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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2025.04.28

アール・エフ・ヤマカワの成長の軌跡とポートフォリオ経営 アール・エフ・ヤマカワ

【第1回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマにさまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第12期のテーマを

「The Intersection of Business Sense
~ビジネスモデル イノベーションを実現するための感性を磨く交差点~」

とし、ゲスト企業の視察を実施した。
研究会参加者は、マネーフォワード、アール・エフ・ヤマカワ、カーツメディアワークスの講話・現場視察から、「コ・クリエーション戦略(企業と利害関係者(ステークホルダー)が協働して新たな価値を創造する戦略)」について学んだ。

開催日時:2025年3月4日(東京開催)

 

はじめに

 

アール・エフ・ヤマカワは、1962年に創業したオフィス家具、ホーム家具、インテリア小物の製造・販売およびデザインを手掛けるメーカーである。企画から内装工事まで、ワンストップで対応するトータルソリューションを提供している。

 

本拠地である三重県での家具製造を祖業とし、世代交代を経てファブレス経営(自社で工場を持たずに製造を外部に委託する経営)へと転換した。現在は、「ものづくり」から「空間づくり」へとビジネス領域を拡大し、機動力と柔軟性を強みとして東京・大阪・三重の3拠点で事業を展開している。

 


アール・エフ・ヤマカワのオフィス内観

 


 

事業の軌跡

 

同社は、1962年に三重県久居市(現津市)で創業し、航空機材のハニカムコアを活用したテーブル天板の製造を開始した。「新たなライフスタイルの家具提供」を掲げ、ちゃぶ台からテーブルへの転換を目指した。バブル期には事業拡大を進め、1988年に社名を変更、1992年には新社屋の完成や東京ショールームの開設を実現したが、バブル崩壊後に事業が低迷し、売り上げが落ち込んだ。

 

2006年以降、事業再構築を図り、生産拠点を海外に完全移行し、家具以外の雑貨や文具も取り扱うことで売り上げを回復させた。さらに、海外拠点の設立や展示会への出展を通じて国際展開を進め、売上高20億円を達成した。2012年には創業50周年を迎え、組織経営体制への移行や人事評価制度の導入を実施した。その後、オフィスプランニングを主体とするトータルソリューションビジネスに着手し、介護リフォーム事業やコロナ特需商品の開発に取り組んだ。

 

同社代表取締役社長の木村奬氏への事業承継後は、OEM体質からの脱却と自社ブランド商品の確立を目指した。2023年には創業60周年を迎え、2024年には福岡に無人運営のショールーム兼コワーキングオフィスを開設。また、企業理念を「“デザインする”ことで、​笑顔で暮らし、学び、働ける『場』を創る。 」に変更、過去最高売上の達成し、さらなる成長を目指している。


業務用家具・インテリア用品の企画デザイン、設計製造から販売に至るまで一貫して行っている

 

経営の課題

 

同社は、急激な為替変動や海外取引に伴う課題に直面してきた。2011年から2022年にかけて円の価値が半減し、仕入原価が倍増した。さらに、為替デリバティブ商品の契約による損失が発生し、安定的な外貨仕入れの必要性が高まった。

 

在庫管理にも課題があり、欠品が許されない取引先への依存により、最低2~3か月分の在庫保持が求められたことで運転資金の回転率も悪化した。取引状況においては、売り上げ・仕入れの1社依存度が高く、2011年度の売上高20億円のうち、上位3社が80%以上を占める構造が効率性を生む一方で、低利益率や原価コントロールの難しさなどの課題に直面した。商品開発においては、顧客要望に依存し、独自性が低い商品が増加するなど販売先主導のビジネスモデルが課題となった。

 

これらの課題に対し、同社は為替依存からの脱却を目指し、国内仕入れを拡大した。在庫品以外の売り上げの柱を確立し、販売・仕入依存度を分散させるとともに、生産地の多様化に取り組んでいる。さらに、自社主導の商品開発を推進し、適正在庫運用の効率化やキャッシュフロー改善を図ることで、安定した経営体制を構築している。これらの施策により、同社は持続可能なビジネスモデルへの転換を進めている。


各種サービスとコワーキングスペースを展開する福岡ショールーム

 

課題解決のためのポートフォリオ戦略

 

同社は、「輸入メインのファブレスオフィス家具メーカーからトータルソリューションカンパニーへの進化と、さらなる経営基盤の安定を求めた多角化推進」を目指し、事業ポートフォリオを「営業ポートフォリオ(売上関連)」と「仕入ポートフォリオ(仕入関連)」に分類して事業を整理している。

 

営業ポートフォリオでは、営業強化や商品ラインナップの多様化(自社商品の統合・改廃による効率的な商品構成の構築)、他メーカー商品の仕入販売に取り組んでいる。また、トータルソリューション事業、介護リフォーム、コワーキング運営などの新規事業展開を通じて、顧客ニーズへの対応と事業の安定化を進めている。

 

仕入ポートフォリオでは、海外仕入開拓経験者の積極的な採用や、社長直下の特務タスクフォースの設置により、海外仕入先の開拓を推進している。さらに、新規国内仕入先の開拓や既存商品の工場移行プロジェクトを進め、主要取引先の国内市場進出にも対応している。

 

同社はこれらの取り組みを通じて、事業の安定化と成長を実現している。

PROFILE
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木村 奬 氏
アール・エフ・ヤマカワ株式会社 代表取締役社長