女性活躍推進の目的
女性活躍と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。筆者は、「多様性を受け入れるためのきっかけづくり」と考える。
少子高齢化の進行により、若年層の人口が減少し、高齢者の割合が増加することで、労働力人口が減少するという課題が顕在化している。企業の持続的成長を実現するためには、一人一人の生産性の向上と労働力の確保が不可欠である。
このような社会的背景から、労働力を確保するために、ジェンダー、ハンディーキャップ、国籍、文化、宗教、高齢者など、多様な働き方の変革を考えていく必要性は、今後さらに高まっていくと推察される。女性が活躍できる職場をつくり出せないということは、今後さらに多様性を増す文化的属性(宗教、国籍など)や社会的属性(ハンディーキャップなど)を受け入れられる職場環境づくりも難しくなり、結果的に人材不足を招き生産性低下や業績不振につながる。
女性活躍を推進する3つのポイント
女性活躍を推進していく上で、次の3つのポイントを押さえていただきたい。
❶女性社員に対して過保護にならず、人材育成の視点で向き合う
男性社員が女性社員に対して必要以上に優しく接しているケースは多くの企業で見られる。例えば、次のような考えを持ってはいないだろうか。
「育児休暇から復帰した後も、子育てが大変だろうから、負担が少ない業務を任せる」「女性社員に体力のいる仕事は厳しいだろうから、任せるのはやめておこう」「能力はあるけれど、管理職はやりたがらないだろう」。これらは全て、アンコンシャス・バイアス(自分では気付いていない、ものの見方や捉え方のゆがみや偏り)や固定概念によるもので、女性のキャリアに制限をかけてしまう。
重要なのは、人材育成の観点から部下と向き合い、対話を通じてキャリアや仕事との関わり方について互いが認識を深めることである。女性活躍を阻んでいる原因が、女性自身ではなく、管理職の誤った認識によって引き起こされていないかを見直していただきたい。
❷ 女性社員が自信を持てる仕組みづくり
総務省統計局の「労働力調査(基本集計)2024年11月分 」(2024年12月)によると、女性の就業者数は3110万人と、前年同月に比べて27万人増加している。しかし、女性社員が少数派である職場は多く、会議の場で発言をためらってしまう場合や、自分が唯一無二のロールモデルであることにプレッシャーを感じ、価値を発揮できない場合がある。女性社員が少数の職場環境において自己主張することが難しく、これまでの女性社員としてのイメージに自分を当てはめてしまい、結果的に自分らしさを発揮できないということが起こっているのだ。
ここで大切なのは、女性管理職や女性社員を独りにせず、サポートする体制を整えることである。自身の組織に女性が少数で、伸び悩んでいる場合には、女性個人の問題として片付けず、組織の在り方に問題がないかという視点で、体制を見直していただきたい。
❸ 現場の意見を吸い上げる仕組みづくり
さまざまな経営者や人事担当者とのディスカッションを通じてよく耳にする言葉は、「すでに女性は活躍してくれている」である。しかし、いざ現場の女性社員に話を聞くと、さまざまな不安や不満を抱えながら仕事をしていることが分かる。トップが憶測で問題を解釈し、問題の本質を見誤っているケースだ。まずは、現場で働く女性社員が仕事を進める上でどのようなことに悩んでいるのかを、正確に捉えていく必要がある。ある企業では、女性社員で構成されたワーキンググループをつくり、定期的に経営層へ現場の意見を伝える場を設けている。トップダウンとボトムアップをうまく組み合わせながら進めていくことがポイントである。
女性活躍を推進していくためには、女性本人の「育つ力」と、上司や先輩の「育てる力」、この2つが同時に育まれていかなければならない。実際に、タナベコンサルティングが支援した女性活躍に関する研修の事例を2つ紹介する。
女性活躍を推進する研修の事例
❶ 女性人材の「育つ力」を育む研修(不動産業A社、従業員数100名)
課題として、①若手社員に対してキャリアに対する意識付けやステップアップの動機付けができていない、②女性社員の管理職が少なく、ロールモデルとなり得る人材が限られているためキャリアを描きづらい、③女性社員が結婚や出産などのライフステージの節目で退職している、この3つがあった。
そこでA社は、勤続3年以上の女性一般職を対象に、次世代リーダー(役職者)を目指すための意識付けを行う研修を実施した。具体的なカリキュラムは、次の3つである。
①企業の理念・ミッションの理解と自分のキャリアの描き方
②自身のキャリアや強み・弱みの棚卸し
③キャリアの実現に向けた行動計画の作成
❷ 上司・先輩の「育てる力」を育む研修(IT・システム業B社、従業員数200名)
課題として、①制度上、月に1回、上司と1on1ミーティングを行う機会はあるものの、相談に向き合いきれていない、②職種特性上、マネジメントスキルよりもテクニカルスキルが優先されており、管理職としての役割認識が一部欠けている、③管理職層が若手の成長やキャリアの意識付けにコミットできていない状態にある、この3つがあった。
B社は、女性社員だけにフォーカスした内容は避け、管理職としての在るべき役割の再認識と、部下社員との向き合い方に関する研修を実施した。具体的な研修カリキュラムは、次の3つである。
①企業における管理職の在り方・管理職としての役割
②コミュニケーションを通じた部下との向き合い方
③1on1ミーティングのロールプレーイング
女性活躍は、女性社員本人と会社や上司との二人三脚での取り組みが欠かせない。会社が本気で女性活躍に取り組んでいることを示し、そのために会社も管理職も変わっていかなければならないと伝えることが大切である。
女性活躍は経営の重要課題であり、トップが強い意志を持って推進することが重要である。多くの企業では、人事部などが女性活躍推進の中核を担っているが、制度や環境の整備にとどまっており、企業風土を変えることは難しいのが現状だ。まずは経営者自身が、ダイバーシティーマネジメントや女性活躍の重要性を理解し、「なぜ女性活躍が必要なのか」をあらためて認識することが全ての出発点である。
そして、目指すべき姿と自社の実態との差を知り、具体的に行動していくことが必要である。その際、自社の成長戦略と女性活躍に関連性がなければ、女性活躍は単なるお題目となり、本質的な企業変革には至らない。ゆえに、自社の成長戦略のための重要な手段として、女性活躍を位置付ける必要がある。
自社のビジョンを描き、中長期戦略を策定する経営者が、実際に女性活躍を推進することで、社内の認識が変化し、企業風土の変革につながるのである。

HR チーフマネジャー
総合ファッション企業で人事労務・採用・育成などのHR 領域の実務経験後、タナベコンサルティング入社。現場での実務経験を生かし、「採用」「育成」「活躍」「定着」の4 つをバランスよく取り入れた戦略人事の構築と、クライアントに寄り添うコンサルティングを信条としている。社員が継続的に活躍・成長していく仕組みづくりを中心に、組織における人材育成・人材活躍も支援している。