ご支援内容
少子高齢時代が到来し、労働力の減少は特に都市部以外で深刻化しています。地域の担い手となり街や経済を活性化する若年層人材の都市圏流出を防ぎ、流入を促す移住・定住支援策などが全国の地方自治体で実施されていますが、地域間競争に陥っているのが実状です。地域特性や生活支援策など独自の魅力を発信して差別化を図ることの難しさに直面しています。
不足する人材の数合わせではなく地域活性化の視点に立ち、具体的な戦略イメージを描き環境を整備していく中で、地域に根差す起業家を育成し、起業から事業運営の安定化、持続性ある経営へと支援する役割を担う必要性と期待が、自治体行政に対して高まっています。
タナベコンサルティングは今回、北海道・士別市のまちづくり推進の新事業に協力し、士別市で起業したいと考える人や経営を承継しようとする人に対して、目標の実現や安定的な経営の確立に向けた講演セミナーの開催やアドバイスや指導を行う個別講習など「起業フォローアップ・経営支援事業」サポート業務を担っています。
ご支援内容のポイント
お話を伺った人
士別市 総務部 企画課 まちづくり推進係 主査 菅原 聖弘 氏
過疎化が進む中、地域活性化のまちづくりへ、若者・女性のチャレンジを支援
――北海道の道北エリアの中央部、天塩岳を望み天塩川の源流域に位置する、⽔と緑に恵まれた田園都市が士別市です。起業を目指す若者や女性を支援するスタートアップ事業「起業フォローアップ・経営支援事業」のサポートを複数年度の継続事業として実施し、セミナー講師やカリキュラム作成、個別講習の助言・指導などに、タナベコンサルティングが協力しています。
菅原 少子高齢化、離農や都市部への労働⼒の流出によって、士別市は他の過疎地域と同様に若者や女性が減少し続けています。2021年9月に就任した渡辺市長が「若者や女性のチャレンジを応援する」ことを公約に掲げ、新たに起業支援策を推進。過疎化が進み、地域経済やまちづくりの担い手となる労働力の不足が、大きな課題になっていますが、単に「労働力」としてだけではなく、起業などの「チャレンジ」そのものを支援していくという狙いがありました。
――まちづくり推進係にとっても、スタートアップ事業は初めての取り組みでした。
菅原 起業支援や中小企業の経営支援は、通常は商工労働観光課の主管業務です。ただ、若者や女性の応援は、市外地域からの移住・定住とセットで考える視点も取り入れて考えてみようと、まちづくり推進係が担当しています。
――産業振興だけではなく、地域活性化のまちづくりにもつなげる新事業のパートナーに、タナベコンサルティングを選んだ決め手を教えてください。
菅原 起業したい思いはあっても、簿記や会計処理など経営の知識がない方は少なくありません。支援の在り方として、全国的には金融機関が関わる取り組みがメジャーだと思いますが、「経営のプロフェッショナルであるコンサルタントの力を借りて、経営者になるための講習や学ぶ機会を提供していくことがいいのでは」と考えました。企業誘致支援などでも熱意ある提案を受けていたタナベコンサルティングに今回、支援をお願いしました。
士別市では、基幹産業である農業の魅力をPRしながら、特産品の羊肉で「羊のまち」による観光振興を進めている
「スタートセミナー」と、一人一人に寄り添う「起業フォローアップ」
――2022年度に始動したスタートアップ事業は、講演形式の「スタートセミナー」を開催し、参加者から「起業フォローアップ」を希望する受講者に対して個別講習を実施する構成です。
菅原 初年度にいきなり「起業支援を希望する人、申し込んでください」と周知しても抵抗があるので、まずは誰でも自由に、市外の方も含めて参加できるセミナーを開催することにしました。次のステップとして、実際にやりたいことに向かって支援を希望される方に個別講習を開催しようと考えました。
周知やPRはタナベコンサルティングにも相談しながら、市のホームページやFacebookなどで情報を発信。商工会議所などにも協力を得てチラシを配架しました。スタートセミナーは、コロナ禍で社会情勢が大きく変わり始める中、地方ビジネス・経営の在り方に視点を置く講演を、とタナベコンサルティングにお願いしました。
――2022年7月に開催したセミナーにはリアル参加・Web聴講合わせて市内外から20名余が参加し、そのうち3名が希望してフォローアップ講習へと進みました。
菅原 3名の受講生は、宿泊業を開業し新規事業を始めたい方、事業承継予定の方、「地域おこし協力隊」の隊員としてUターンしNPO法人を立ち上げる方です。一般的に、起業支援のセミナーや指導を受けるには、高額な受講料を払わないといけませんが、市の事業として無償支援を受けられると知って、「利用しない手はない」と感じて頂き、受講に繋がりました。
地域おこし協力隊の支援の在り方は全国各地でさまざまですが、士別市は「起業型」「地域振興型」なども募集し、まちづくり推進の延長線上の1つに位置付け起業支援金も支給しています。
――フォローアップの個別講習は、半年間に5回実施しました。
菅原 起業したいと考える方は、進もうとする道や受けたい支援の内容、置かれた状況や事情も、一人一人違います。起業フォローアップはみんな同じではなく、一人一人の特性、個々のニーズに応じた支援をしたいとタナベコンサルティングに伝えました。その意向をしっかりと汲み取って、講習初回に受講者と面談して寄り添いながら、やりたいことや支援事業に期待することをヒアリングしてくれました。
