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コンサルティングケース
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コンサルティングケース 2024.12.09

人材育成の仕組みとロードマップづくりを支援 山口県、やまぐち産業振興財団

ご支援内容


2020年9月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」は、経営戦略と人材戦略が連動することの重要性とともに、その基軸となる人的資本経営の確立が大きな課題であり、解決が急務であると提言しています。
また、経営環境の急激な変化、少子高齢化による労働力減少が進み、特に大都市圏以外の地域に根差す中小企業は人材不足に直面しています。足りない人材を補い生産性を高めるためのリスキリングが大きな関心を集める一方、人材流出などの課題も顕在化しています。人的資本経営の重要性を正しく理解し、どう具体化して実践に結び付ける、経営者にとって難しいテーマとなっています。
タナベコンサルティングは、山口県、中小企業支援の県外郭団体であるやまぐち産業振興財団から委託を受け、リスキリング支援だけでなく、経営戦略や人的資本経営の中核に人材戦略・育成を位置付けることを理解した上で、自社に合う個別の推進プロセスと教育体系を実装する、これまでにないセミナー・個別コンサルティングの企画・運用を担っています。

 

ご支援内容のポイント


1 講義・個別ワークの特別セミナーに加えて個別コンサルティングを実施し、経営戦略と連動するリスキリングのロードマップ作成と実装化を支援
2 参加者の心に刺さる具体的で多様な事例紹介で、納得と理解が深まり高評価を獲得
3 企画から集客、講師指導、コンサルティングまでの一貫サポートで、継続的にカリキュラムをアップデートし、参加企業が段階的にステップアップできる推進モデルを構築

 

お話を伺った人



山口県 産業労働部 産業人材課 主任 河野 泰明氏
公益財団法人やまぐち産業振興財団 経営企画部 経営企画グループ 主任 澁谷 直親氏

 

 

既存社員のリスキリングを効率・効果的に支援(令和5年度事業)

 

――山口県の外郭団体であるやまぐち産業振興財団は、中小企業の経営支援事業を手掛けています。2023年度から、山口県の委託を受けてリスキリング支援の新事業がスタートしました。

 

河野:DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展など大きく経営環境が変化する中、中小企業がその流れに乗ろうとしても、対応できる社内人材は限られます。また、少子高齢化に伴う人口減少や生産年齢人口の減少によって、県内の有効求人倍率は全国平均を上回り、人材確保の難しい状況が続いています。

 

人材が集まらず、定着しにくい中小企業は、既存の社員をリスキリングして経営課題に対応する必要があります。より効果的・効率的なリスキング支援に向けて、本県の中小企業の中核的支援機関であるやまぐち産業振興財団と事業実施していくこととしました。

 


リスキリング支援事業の取り組みの背景について話す河野氏

 

――リスキリング支援の新事業では、特別セミナーの開催だけでなく、個別コンサルティングも実施しました。

 

澁谷:理念やビジョンなど経営の根本を入り口に、人材のリスキング方針を立てていくのが、従来の人材育成事業との大きな違いです。また、セミナーを受講して終わりにするのではなく、自社にしっかりと実装できるように、具体的なコンサルティングを個別に実施することで、本当の意味で役立つ支援にしたいと考えました。

 

河野:スキルを伸ばして育てた人材に長く働き続けてもらうためには、経営理念や事業の方向性を人材戦略と連動させ、自社にどのような人材が必要かを考えるのが望ましい姿と考えています。また、各企業で推進した取り組みを成功モデルに、より多くの中小企業へ水平展開できればと考えていました。

 

――これまでにない構想を実現する外部パートナーとして、タナベコンサルティングを選んだ決め手を教えてください。

 

澁谷:公募プロポーザル審査の提案内容で、リスキリングを含めた人材育成が、人的資本経営の体系の中にしっかりと位置付けられていました。経営戦略と連動させて目的を明確化することや、企業それぞれの必要性に応じた個別コンサルティングのスキームで、より質の高い実装支援ができること。それが県や財団の期待と一致しており、高く評価させていただきました。

 

