【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングの第2回ナンバーワンブランド研究会では、独自のブランディングの先進事例を学ぶため、株式会社ヤマニパッケージと、光洋陶器株式会社にご講演いただいた。両社とも自社のインナーブランディング・アウターブランディングに取り組み、ブランディングを通して自社が提供する価値を高めている企業である。新社屋や工場の視察を通して、両社が確立しているブランディングを肌で感じ、ブランディングに込めた思いや今後の展望について学んだ。
開催日時:2024年12月4日(岐阜開催)
はじめに
光洋陶器は1964年にヨーロッパ・アメリカなどの海外へ輸出する食器を製造する工場としてスタート。本社がある岐阜県の東濃地方は、国内の食器生産の約50%近くを占めるやきものの生産地である。光洋陶器の「テーブルウェア」は高品質かつ洗練されたデザインで多くの食のプロフェッショナルに長年愛されている。
光洋陶器は年間210万個の生産数量を誇り、7100種類ものラインナップをそろえているが、業界はピーク時から出荷額が5分の1に減少し、生産数もピーク時から3分の1に減少している。そのような成熟市場においてブランディングを外部に委託せず、社内に専門部署を持たない光洋陶器がオンリーワンブランドを確立した道のりを代表取締役社長 加藤 伸治 氏にご講演いただいた。
生産管理や製造現場の先進化・効率化で優れた事例を表彰するスマートファクトリーアワードを2019年に受賞
ワーカーレスファクトリーを目指して
光洋陶器で販売しているテーブルウェアは自社企画・開発ブランドの売り上げが全体の90%を占める。これらはDXやロボットに支えられた多品種少量生産体制によって実現している。「ワーカーレスファクトリー」として単純作業を無くし、製造部門の社員は販売や顧客と直接かかわる、より付加価値の高い仕事へ移行している。製造の社員は全体の9割から7割まで減少し、人がいなくても出来る仕事は自動化。「ブランドを伝え続ける」という人でしかできない仕事を創造することで、労働集約産業からの脱却を図っている。工場見学では、最初の工程である土練りから形成、本焼きまで自動化されており、機械では対応できない細かな工程のみ人が行う。
光洋陶器では品質・サービスを保つため、国内での自社一貫生産にこだわってきた(出所:光洋陶器HPから引用)
国際的共通の価値観×ニッチ市場=一点突破型ブランド
光洋陶器のナンバーワンブランドの確立は総合商品ブランドと一点突破型ブランドの掛け合わせで実現している。食のプロ向け総合ブランドでは、高・中価格帯中心にした自社製品を国内外に広く販売している。大量生産・大量消費される低価格帯と強いブランド力を持つプレミアムブランドの2極化が進んでるマーケットの中で、その間を狙う中価格帯の戦略によって総合ブランドを確立している。一点突破型ブランドではコーヒーツールブランドの「ORIGAMI」を販売。世界大会優勝のバリスタに愛用されている。「コーヒー」という国際的に共通する文化において、「ORIGAMI」という日本製を想起させるネーミングとバリスタの世界大会の優勝者が使用したことによる高品質・憧れを可視化している。
コーヒーツールブランド「ORIGAMI」のアイテムが並んでいる「KOYO BASE」内のショップ(左)、洗練されたうつわで頂くカフェダイニングの食事(右)
体験型ブランド
今回の視察で訪問した工場併設の複合体験施設である「KOYO BASE」は、 “うつわ”を通じて、食べる、知る、学ぶ、買うを体験できるストーリー空間である。2階にあるカフェダイニングでは地元の食材とこだわり抜いた食器で食を通じて「うつわ」を体験することができる。また、美術品のように陳列されている食器を購入できるショップやワークショップ、職人の技と最新のオートメーションの融合を直接見れる工場見学を同施設で体験でき、顧客のファン化を図っている。
また、インナーブランディングの目標は「社員が自身でブランドを語れるように育つ」こととし、工場見学などで社員が訪問者に自社ブランドを語る場を持つことで、社員の成長やインナーブランディングを促進している。
工場併設の複合体験施設である「KOYO BASE」