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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.03.03

「ワーク・イン・ライフ」を体現する新しい働き方を支援 ユニリーバ・ジャパン

社員が働く場所や時間を決める「WAA」を導入

 

ユニリーバ・ジャパンは、世界最大級の一般消費財メーカーであるユニリーバの日本法人として1964年に設立された。これまで「LUX」や「Dove」「PON’S」「ドメスト」などビューティー&パーソナルケア、ホームケアの分野で数多くのブランドを確立し、60年にわたって幅広い年代から親しまれてきた。

ユニリーバは以前から「サステナブルな暮らしを“あたりまえ”にする」というパーパスを軸に、さまざまな環境問題や社会課題と向き合ってきた。中でも、「エクイティー、ダイバーシティー、インクルージョン」や「働き方」は、長年、積極的に取り組んできたテーマである。ユニリーバがずっと大切にしてきた「Be Yourself(あなたらしさ)」という考え方のもと、誰もが輝ける職場や社会を目指して先進的な試みに挑戦し続けている。

その代表的な試みとして、2016年7月に導入されたのが「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」である。一言で説明すると、働く場所や時間を社員が自由に選ぶことができる制度だ。上司に申請が必要だが、業務上の支障がなければ、理由を問わず会社以外の場所で仕事をすることができる。また、平日午前5時から午後10時の間であれば、勤務時間や休憩時間を自由に設定できる上、1日の労働時間は決められていない。

利用に当たって期間や日数の制限はないものの、1カ月の所定労働時間が設けられており、労働時間が足りない場合は翌月に不足分を調整する。なお、社員の業績は、成果主義をベースとする人事評価制度に基づいて、アウトプットだけで評価される。

思い切った新制度が導入されたきっかけは、2014年にイタリア出身のフルヴィオ・グアルネリ氏が同社代表取締役プレジデント&CEOに就任したことだった。それまでもフレックスタイム制度や在宅勤務制度は存在していたものの、連日残業する社員の多さや始業の9時にエレベーター前に行列ができるような日本の働き方に疑問を呈し、より働きやすく生産性を高める新たな仕組みづくりがスタート。新しい働き方のビジョンや仕組みの検討を経て、2016年7月に全社的な導入に至った。

「すべての社員がよりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを継続して楽しみながら豊かに人生を送る」。これは同社が定めた新しい働き方のビジョンだ。そのビジョンを体現するように、WAAが可能にした新しい働き方は社内の隅々まで広がっている。導入から10カ月後の2017年4月に実施された社員アンケート結果によれば、同制度を一度以上利用した割合は92%と高かった。さらに、75%が「生産性が上がった」と回答。「幸福度が上がった」と答えた割合も33%を占めるなど満足度の高さがうかがえる。

特に、育児と仕事を両立する社員からは、WAAによって「会社を辞めるという選択肢は消えた」「家族をすごく大切にしながら気軽に仕事ができるようになった」など、喜びの声が多数寄せられている。自由に勤務場所や勤務時間を決められるため、子どもを学校や保育所に送ってから出社したり、勤務時間の途中に学校行事に参加したりするなど、育児と仕事のバランスが格段に取りやすくなった。もちろん育児・介護短時間勤務制度もあるため、標準労働時間を短縮した状態でWAAを利用することも可能である。

 

【図表】WAAを活用した働き方の例

【図表】WAAを活用した働き方の例
出所 : ユニリーバコーポレートサイトよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

国内トップクラスのジェンダー・ダイバーシティーを実現

 

実現したいのは「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、「ワーク・イン・ライフ」。仕事と生活は天秤に懸けるものではなく、仕事は人生の大切な一部だと同社は考える。日本では、いまだに「仕事」か「生活」かの選択を迫られる女性は少なくない。時には、どちらか一方を諦めざるを得ないことがあったとしても、その選択を迫られる理由がジェンダーに起因するなら変えていく必要がある。

昨今、日本においてもさまざまなフィールドで活躍する女性が増えているものの、世界経済フォーラム(WEF)が発表する「ジェンダー・ギャップ指数」では日本は146カ国中118位と低い水準にある(世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024」)。

そうした状況を変えようと、同社は「すべての女性が自分らしい人生を選び、歩んでいける世界は、誰にとってもよりフェアで、幸せで、豊かな世界だ」というメッセージを発信し、社内外でジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けた活動を続けている。その姿勢は、ユニリーバの採用や人材活用にも見て取れる。

同社では業務遂行に必要な資格と能力によってのみ社員の採用や雇用、昇進を決定してきた。その結果、一切のアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)を導入することなく、世界では女性管理職比率が51%、日本でも45%となり役員の約半数を女性が占めるなど、国内トップクラスのジェンダー・ダイバーシティーを実現している。

さらに、2020年3月以降は採用選考の履歴書から性別欄、顔写真、ファーストネームなど、応募者の性別につながる情報を削除。ジェンダーや容姿ではなく、一人一人の意欲と能力に焦点を当てた採用を社内で徹底するほか、それが当たり前になるように社外へも働きかけを行っている。

ユニリーバには、世界共通の成長戦略を記した「ユニリーバ・コンパス」が存在する。その中では、長年にわたって推進してきたダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(受容)に加えて、全ての人に機会が与えられ、公正に評価されるエクイティー(公平さ)の推進が目標として掲げられている。

エクイティーの推進に当たっては、2つの視点が求められる。1つは、同じ機会やリソースを提供して全ての社員を平等に扱うエクオリティー(平等)。2つ目は、個々のニーズに合わせたリソースを提供することで、誰もが同じような機会を得られるようにするエクイティーだ。この両方を推進していくことで、より公平でインクルーシブな職場をつくっていく。誰もが自分らしく活躍できる社会への変化を起こすために、ユニリーバはこれからもエクイティー、ダイバーシティー、インクルージョンを推進していく方針だ。

 

ユニリーバ・ジャパン(株)

  • 所在地 : 東京都目黒区上目黒2-1-1 中目黒GTタワー
  • 設立 : 1964年
  • 代表者 : ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス代表職務執行者 松井 さやか/ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング代表取締役社長兼ヘッドオブカーバー・コリア エド・ブリオラ
  • 売上高 : 約9兆200億円(596億ユーロ、グローバル、2023年)
  • 社員数 : 約400名(単体、2025年1月現在)