【第4回の趣旨】
タナベコンサルティングの今期の食品価値創造研究会は、「アフターコロナのEAT※トレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、「食のEAT視点」で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。
第4回京都開催のテーマは、「伝統と革新のバランス」。伝統企業の提供価値変化や、消費者の嗜好の変化に伴う業態変化、こだわりが生む外食価値の変化など、時代の変化に合わせたさまざまな「食の提供価値変化」と、食品業界がこれからも進化するためのポイントを学んだ。
開催日時:2024年8月27日(京都開催)
*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説
鍵善良房の歴史
江戸時代中期に創業した鍵善良房。代表取締役である今西善也氏は第15代目に当たる。同社には、享保11年(1726年)と記された漆塗り螺鈿模様の菓子外箱が残っており、300年近く菓子屋を経営してきた。鍵善という屋号は、「宝尽くし、富の象徴」などの意味で使われる「鍵」に、江戸のある時期に代々当主の名に入っていた「善」を合わせたのが由来と言われている。
黒田辰秋氏の作品「拭漆欅大飾棚」
祇園文化とともに事業を拡大
同社は創業より祇園で京菓子の製造・販売に取り組んできた一方、祇園の文化づくりを大事にしてきた。木漆工芸家の黒田辰秋氏と交流し、大飾棚や什器など当時の建物の内装を依頼するなど、祇園の文化そのものを大切にしてきた。当時の民藝の作品は、今も店内に息付いており、中でも黒田辰秋氏の菓子棚は特別で存在感を放っている。
2012年には、「ZEN CAFE(ゼンカフェ)」をオープン。シックで洗練された店内と上菓子との相性が心地良く調和している店舗となっている。このように同社は、伝統を大事にしながらも祇園に新たな風を吹き込んでいる。
祇園文化を感じることができる店内
こだわりの和菓子
同社の主力商品である「くづきり」の賞味期限(同社が定めたおいしく食べられる時間)は15分である。原材料は葛粉(くずこ)と水のみで、葛粉がでんぷん質であるため時間の経過とともに濁ってしまうのが主な理由だ。こだわりの原材料と職人によってつくられる「くづきり」を食べるために、長年全国からお店に足を運ぶお客さまも多い。
ほかにも、きな粉にこだわった「鍵もち(かぎもち)」や、生菓子を季節ごとに変えて販売するなど、従来のお客さまだけでなくインバウンドも意識した商品展開を進めている。このように、現状に満足するのではなく挑戦し続けることで商品のおいしさを追求している。
鍵善良房の主力商品「くづきり」
新たな挑戦
同社は2021年1月、祇園に美術館「ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM」をオープンした。黒田辰秋氏との交流を後世に残していきたいという思いから設立している。
また、米国の芸術家であるアンディ・ウォーホルの写真展開催や、ファッションブランドの「agnès b.(アニエスベー)」とコラボ商品をつくるなどの新たな取り組みを広げる一方、地域の銘菓を引き継ぎ復活させるなど残すべき伝統も大事にしている。同社の「菊寿糖(KIKUJUTO)」は、今も職人の手で手寧に彫られている。「手で彫られているからこそ、均一でなく揺らぎがあって人の脳に刺激を与える」と今西氏は語る。
同社は、後世に伝えるべき伝統を大事にしながら、新たな挑戦に取り組みファンを獲得している。
美術館「ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM」