河野:他の提案の多くがオンライン研修など、リスキリング=スキルアップ(DXなど)という内容でした。タナベコンサルティングの提案では、経営理念・ビジョンに基づいた事業戦略・経営戦略の方向性の検討から事業を行うこととされており、個別コンサルティングが成果に結び付く説得力と納得感がありました。

 

※ 特定のプロジェクトや業務に対して提案を募集し、その中から最適な提案を選定する審査プロセス

 

 

経営理念・ビジョンに基づくリスキリングを実現(令和5年度事業)

 

――やまぐち産業振興財団とタナベコンサルティングは、2週間に1度のペースで定例ミーティングを実施するなど、コミュニケーションを重ねて検討を進めました。

 

澁谷:タナベコンサルティングの提案内容に基づいてカリキュラムを作成しました。やまぐち産業振興財団からは、「一方通行の講義だけでなく、参加者が考える時間をつくり、他社交流や事例収集もできる工夫をしたい」と伝えました。セミナーは、講義と個別ワーク、情報交換を兼ねた質疑応答という構成に決まり、さらに3カ月間で6回、希望企業に無償の個別コンサルティングを実施することにしました。

 

また、集客についてもリスティング広告など、ウェブマーケティングの部分をタナベコンサルティングが担い、県内の中小企業に広く発信することで着実な集客成果が生まれました。

 


セミナーのチラシ。オンライン・オフラインでの集客を実施

 

――初回のセミナーは、リアルな集合研修とウェブライブ配信のハイブリッド型で実施し、県内企業31社、36名が参加しました。

 

澁谷:実施後のアンケート評価では、5点満点中、平均で4.7点を獲得しました。「リスキリングとは何かを自社の現状とつなげながら学ぶことができた」など、前向きで具体的な声が数多く寄せられました。

 

河野:自由記述の回答も満足度の高い内容でした。リスキリングの普及啓発をさらに積極的に進めていきたいと手応えを実感しました。

 

――セミナー終了後に10社を選定し、タナベコンサルティングが個別コンサルティングを実施しました。

 

澁谷:個別コンサルティングの参加希望が多かったため、選定基準として「経営者のコミットメントの高さ」「人材育成投資の意志と余力」「経営理念・ビジョンが明確であるかどうか」の3つをタナベコンサルティングに提案いただきました。やまぐち産業振興財団も取り組む意欲を重視し、総合的に判断しました。

 

個別コンサルティングで行ったのは、まず現状を知ることです。経営者だけでなく、管理職や現場の社員も参画いただき、現状から課題を抽出し、解決に向けたロードマップを示していきました。支援企業からは「社員のモチベーションが上がった」という声が届いています。グループ会社を持つ企業では、親会社を含めてグループ全体に広げていこうと、タナベコンサルティングと個別契約で継続推進を決めた企業もあるなど、期待以上の成果が出ています。

 

やまぐち産業振興財団の職員も、「タナベコンサルティングと一緒に支援する中で新たな知識やノウハウが身に付き意識向上につながった」と喜んでいます。想定外のシナジー(相乗効果)が生まれました。

 

 

アンケート調査結果を基に支援を強化(令和6年度事業)

 

――セミナーの高評価に満足することなく、県内企業約2000社にアンケート調査を実施しました。

 

河野:リスキリングを行うだけでは、従業員の新たなスキルは身につくものの、別の企業、場合によっては、県外企業に転職してしまうのではという懸念もありました。そのため、リスキリングを含む概念である「人的資本経営」の導入により、スキルを身に付けた従業員の活躍の場などの整備も必要と考えていました。そのため、企業の現状やどのような支援が必要かを広く知りたいと県から要望し、やまぐち産業振興財団とタナベコンサルティングのサポートを得て実施しました。

 

澁谷:目標を大きく上回る回答が集まったことで、県内の中小企業が人材に対する経営課題意識を強く持っていることや、人的資本経営とは何かを考えるきっかけづくりに財団の事業が貢献できていることなど、今後の展開につながるヒントを得ることができました。

 

――2024年度もリスキリング支援事業は現在進行形で継続していますが、新たに「人的資本経営セミナー」も加わってアップデートしています。

 

