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研究リポート
PR/広報研究会
クロスメディア時代を生き抜くために欠かせない「PR/広報」の本質的価値と、顧客体験価値向上に成功している企業の事例を通して、最適なコミュニケーション手法を研究します。
研究リポート 2025.01.21

全国の知名度向上に向けたSNS戦略 大阪染織機械

【第6回の趣旨】
タナベコンサルティングのPR/広報研究会では、クロスメディア時代の経営モデルに不可欠な本質的価値と最先端事例を学び、メディア・ステークホルダーを戦略的に動かして物やサービスを売る方法や、自社の魅力を最大限に発信する広報・PRのメソッドを提供する。
第6回のテーマは「報道価値を生むPRストーリーでつくる話題性」であり、近畿大学と大阪染織機械にご講演いただいた。研修会参加者は、魅力を発信し続けるコンテンツ活用とPR戦略について学びを深めた。

開催日時:2024年12月20日(大阪開催)

 

 

はじめに

 

大阪染織機械は、1951年に設立され、大阪市西淀川区に本社工場を構える従業員数10名の小さな町工場である。同社はエキスパンダーロールの修理・製造・販売を手掛けており、YouTubeやTikTokなどのSNSに投稿した動画がバズっている。エキスパンダーロールとは、不織布やフィルムなどの製造工程で発生するしわを取り除くロールのことで、初めて国産化したのは同社である。

 

同社のバズ動画は、事業とは全く関係がないが、4代目社長である山本哲士氏のSNS実績は、TikTok再生数700万回、Instagramリール動画再生数1752万回、X(旧Twitter)インプレッション数1540万回である。本研究会では、山本氏のSNSを活用した企業の認知度向上戦略について伺った。

 


同社が製造するエキスパンダーロール


 

SNSをきっかけに、社員のエンゲージメントが向上

 

山本氏がSNSを始めたきっかけは、自社の名前を知ってほしいという思いである。2022年に社長に就任した山本氏は、エキスパンダーロールの製造をはじめ、技術力が高く、日本で同社しかできないことも多いにもかかわらず、あまり知られていないことを課題に感じ、SNSの開設に至った。

 

SNS運用は全て山本氏が担っており、自社工場の設備を使って「1000℃に熱した鉄球を竹の上に乗せたらどうなるか?」など、自身の疑問を形にした動画が特に再生数が多いという。SNS再生数が伸びたことをきっかけに、テレビ番組の出演依頼や新聞での紹介、雑誌「anan」での紹介などで、社員のエンゲージメント向上にもつながっている。

 


X(旧Twitter)動画「1000℃の鉄球を竹の上に置いてみた」

 

 

目的を持ってSNS発信を続ける

 

SNS開設当初はエキスパンダーロールの動画を上げるも、再生数が伸び悩んでいた。しかし、端材を活用した「ショート動画」を上げることで、再生数が爆発的に伸び始めた。

 

山本氏は、SNS運用を続けるためには、目的を持って発信する内容を明確にすることが重要だという。また、アカウントによって視聴者層が変わる点を意識すると、再生数が伸びやすい(X:拡散性が高く、報道関係者が多い。Instagram:女性が多く、国外視聴者も多い。TikTok:若い世代が圧倒的に多く、気軽に投稿できる)。

 

また山本氏は、運用担当者に向け、アンチ・誹謗中傷は99%あるものだと思い、強いメンタルで運用に当たるようにアドバイスした。

 


X(旧Twitter)動画「1000℃の鉄球をパイナップルの皮の上に置いてみた」

 

 

「知名」から「認知」への好循環

 

「○○の上に1000℃の鉄球を置いてみた」をシリーズ化し、動画アップを始めた同社は、動画が先行して知られ、いわゆる「知名」の状態だった。しかし、動画再生数が伸びるにつれ、求人募集を打ち出していないにもかかわらず応募が届いたり、動画を見た人々からの問い合わせが増えてきたという。

 

また、最近ではパイナップルの皮に鉄球を置いた動画が海外インフルエンサーの目にとまり、模倣した動画が拡散されるなど、海外でも広く話題になっているという。

 

新規性・意外性から動画再生数が伸びたことで、物語性・信憑性の実績につながり、多くの個人・メディアから「認知」される好循環サイクルを生むことができている。


報道価値を生むために必要な要素

PROFILE
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山本 哲士 氏
大阪染織機械株式会社
代表取締役社長