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コンサルティングケース
コンサルティングケース
TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2025.01.29

社会課題解決にリアルな成果を出す新事業開発プロジェクト 同志社大学

ご支援内容


日本の高等教育は、「教育再生」を旗印に、教育システムや内容を見直すことで、より良い教育環境を構築しようとしています。この取り組みの中で、教育を集大成し、社会につなぐ役割を担う大学の重要性が高まっています。

 

グローバル化対応や社会人のリカレント教育(個人が生涯にわたって学び続けることを支援する教育)、大学のガバナンス改革とともに、社会をけん引するイノベーション創出の教育・研究環境づくりと、世の中をより良く変えていく原動力になる学生の教育機能の強化が求められています。

 

学生を受け入れる企業についても、経団連が人材投資を加速し、産学官が連携する大学教育の変革「新しい時代に対応した大学教育改革の推進」(2022年1月)を発表し、社会の中核で活躍する人材輩出を目指しています。

 

日本を代表する私立総合大学であり、2025年に創立150周年を迎える同志社大学は、中期行動計画「VISION2025」を策定し、創立者の新島襄が「同志社の完成には200年」と語った理想の教育へと歩みを進める6つの新ビジョンを掲げ、不変の志と革新的な創造性を融合させる「ALL DOSHISHA」の挑戦を推進しています。「学びのかたちの新展開」や、多様な学問領域の総合大学の特色を生かし、文理融合や領域横断、産官学連携による「創造と共同による研究力の向上」により、未来へのさらなる飛躍を目指しています。

 

タナベコンサルティングは今回、学生・生徒と産業界、地域が連携してさまざまなプロジェクトを推進する「同志社ローム記念館プロジェクト」のSPP(ショート・プロジェクト・プログラム)として、「新規ビジネス開発プロジェクト」の開催を支援。全8回のプログラム作成、講師派遣による講義や個別・グループワーク、経営シミュレーションゲームの実施、プロジェクト運営マネジメントなどトータルに支援しました。

 

ご支援内容のポイント


1 「新規ビジネス開発プロジェクト」の提案、プロジェクトマネジメントを支援
2 プロジェクト推進に最適なストーリーを展開できる連携企業・テーマを選定
3 学生が企業の課題を解決し、起業家精神を育成することに寄与

 

お話を伺った人



同志社大学
理工学部 情報システムデザイン学科 教授 同志社ローム記念館プロジェクト 運営委員長 小板 隆浩氏

商学部 教授 同志社ローム記念館プロジェクト 運営委員 太田原 準氏

 

 

3000名超が参加した「ローム記念館プロジェクト」

 

――キリスト教の人間形成を通して世の中のために生きることの大切さを伝える同志社大学は、日本の社会事業の草分けとなるアントレプレナー(起業家や新たな市場を切り開く人)を数多く輩出しています。

 

同学では、世界的な電子部品メーカーであるロームの寄付により完成した情報教育施設「同志社ローム記念館」を拠点に、2003年に産学連携で新たな取り組みを推進する「同志社ローム記念館プロジェクト」が始動しました。

 

小板教授(以下、小板):「同志社に人材育成の拠点を」とロームから要望を受け、正課の授業とは別に始めたのが課題解決型学習「PBL(プロジェクトベースドラーニング:プロジェクト型学習)」です。文系と理系、京都の今出川と京田辺の両キャンパスの学生が融合し、同志社女子大学や同志社国際中学・高校も参加する「ALL DOSHISHA」の企業連携活動として、2024年までの21年間で3000名超が参加しています。初期にはマイクロソフトと手書きメールを送信できるアプリ開発も実現しました。

 

――小板教授は2004年、太田原教授は2015年から同志社ローム記念館プロジェクトの運営委員ですが、コロナ禍を転機に新たな方向性を模索されていたそうですね。

 

小板:プロジェクトを進める中で、「こんなアイデアをこう発表すれば」と、学内的に高評価を得ることがプレゼンテーションの目的になっていました。

 

馴れ合い的な目先のゴール感を変え、企業や社会と連携し、学外での新規事業開発という、もっと遠くて大きなゴールに向かって活動しようと考え、同志社ローム記念館プロジェクトをさらなる先へと進めるために、PBLから「アントレプレナーシップ教育」へとかじを切りました。

 

――建学の精神「良心教育」※1にもつながるのが、アントレプレナーシップ教育です。

 

太田原教授(以降、太田原):同志社ローム記念館プロジェクトを立ち上げた先生方の思いは、「倜儻不羈てきとうふき※2を、いまに生かす」ことでした。その意味で、PBLも最初からアントレプレナーシップ教育でしたし、そもそも新島襄はソーシャルアントレプレナーの先駆者です。学生や卒業生も、その志や倜儻不羈を受け継ごうという思いがあります。