開業したばかりの方は事業強化や新規事業のケーススタディなど、全国の豊富な企業事例から成長戦略のアドバイスを受けました。事業承継予定の方は、承継に向けてやるべきことは何か、後継者育成の内容です。NPO法人を立ち上げる方は、月次収支の定点チェックなど収益事業の考え方や収支均衡を図る法人運営の在り方など、経営の基礎から学んでいただきました。
起業で終わらずに経営の安定化まで、最長3年間かけて個別に継続支援
――2022年度の初年度から2024年度まで3カ年継続事業として、現在も進行中です。
菅原 2023年度は新たに3名が受講し初年度からの継続受講者3名と合わせて6名、今年度(2024年度)は4名の受講で、全員が継続受講です。受講者は20~30代の若者や女性が中心です。
カリキュラムは基本的にタナベコンサルティングにお任せして、受講者に必要なことを持ち帰ってもらうスタイルは変わりません。タナベコンサルティングの講師と対話を重ねながらオーダーメードで個別のカリキュラムを組み、継続受講の方は前年度をベースに発展させています。
――毎年度の受講終了時にアンケート調査も実施しています。どんな声が届いていますか。
菅原 良好です。5段階評価で5(とても良い)と4(良い)で占めており、受講者がおおむね満足した証しだと受け止めています。受講者の口コミで、新たに受講を決めた方もいました。
具体的にどこが良かったか、継続受講する場合は何を学びたいかなど、展望や細かい気づきの内容評価にも、重きを置いています。タナベコンサルティングとは、講師が士別市に指導で来られた時に、一人一人の進捗や今後の方向性、進め方などについて確認して情報共有し、上半期終了段階で中間報告も受けています。
――支援の枠組みにはめ込むのではなく、受講者起点の個別講習で、すでに起業が4名、事業承継見込が1名と、成果が生まれています。KPI的なゴールは決めていましたか。
菅原 「無事に起業できたら終わり」にはせず、経営の安定化につながるところまでワンセットで、一人一人を最長で3年間かけて支援する形を想定し進めてきており、受講者も、起業までの支援と起業後の経営安定化に向けた支援を希望され、それを反映したカリキュラムを構築しています。
ただ、3年後にこうなって欲しい、というゴールは設定していません。士別市の基幹産業である農業の六次産業化を進めるビジネスや、地域課題の解決事業などはありがたいことですが、それを前提にすると支援の在り方や方向性が根本的に変わってしまいます。「士別に来て、チャレンジする若者や女性を応援」するための取り組み事業です。
受講生一人一人の受講内容を振り返りながら話す菅原氏
生活全般を含めた総合支援や魅力発信で「選んでもらえる地域」に
――2025年度まで4カ年続く予定の支援事業は、単年度で終わらせない予算化の難しさというハードルもあります。
菅原 政策的には、街づくりのグランドデザインとして総合計画を策定しています。ただ、どの地方の自治体も財政状況はあまり良好ではない時代です。本事業も、北海道の補助金を活用して取り組んでいます。
――市長のご評価も踏まえて、今後のご展望はいかがでしょうか。
菅原 市長もこの事業の目的は一定程度、達成されていると評価しています。ただ、企業経営はやはり持続性が重要です。市議会からも「起業後の経営安定化にも重きを置いて、これからの地域経済の担い手への支援を」とご提案をいただきました。事業結果をしっかり分析、検証し、地域ニーズを見極めて次なるステップの支援をしていく必要があると思っています。
――タナベコンサルティングの支援協力に対する評価をお聞かせください。
菅原 こちらから依頼したとおりに、オーダーメードで個々のニーズに合う支援を実施しているほか、受講者への応対も丁寧であり、熱意や誠意を感じます。(本事業の講師である酒井氏は)冷静な中にも自分の思いや気持ちをしっかり持ち、事務的なニーズやWeb面談など柔軟に細やかな対応をいただいて信頼できました。
「受講者にとって最も難しいのは、何を目的にこのセミナーに臨むのかを整理すること」との印象を受けました。やはり、そこが定まってないと良い支援ができないと思いますし、その意味でも「経営のプロ」の視点が欠かせない取り組みだったと実感しています。
――最後に、若者や女性の活躍支援、移住・定住の促進など、自治体に共通する課題解決へのアドバイスをお願いします。
菅原 全国的に少子高齢が進み、移住・定住などで地域の担い手を取り合う状態です。労働力としての仕事だけの支援だけじゃなく、生活全般を含めた支援の在り方に総合的に取り組むことで差別化し、「選んでもらえる地域」になっていくことが大事だと感じています。
起業フォローアップ・経営支援事業に取り組んでいるほか、資金面でのサポートを中心に担っている商工労働観光課とも連携していますし、これからは、起業から開業、開業後の安定化に向けて一体的かつ、多様な視点・分野で支援ができればと思います。また、総合計画や総合戦略に基づき、基幹産業である農業の魅力をPRしながら、特産品の羊肉で「羊のまち」による観光振興も進め、衣食住に労働(起業やチャレンジを含む)の視点を加えた、「若者を応援するまち」としての魅力を高めていきたいと思います。
――魅力ある土地で、一人ひとりが魅力を感じるビジネスや人生を実現する支援ですね。本日はありがとうございました。
PROFILE
-
- 士別市(しべつし)
- URL:https://www.city.shibetsu.lg.jp/
- 所在地:〒095-8686 北海道士別市東6条4丁目1番地