【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングの成長М&A実践研究会は、M&Aモデルを確立している企業から、独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供。M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示している。
第5回のテーマは「コーポレート戦略」。ゲスト講師2社(KYCOMホールディングス、PLAZA総合法律事務所)から「コーポレート戦略・法務DD」について講演いただき、M&Aを積極的に推進する企業の経営戦略・事業戦略について深く考察した。
開催日時:2024年10月25日(東京開催)
はじめに
KYCOM(カイコム)ホールディングスは、1968年5月、コンピューターによる受託計算業務の専門会社として、福井商工会議所のイニシアチブのもと、福井県内の有力企業数社の共同出資により、福井共同電子計算センター株式会社として福井県福井市で創業した。その後、2010年に当時のJASDAQ市場に上場。2011年に持ち株会社を設立し、ホールティングス化した。
現在はスタンダード市場上場企業として、情報処理事業(ソフトウエア開発、コンピューター関連サービス、データエントリー業務など)、不動産事業(社員寮と兼用したマンション経営、太陽光発電事業 )、レンタカー事業(北陸エリアを中心としたレンタカー事業 )などの事業領域に展開している。
M&A案件検討の事前準備のポイント
M&Aを実施する際には、自社(自社グループ)の特長、強み・弱みの再認識を行うことが必要である。どのような強み・弱みが事業と経営体制にあるかを把握することで、実施できる案件か、見送るべき案件かが明確になり、リスクヘッジとなる。
ホールディングス主体で譲受を検討する場合のメリットは、異業種とのM&Aを実施しやすいこと、また譲受元が安定していることである。
同社の譲受企業の対象は、同業種で企業文化が似ていることや、自社より小規模な会社であることだ。また、譲受企業内にPMI(経営統合)を実施できる人材がいるかを把握することで、自社の経営体制の状況(自社から子会社へ派遣できる人材がいるか否か)によって案件を進められるかを判断できる。
このように、自社の現状を把握するという事前準備を行うことで、M&A案件を検討できるかどうかが見えてくる。
数字で見るKYCOM(2024年3月末時点) 出所:KYCOMホールディングス講演資料
M&A案件の検討ポイント
1.自社の中長期の事業目標が明確か
ホールディングレベルでの中長期ビジョンやKPI(重要業績評価指標)を設定しているか(売上規模、成長率、営業利益率、ROAなど)。また、子会社も併せてビジョン目標設定をしているか。両社の経営陣が自社のビジョンと照らし合わせることで、譲渡案件を深く検討することが可能となる。
2.必要十分な精度の高い情報が取れるか
過去の事実(財務情報)をどこまで正確に把握しているか。過去5期分の決算書は必須で、かつ信頼できる第三者の専門事業者(税理士・会計士)のチェックを行うことが必要である。
チェックは過去3期分であることが多いが、過去5年分を見ないと安定性を見ることはできない。情報量+情報の正確性・解読が必要となる。また、多くの非上場企業が経費の私的流用を行っているが、どこまでを収益力と見なすかという収益分析が必要となる。
3.自社と譲渡企業の企業文化の比較・確認
人事制度を比較分析し、企業文化や社員のメンタリティーを把握することが重要である。譲渡前に、譲渡企業の社員との面談は実施しづらいため、人事制度やヒアリング情報(交流会などの実施状況)を踏まえて判断していく。
4.経営リスクを取れる人材がいるか
後継者がいない会社はリスクが高いと判断し、案件を見送る。代表者が1~2年引き継いだ後に、譲渡企業のNo.2以下で経営を任せられる(社長が推薦できる)人材が不在だとリスクは高い。
譲渡企業が受けられる経営支援は、資金繰り・経理処理・予算実績分析・監査統制や営業先紹介など。事業の推進は、譲渡企業の人材に実施いただく必要がある。
今後のM&Aについて
10年にわたるM&A経験を踏まえて今後の経営方針を明確にするため、まず、子会社を含むトップ経営層でグループの存在意義を再確認し、5年後、10年後、15年後の在るべき姿について協議する。これにより、子会社がそれぞれ作成・運営していた計画をホールディング会社が一元管理し、共通認識と共通目標を固めることができるようにしていく。
次に、中長期経営計画を各子会社別および全体連結ベースで策定。株主、取引先、社員、関連自治体に対し、IR上で明確にコミットする。より透明性の高い経営を実現し、ステークホルダーとの信頼関係を深めていく。
さらに、グループ全体でコミットした数値目標を実現するために、内部成長(採用、教育、営業など)と外部成長(M&Aや新規事業など)のウエートを明確にし、そのうえで戦略的にターゲットを設定して推進していく。
研究会参加者は、M&Aの事前準備や検討ポイントをKYCOMホールディングスの実践から学んだ

代表取締役社長