「統合報告書を作ることになったけれど、何から始めれば良いのか分からない…」。
そんな不安を抱える経営企画部や広報・IR担当者の方も多いのではないでしょうか。
初めて統合報告書を制作するに当たり、どんな準備をしたのか? どんな苦労があったのか? 試行錯誤の裏側や、実際に直面した課題、目指すべき制作の在り方など、リアルな経験談をタナベコンサルティンググループ経営企画部に聞きました。
Q:統合報告書を作成することになったきっかけを教えてください。
A: タナベコンサルティンググループの統合報告書の始まりは2021年3月頃にさかのぼります。2022年4月からの東証市場再編に際して、当社はプライム市場に移行することを決めました。プライム上場企業に求められる情報開示の水準は他市場よりも高く、当社が上場維持基準を満たしていく過程で再認識したのは、機関投資家と個人投資家の両方に対する認知度の向上を図り、当社の企業価値を明示し理解いただくことの必要性でした。
また、コーポレートガバナンス・コードにおいて、企業の中長期的な価値創造プロセスや資本政策などに関する情報開示が推奨されていることも、統合報告書を制作することになった理由の一つです。
こうした背景を踏まえ、経営企画部が統合報告書の必要性を提言し、会社全体で『制作するべきだ』との共通認識が形成され、制作が進められることとなりました。
Q: 作成は誰が、どうやって進めていきましたか?
A: 最初は経営企画部の体制も万全ではなかったので、担当者1人で制作のかじ取りをしていました。初めてのことで、何もかも手探りだったと思います。制作は当社のことをよくご存じの会社にご依頼して、サポートしていただきました。
Q: 苦労したことや大変だったことはありますか?
デザインには苦労しました。見やすく、分かりやすいデザインを考えるのに想定以上の時間がかかりました。そうなった原因は、制作会社に当社の求めるイメージをお伝えしきれなかったこと、また、社内で完成イメージを共有できていなかったことにもあります。
初めての制作ということもあり、完成図を描き切れていない状態で制作が進行してしまい、一部では制作を進めながらイメージを固めていくこともあったため、スムーズにいかない部分が多々ありました。
その他に大変だった点としては、各部門や事業部との社内調整が挙げられます。初めての制作の際は、掲載する内容の確認に想定より時間がかかってしまい、全体のスケジュールを調整することもありました。確認する側も初めてのことなので、各部門も手探りだったのではないでしょうか。
ただ、実際に完成した統合報告書を見て「次はもっとこうしたい」といったご意見をいただいたりもしたので、積極的に取り組んでいただいた実感はあります。
Q: 完成した統合報告書はどのように活用されていますか?
A: 統合報告書は、主に以下の用途で活用されています。
• 投資家に向けた発信
• 採用活動における当社グループへの理解促進
• クライアントへの当社グループの説明
その他にも、コンサルタントがクライアントに統合報告書の重要性を説明する際の実例としても使用されています。また、昨今は就職活動中の学生が企業研究のために統合報告書を読むケースが増えているといわれており、当社グループの採用活動にも貢献できているのではないかと考えています。
ただし、現状では投資家への認知度や活用率はまだまだ低いと捉えており、もっと読んでいただけるように改善していきたいと思っています。
Q: 統合報告書に対する社内の反応はどうでしたか?
A: 最初の統合報告書を完成させたときは、純粋に新しいものができたということに対してポジティブな評価をいただけていたと思います。特に、各事業部について役員が詳しく説明している資料はそれまでなかったので新鮮でした。会社案内にも事業部の紹介はありますが、より詳しく当社グループのことを知っていただけるツールになったと思います。
事業部のページも役員がそれぞれ自ら執筆しています。制作の過程で全体のトーンを合わせるような編集はもちろんしていますが、それでもよく読むと事業部ごとのカラーや思いが表現されていて、これが良い意味で熱のこもった発信になりました。
Q: 今後、挑戦したいことはありますか?
A: 次回の制作では、投資家目線でのフィードバックを反映しつつ、より効果的な統合報告書の作成を目指しています。また、投資家だけでなく幅広いステークホルダーに読んでいただけるよう、コンテンツやデザインなどアップデートしていく予定です。統合報告書を見ていただいた人に、どう感じてほしいか、どんな行動に結び付いてほしいかまで意識してレベルアップしていきたいと思っています。
また、制作の過程にもっといろんな方を巻き込んでいきたいと考えています。制作に携わることは、あらためて会社のことを理解する良い機会になるからです。会社の理念やビジョンを浸透させ、グループ内のコミュニケーションを活性化することにつながります。
また、統合報告書で開示した情報に対して外部からいただくご意見は、必然的に自分たちの経営を見つめ直すきっかけにもなります。
これまでも各部門からはさまざまな情報を提供いただいているのですが、統合報告書の制作が本質的にはこのようなインナーコミュニケーションの機会になるよう、取り組み方や人の巻き込み方を模索しているところです。統合報告書を通じてどのようなことを伝えたいか、そのためにはどんな情報があったら良いかを、グループの皆さんと一緒に考えていければいいなと思っています。