河野:タナベコンサルティングから提案をいただき、中小企業における人的資本経営の推進を周知する「基礎編」と、事業戦略と連動する採用戦略や人事処遇制度などの人材マネジメントを確立する「実践編」の2段階構成で実施しました。

 

澁谷:基礎編は、県内の東部・中央部・西部の3地域で実施します。また、実践編は山口市で「事業戦略と連動した人材戦略」「人材マネジメント:人事処遇制度~評価賃金」「人材マネジメント:採用戦略」の3テーマ別に分けています。

 

――2年連続で参加を決めた企業もあるそうですね。

 

澁谷:「今年は部下も連れて行きたい」と連続参加を決めた経営者がいます。特に、個別コンサルティングを受けた企業は「人的資本経営セミナー」への関心が高く、基礎編・実践編ともに参加されるケースが多いですね。

 

リスキリング戦略セミナーのカリキュラムは初年度を踏襲していますが、タナベコンサルティングの講師が新しい方になって取り扱う事例も変わり、「連続参加でも新しい発見があって勉強になった」という声が届いています。

 

――リスキリングや人的資本経営の重要性に気付いていない企業への周知について、工夫されていることはありますか。

 

澁谷:アプローチを重ねてもすぐに考え方が変わらない企業もありますが、個別コンサルティング支援の成果事例を具体的に示しながら、考え方に変化が生まれるよう啓蒙することを心掛けています。

 

 

人材戦略策定から実装まで支援する推進モデルを構築

 

――リスキリング支援のさらなる展望を教えてください。

 

河野:人的資本経営と連動して経営ビジョンに基づく自社の事業戦略を整理し、そこから求める人材像やリスキリングの人材育成を体系化していくことは、全ての中小企業に共通するメリットであり、今後に役立つものです。山口県も深刻な人材不足が顕在化する中、モデル化の取り組みを推進したいと考えています。

 

澁谷:人材戦略を策定して人材育成に落とし込んでいる企業と、そうでない企業に差があると感じています。例えば、まずは人材戦略がまだない企業には戦略の策定を、次に具体的に人材育成体系・計画の策定を支援するなど、実装できるまで段階を追って支援できるようにしていきたいですね。

 


今後の展望について話す澁谷氏

 

――より明確にステップアップできる推進モデルの構築は、地域に根差す中小企業が持続する仕組みとして、全国の行政担当者にとってもロールモデルになります。

 

河野:一極集中が加速する東京以外の地域でも、企業が存続するために、力強い事業活動を展開していくことが重要です。人材に対して投資できる環境や体制をつくることで、数が少なくても一定の雇用や活力ある人材・企業の姿を創出していけるのではと考えています。

 

澁谷:地域同士で人材の取り合いになる側面もありますが、リスキリングの観点で言えば、全国的に取り組みが進むことで、地域から日本全体の生産性向上につながるとうれしいですね。

 

――タナベコンサルティングに対する評価や今後の期待、要望をお聞かせください。

 

澁谷:プライム上場企業で全国10拠点に支社があるタナベコンサルティングは、コンサルティングの実績やノウハウを豊富に蓄積しているのでとても参考になります。中小企業の心に刺さる事例を紹介できるのも、大きな強みだと感じています。

 

型にはめこむコンサルティング支援が多い中、丁寧にヒアリングして企業ごとの業種・業態・現状を把握してから、経営戦略と連動する形で活用しやすいロードマップに落とし込んでくれます。高品質で地に足がついた支援をとても高く評価しています。

 

河野:企業それぞれにどのような人材やスキルが必要かを明確にして、人材採用から育成まで人材ポートフォリオの策定にも踏み込んでいく提案は心強いです。引き続き、やまぐち産業振興財団と連携を続けながらご協力いただければと思います。

 

 

――本日はありがとうございました。

 


山口県庁舎本館棟前で撮影

 

PROFILE

    • 公益財団法人やまぐち産業振興財団
    • URL:https://yipf.or.jp/
    • 所在地:山口県山口市小郡令和1-1-1 山口市産業交流拠点施設内
    • 代表者:理事長 山本 謙