバナンス体制」というテーマのもと、厳しい経営環境において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する。
また、実践的な知見を得ることで、自社の経営改善に役立てることを目的としている。
開催日時:2025年5月30日(東京開催)
はじめに
カケフホールディングスは、1948年にトタン板の販売から事業を開始し、現在では金属加工業を中心に多角的な事業を展開するグループ企業である。
同社は2017年にホールディングス体制を導入し、各事業会社の独立性を高めると同時に、グループ全体のシナジーを最大化する経営モデルを構築した。この体制は、単なる経営効率化にとどまらず、M&Aの加速、社員のエンゲージメント向上、健康経営の推進、BCP(事業継続計画)の整備など、多岐にわたる成果を生み出している。
本講演では、同社がホールディングス体制を通じてどのように課題を克服し、成長を実現してきたのか、その具体的な取り組みと成果について、代表取締役の掛布拓雄氏と、取締役の二戸良典氏にご講演いただいた。特に、地域密着型企業としての強みを生かしながら、逆風の中で力強く成長するための戦略が共有され、参加者にとって多くの示唆を与える内容となった。
カケフホールディングスのグループ体制は、事業会社の独立性を保ちながらガバナンスと資源配分を一元管理し、全体の成長を促進する構造になっている
出所:カケフホールディングス講演資料
ホールディングス体制の導入
同社が描くホールディングス体制図は、各事業会社の独立性を尊重しつつ、グループ全体のシナジーを最大化する構造になっている。この体制では、金属加工業を中心とした事業の専門性を生かしながら、ホールディングス本部がガバナンスと資源配分を一元管理することで、効率的かつ、柔軟な経営を実現している。
具体的には、2017年のホールディングス化以降、M&Aを加速させ、浜松市の木造住宅メーカーであるワンズホームをグループに迎え入れることに成功した。このM&Aは、BtoB中心の事業からBtoCの視点を取り入れるという戦略的な意図があり、結果としてグループ全体の事業ポートフォリオ強化に成功している。
さらに、ホールディングス本部が資金調達を一括管理することで、銀行との交渉力が向上し、各事業会社が本業に専念できる環境を整備した。単なる経営効率化にとどまらず、事業の成長を支える基盤として機能しているのだ。
プロフェッショナル人材の採用による外部視点
同社は、外部からプロフェッショナル人材を積極的に登用することでガバナンス体制を強化している。既存社員が苦手とするコーポレート領域(経営企画・財務・法務など)を外部の専門家が補完することで、組織全体のバランスを向上させている。
また、社外取締役や監査役を活用することで、忖度のない意見を取り入れ、取締役会の緊張感と質を高めることにも成功している。
これらの取り組みにより、経営判断の精度が向上し、リスクヘッジの仕組みが構築された。外部視点は、組織の盲点を補い、持続可能な成長を支える重要な要素となっているのだ。同社の事例は、外部人材の活用が組織の成長にどのように寄与するかを具体的に示しており、他企業にとっても参考となるモデルケースである。
カケフホールディングスの中期経営計画で掲げられた経営方針
出所:カケフホールディングス講演資料
ガバナンス体制の強化と成長戦略の両立
企業の成長にはリスクが伴うが、ガバナンス体制を強化することでリスクを減らし、企業の成長を持続可能なものにできる。カケフホールディングスでは、M&Aを進める際にガバナンス体制の整備を優先し、成長が膨張に終わらないよう慎重に取り組んでいる。
具体的には、取締役会や株主総会の運営を法律に基づいて厳格に行い、監査法人や外部専門家を活用して財務状況や企業価値を客観的に評価している。このような取り組みにより、既存事業の深耕進化、新規事業の創出、経営基盤の強化を同時並行で進めることが可能となった。
ガバナンス体制の強化と成長戦略の両立は、企業が持続的成長を実現するための鍵である。同社の事例は、ガバナンスが成長戦略の基盤としてどのように機能するかを具体的に示している。
カケフホールディングスエントランス前での集合写真(健康経営推進プロジェクトチーム)
出所:カケフホールディングス講演資料