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コラム
人材マネジメントの流儀
企業が「今」取り組むべき人材マネジメント施策のポイントについて、タナベコンサルティング HR コンサルティング事業部メンバーが徹底解説。実際の企業の取り組み事例を交え、採用から育成、活躍、定着と制度構築まで網羅し、人事の極意に迫ります。
コラム 2024.12.24

Vol.17 人事処遇制度の本質 浜西 健太

 

企業は何のために人事処遇制度を構築するのか。なぜ人事処遇制度は形式的な運用にとどまってしまうのか。タナベコンサルティングのHRコンサルティング事業部による連載「人材マネジメントの流儀」、第17回では人事処遇制度設計の本質について掘り下げ、その答えに迫る。

 

人事処遇制度の本質的価値

人事処遇制度は、企業の事業戦略・経営戦略を実現していくために存在する。したがって本制度の本質的な価値は、これらの戦略を担う「組織・人材の価値を最大化していくための仕組み」である。単なる人事・労務管理や賃金決定のための道具ではないことをまず押さえておきたい。

しかし、現実的には一定期間(一般的には年1回or年2回)の評価を経て、昇給や賞与を決めるためだけの制度であると認識されている企業も多い。毎年の慣例行事として、評価者・被評価者ともに、評価の時期だけ慌てて形式的に対応しているケースも散見される。昇給や賞与の決定プロセスの一つとして人事処遇制度を活用することは間違いではないものの、社員一人一人に対する「人材育成」の思想が前面に出なければ、組織・人材の価値最大化には決してつながらない。(【図表1】)

 

 

【図表1】人事処遇制度の本質的価値

出所:タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

制度疲労を起こした人事処遇制度

なぜ人事処遇制度は形式的な運用にとどまり、制度疲労を起こしてしまうのか。筆者は日々のコンサルティング経験から大きく3つの課題があると考えている。

⑴人事処遇制度が古い
これは多くの企業に共通する課題である。パーパスやMVV(Mission、Vison、Value)を軸に、主にビジネスモデルや組織に対する改革は重ねているものの、肝心の人事処遇制度は10年以上前からほとんど変わっていないといった例が目立つ。

本来、ビジネスモデルが大幅に変われば、それに伴って求められる役割(人事処遇制度でいう等級基準)や役割と連動した評価(人事処遇制度でいう評価制度)も変化させるのが定石である。にもかかわらず役割も評価も変更していなければ、制度疲労を起こしてしまうのは当然といえば当然である。

これは多くの企業に共通する盲点であり、プライオリティ(優先順位)を引き上げていくべき戦略課題であると言い切れる。ビジネスモデル改革や組織改革に取り組むのであれば、それと連動した人事処遇制度の改革にも着手いただきたい。

 

⑵硬直的な人事処遇制度
多くの企業がいまだに職種(営業職や製造職、事務職など)や職制(ゼネラリストやスペシャリストなど)を区別しない人事処遇制度を運用している。これは日本企業が長らく育んできた職能資格制度(年功序列型)を軸とした人事処遇制度の名残りである。

人事処遇制度において職種や職制を区別しないことは、人材の配置転換を柔軟にするというメリットはあるものの、職務や役割特性を踏まえた実務との乖離(かいり)は広がる傾向が強く、結果的に人事処遇制度に対する能動的な関心が薄れ、制度疲労を起こしてしまう可能性が高くなる。

⑶運用8割を無視した人事処遇制度
最後は運用に関する課題を共有したい。人事処遇制度は、どれだけこだわって作り上げたとしても、それだけでは2割程度の価値しかない。残りの8割の価値は、いかに運用するかにある。

しかし実際は多くの企業が制度構築フェーズで息切れしてしまい、運用フェーズに注力できていない。また、よくよく作り込んだ制度であっても、社員が理解できないほど複雑で難解なものは運用そのものが破綻する。人事処遇制度において大切なことは①「独自性」、②「透明性」、③「納得性」であり、シンプルでわかりやすい制度をつくることがポイントとなる。

また、運用8割の観点から、人事処遇制度を運用する上での人事部の存在についても押さえておきたい。せっかく作り上げた制度が形式的に運用されてしまっては、当然ながら効果は半減してしまう。運用を担う人事部から、社員の動機付けにつながる発信(通達)や学習機会(研修)を提供することが大切である。

【図表2】は、一年を通じて人事部やCHRO(最高人事責任者)が中心となって、組織へ展開すべきテーマを記載している。

 

 

【図表2】人事部(CHRO)が組織へ展開すべきテーマ一覧

出所:タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

通達一つとっても、人事部の数あるオペレーション業務の一つとして終わらせずに、目的や意図を添えて発信していくことが大切である。また、目標設定や評価(考課)に関する研修については、座学形式ではなく、参加型のワークショップを主とし、参加人数を絞ることで一人一人の学習効率を高められる。年間の節目には、目標や評価結果について仮説と今後に向けた対策を経営層に共有(進言)することも推奨する。

そして何より「一部の部署や人材が人事処遇制度を育む」のではなく、「全社員で人事処遇制度を育む」という思想を大切にしていただきたい。経営者や人事責任者、第一線で活躍する社員まで例外なく共通する課題として、自社の人事処遇制度と向き合うことが大切なのだ。

PROFILE
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浜西 健太
Kenta Hamanishi
タナベコンサルティング HR エグゼクティブパートナー

「誰もが幸せに働ける会社を生涯かけて追求する」をポリシーに、組織・人事に関するプロフェッショナルとして多くのコンサルティングを展開。特に、経営者へのコーチングが高い評価を得ている。クライアントのステージに合わせた人事制度設計および組織開発を通して、エンゲージメント向上と売上倍増へと導いた実績多数。