 

小板:良心教育で掲げる「自由主義」において、「倜儻不羈=好き勝手にして良い」ではありません。「同志社大学が大切にする自由とは何か」を知り、自由を生かして何かを実現していく力やノウハウを育み、アントレプレナーシップを実践する場が同志社ローム記念館プロジェクトなのです。


同志社大学の理念とローム記念館プロジェクトについて話す小板教授

“起業ごっこ”ではなく成果を生み出す「新規ビジネス開発プロジェクト」を開催

 

――企業や自治体と連携する同志社ローム記念館プロジェクトは、2024年度SPPの1つとして、10月から3カ月間、「新規ビジネス開発プロジェクト」を初開催しました。新規ビジネス開発プロジェクトは、企業に対して学生のアイデアを生かした「社会課題型解決事業」を提案し、社会実装を目指すプロジェクトです。

 

太田原:2023年度SPPでは、小板教授の研究室と私のゼミで、理系と文系の学生の共同研究によって農業労働力支援アプリ「アグリパス」を開発しました。社会課題解決に結び付く実践的な取り組みに、私のゼミを卒業したタナベコンサルティングのコンサルタントアシスタント・長成美さんが興味を持ち、「産学連携でお手伝いしたい」と提案してくれたことが、新規ビジネス開発プロジェクトのきっかけです。私たちにはまさに渡りに船でした。

 

小板:成果を生む連携に向けて企業訪問を繰り返す中で、「同志社大学には優秀な学生がいるのだから、大学がもっと課題解決や事業開発に取り組んではどうか」という声を数多くいただいていましたからね。

 

――全8回のプログラム内容の提案から、連携企業の選定、講義や個人・グループワークをサポートする講師派遣、プロジェクト進捗しんちょくの運営管理まで、タナベコンサルティングがトータルに支援させていただきました。

 

小板:タナベコンサルティングのコンサルタント・河村周平さんが講師としてメンターの役割を担い、アイデアの出し方から指導してくれました。課題解決を求める人に響き、マッチするアイデアかどうか、厳しく優しく、丁寧にグイグイと(笑)。“起業ごっこ”ではなく、どうすれば心に刺さり、成果につながるかを学びながら、学生自身も何かを変えるきっかけになるプロジェクトです。

 

太田原:連携企業も、「当社のクライアントを紹介できます」と言ってくださいました。実需に結び付くことを目指して事業開発を行えるのが良いところなので、連携オファーやプロジェクトマネジメントをお任せしました。

 

――アパレルや教育玩具のメーカー、港湾運送や商業施設運営など7つの連携企業・テーマに絞り、学生の参加募集を開始しました。いずれも新規事業開発の課題を抱え、解決への熱量が高い企業です。

 

太田原:実はプロジェクトが開始するまで、連携企業・テーマは私たちも学生も教えてもらいませんでした。先に企業名が分かると大手企業に偏るからで、タナベコンサルティングとの事前協議で「情報は業界や企業規模にとどめて企業名は伏せる」と決めました。自由に事業アイデアを考えるのが目的で、就職活動につなげるためではありませんから。

 

小板:協議や報告も頻繁で、密な関係性を築いてくださったので、気を揉むことはなかったですね。連携企業についても、アントレプレナーシップ教育にふさわしいストーリーの企業を選んでくれました。

 

「本気と熱量」から生まれるキャリア教育はWin-Winな関係の「四方良し」

 

――3カ月に及ぶプロジェクトとタナベコンサルティングが提供する経営シミュレーションゲーム「Management Experience Online」の実施を経て、最終報告会は事業アイデアのプレゼンテーションを、連携企業1社の社長を招いて実施します。

 

小板:40名の参加定員から最終プレゼンに残ったのは、7名の学生による4つのアイデアです。全員が2023年度SPPに参加経験がある、私の研究室と太田原ゼミの学生です。

 

太田原:私たちへの提案段階で説得力がありましたし、2023年度SPPに参加していたため経験値が抜け出ていました。自分の夢を語るだけでなく、チームで動く場合はどこに貢献できるかなど、自分の持ち味が何かを一人一人が自覚していました。キャリア教育そのものと言えます。

 

――プレゼンテーションがゴールではなく、事業化できるようにアイデアの精度を高めることが、従来のPBLとの違いです。

 

小板:毎回のプロジェクトで、「精度を高めて必ず事業開発につなげる」と本気でアドバイスする河村さんの思いと熱量が学生に伝わっていました。共通するのは「本気でやるかどうか」です。

 

太田原:本当にそう思います。社長への最終プレゼンがとても楽しみですし、1つでも事業化につながれば、タナベコンサルティングはコンサルティング案件として伴走できますし、学生も継続的に関わっていくチャンスになります。大学・学生・連携企業・タナベコンサルティングがWin-Winの「四方良し」です。

