組織成長に欠かせない特定スキルの習得・実装
社員の成長段階や担う役割・職位に応じた知識・スキル教育を行う階層別研修は、自社の社員の能力開発を計画的かつ画一的に進めるためにも、体系化して継続的に実施することが望ましい。一方、階層や職位を問わず、特定のスキル習得に向けたテーマ別研修も、戦略的に実装することが組織成長には欠かせない。
近年は、個々のスキルアップテーマに応じた教育機会を提供できるようe-ラーニングなどを活用したテーマ別教育の在り方も確立されてきたが、その大半が一般職社員向けのビジネススキル強化として取り組まれているものであり、経営人材の育成・強化を目的としたテーマ別研修の取り組みには至っていないのが現状である。
タナベコンサルティングが行った「2024年度人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査」(2024年9月)によると、現在不足している(強化したい)人材については、「DX・システム系の人材」や「経営企画・事業企画に携わる人材」などが上位に並び、経営戦略を立案または実装するスキル不足に課題感を持つ企業が多いことがうかがえる。
一方で、社員教育の重点テーマは階層別研修が上位を占め、テーマ別研修については回答数が少ない状況である。人材課題解決に直結する教育施策を実装できていない、または具体的な打ち手を検討できていない企業が多く存在すると推測される中、その課題解決のヒントとして、本稿ではタナベコンサルティングで提供しているテーマ別研修のうちニーズの多い4つの研修内容と、各テーマにおける育成のポイントについて解説を行う。
タナベコンサルティングの提供するテーマ別研修
❶「戦略キャンバス」によるビジョン構築力の強化
経営層に求められる重要なスキルの一つがビジョン構築力である。
ビジョン構築力とは、自社のパーパス・経営理念の実現に向けた、中長期的なゴールの姿を明文化し、社員へ進むべき方向性を示す力である。企業を取り巻く経営環境を踏まえた的確な現状認識と、自社の存在価値・貢献価値から導き出される価値判断基準を整理した上で、在るべき未来の姿である「定性ビジョン」と、それを数字基準として示した「定量ビジョン」を、経営者の意志として示すまでの一連のスキームが必要である。
加えて、絵に描いた餅にならぬよう、具体的なアクションプランへの落とし込みと、計画を管理するためのマネジメントシステムの構築に至るまでを整備し、設計する力が求められる。
ビジョン経営の実践が必要性を増している近年において、単年度施策中心の経営方針や抽象性が高くて具体性の低い中期ビジョンでは、社員のモチベーションやエンゲージメントを高めるには至らず、経営戦略の推進力も低下していくことが予測される。本プログラムは2日間の短期集中型のプログラムであり、経営の現場から離れて、経営者を中心に自社の在りたい姿を見つめ直す機会としても有効である。
❷「Management Experience Online」による経営思考力の強化
自社の持続的成長を実現していくためには、経営幹部が事業や組織の経営課題を全社的な視点で戦略的に解決する思考力を強化する必要がある。経営幹部の経営への興味・関心を高め、経営者としての視座を育み、自社のバリューチェーンの強化に向けた機能別戦略を描けるまでの育成施策に着手しなければならない。
しかしながら、経営感覚というものは、日常の業務の中だけでは身に付きにくいものであり、実際の経営に直接的に携わることで育まれる部分が主である。
タナベコンサルティングでは、この経営感覚について、経営シミュレーションゲームを通して学ぶことができる「Management Experience Online」(以降、MEO)のサービスを提供している。
MEOでは、架空の企業の経営に携わり、年度方針や事業計画(販売計画、生産計画)を策定するだけではなく、競争が激しい市場で、どのようにして自社の価値を高めるかを疑似体験していく。事業戦略、組織戦略、マーケティング戦略、販売戦略、財務戦略を立てて企業活動を行うことで、経営に必要なバランス感覚や、全社最適で経営するための視座を獲得できる。
❸「DXリーダースクール」によるDX推進人材の強化
DX推進の重要性や必要性については、もはや言及するまでもないが、依然DXが進んでいない企業は多く見られる。その主な要因はDX推進リーダーの不足であり、多くの企業で専門人材を確保しようと画策するも、思うように採用が進んでいないのが現実である。そのため、既存社員に対するリスキリングによりデジタルリテラシーを高めていく必要性が増している。
DXリーダーには、デジタル化への取り組みを進める推進力ではなく、自社の戦略を理解した上で、デジタルを用いてどのように競争優位性を構築できるかを考え、ビジョン実現に向けたロードマップを描き、社内外の連携を取りながら具体的施策を遂行するまでの総合力が求められる。販売優位性を高めるマーケティングDX、業務効率を高め生産性を高めるためのマネジメントDXなど、DX領域別に人材育成を行うことで、スピード感を持ったDX戦略の推進につなげる。
❹「アカウンティング・ファイナンススクール」による戦略財務推進人材の強化
企業を取り巻く環境変化が激しい中、より経営に近い立ち位置で財務戦略を立案し、資金面での具体的な経営施策を検討、推進させる必要性が高まってきた。
従来の財務部門の役割である財務諸表管理や資金繰り管理など「管理」中心の財務機能から、事業別ROIC分析による事業パフォーマンスの可視化や、M&Aを含む投資判断基準や撤退判断基準の設定など、事業戦略の実装をサポートする「意志決定」機能へと財務部門をアップデートし、「戦略財務」を実装することが、自社の成長を加速させるのである。
自社の財務諸表から結果を分析するだけではなく、経営の意志を反映させた財務諸表を計画的に作り上げていくために、財務面から経営をサポートする人材の育成強化も進めていくべきである。
自社の経営戦略を着実に推進・遂行するためには、現在不足している、または強化が必要な人材課題に対して、ピンポイントで集中的に教育を実施していく必要がある。定期的に実施される階層別研修に併せて、テーマ別研修を教育体系に組み込み、人的資本経営の実践に取り組んでいただきたい。
【図表】タナベコンサルティングが提供するテーマ別研修の位置付け
※ 4つの研修内容を抜粋 出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
![著者画像](https://review.tanabeconsulting.co.jp/review/wp-content/uploads/2025/01/tcgr202502_20_1.jpg)
HR ゼネラルマネジャー
大手食品メーカーにて、製造現場のマネジメントと人事部門で採用・育成を中心とした人事実務を経験後、タナベコンサルティングへ入社。現在はHRを専門領域とし、「笑顔で経営を、会社と従業員、その家族の幸せを」の実現を信条に、製造現場と人事の経験を生かし、組織と人づくりを通じ、顧客の成長と人材の成長の実現に取り組んでいる。