 

今後は、「事業化してこれだけの利益が生まれました」とリポートできるようにしたいですね。後に続く学生のモチベーションにつながりますから。

 

――参加学生の成長も実感されたそうですね。

 

小板:自分の価値を考え、卒業後に起業したり、転職して新事業を始めたりする力も身に付けられたと思います。理系と文系の学生が互いのすごさや自分に足りないものに気付き、ショックを受けていました。でもそれはとても良いことで、何かを始める大切な第一歩です。

 

太田原:経営シミュレーションゲームも予想以上の評判でした。一人一人の経営に対する考え方が出ますし、実施して良かったと思います。

 

小板:一般論ではない、経営の全体像やシナジーが生まれるリアルな姿を実感できたからでしょうね。産学連携は、「大学と組んで学生のアイデアを取り入れました」という名目的なメッセージに意識が向きがちです。利益を上げるという成果は問われないのが従来の「行儀の良い大学」の姿でしたが、それだけではリアルさがなくなってしまいます。

 

最初に、「どのようなことをして、何を伝えたいのか」をタナベコンサルティングとディスカッションし、しっかりと準備できたことが大きかったですね。行儀の良さや格好良さではなく、リアルを伝えてリアルを生み出すことができました。

 

ALL DOSHISHAモデルで「倜儻不羈を、今に生かす」エコサイクルを創出

 

――タナベコンサルティングに対する評価をお聞かせください。

 

太田原:プロジェクト立ち上げの一番苦しいところをタナベコンサルティングに支援してもらいました。今後は私たちが自走できるようになって、やってみたいという学生を増やしていきたいですね。

 

2025年4月から、正課で一定科目の単位を取得すると、アントレプレナーシップの初級バッジがもらえる新制度を開始予定です。中級バッジ取得の条件に同志社ローム記念館プロジェクトを位置付けると、学位とは別に副専攻や資格としてアピールできるようにもなります。

 

小板:何かを始めるきっかけとして相性の良いプロジェクトですし、関わった学生は人としての在り方や発する言葉が変わります。これはプロジェクトの大きな成果と言えるでしょう。

 

起業や事業開発をシステム化して次々と立ち上げ、起業後には出資や寄付で次の立ち上げの支援もできる。そんなエコサイクルをつくり出していきたいですし、それが「倜儻不羈を、今に生かす」ことにつながっていきます。

 

――同志社ローム記念館プロジェクトの手応えや、今後の展望はいかがですか。

 

太田原:「アントレプレナーシップは教えられない」と多くの教員が思い込んでいますが、何らかのマインドセットが伝わることは間違いありません。「四方良し」で価値を生み出す起点で在り続けたいですね。

 

小板:私たちとビジョンを共有する商学部の先生が、「起業は1つの選択肢という意識を誰もが持てるようにしたい」とおっしゃっていて、同志社ローム記念館プロジェクトの本質だと思いました。

 

困っている人がいて、そこに自分の能力を生かす選択肢を持つだけで、自由になって、生き方が豊かになります。出資と成果の形が明確になり、お金を受け取ることの責任と意味が生まれますから。そうなるために、最も分かりやすく具体化しやすいのがアントレプレナーシップ教育ですし、起業せずに大企業に勤めたとしても、ビジネスがその延長線上にあることは変わりません。


今後の展望について話す太田原教授

 

――教育再生という共通課題に直面する、全国の大学の良きロールモデルにもなっていきます。

 

太田原:同志社大学はスタートアップやITで成功した卒業生が多く、同志社ローム記念館プロジェクトのOB・OGの起業化率も高いのは、「自分たちで価値を生み出した」という経験が大きいと思っています。新卒でまずは大企業に就職する人も選択肢が広く、副業として同志社ローム記念館プロジェクトにコミットしてくれますし、私たちもコミュニケーションツールで稼働状況を見守っています。

 

小板:「僕らの次の世代が生まれるのか」「新しいアイデアやストーリーが楽しみです」と、同志社ローム記念館プロジェクトのOB・OGから大きな期待と激励を受けています。先輩たちのリアルな姿と「ALL DOSHISHA」こそが、同志社大学ならではのアントレプレナーシップのモデルなのです。


同志社ローム記念館で撮影

※1 同志社大学が掲げる建学の精神。創立者である新島襄が目指した教育の原点であり、3つの教育理念「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」からなる

※2 他人に縛られず、自分の信念や価値観に従って自由に行動すること。同志社大学は、「才気がすぐれ、独立心が旺盛で、常軌では律しがたいこと」と定義している

 

PROFILE

    • 同志社大学
    • URL:https://www.doshisha.ac.jp/
    • 所在地:京都府京都市上京区今出川通烏丸東入(今出川キャンパス)
    • 代表者:学長 小原 克博