ウェルビーイングでビジネスを成長させる研究会では、「ウェルビーイング」の考え方を軸として、秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供することで、事業構造を変革するきっかけをつかんでいただくことを目的として活動している。ブレない想いを持ち、積極的な事業展開を進めている企業をご紹介し、タナベコンサルティングのコンサルタントによる基調講義のほか、ゲスト2社によるウェルビーイング経営の今と未来の戦略についての研究を深めた。
開催日時:2024年10月23日(九州開催)
シャボン玉石けん株式会社 本社工場
はじめに
シャボン玉石けんは「健康な体ときれいな水を守る。」という企業理念のもと、無添加石けん※の製造・販売を展開している。先代森田光德氏が長年悩んできた体の湿疹が、試作した無添加石けんを使用したところ治癒したという原体験から、「体に悪いと分かったものを売るわけにはいかない」という信念を持たれて以来、従来の製品開発を止め、無添加石けんにこだわった製品製造に切り替え、今年で50年の節目を迎えている。
「無添加石けんのパイオニア」をコアコンピタンスとして、医療歯科向けの展開や、消火剤としての活用といった用途開発、より印象に残るノベルティ分野への展開などを通じて業績は伸長している。今回は本社工場・事務所に伺い、工場視察・講演の2部構成で、シャボン玉石けんの信念に基づいた粘り強い取り組みについて研究した。
※香料・着色料・酸化防止剤・合成界面活性剤不使用
まなびのポイント 1:コアコンピタンスである「無添加石けん」を生み出す工場
もともと「無添加石けん」は現JR九州から、機関車を洗浄するための添加物不使用の石けんの開発依頼があったことがきっかけである。従来活用していた合成洗剤ではさびが早く出てしまう不具合が顕在化していた。
無添加石けんの製品開発過程において、先代森田光德氏が試作品を実際に使用してみたところ、体の湿疹が治癒した原体験が今のシャボン玉石けんの源流となっている。原料の油脂をそのまま反応させる昔ながらの釜炊き製法を守り、「ケン化法」にて製品を製造している。「ケン化法」は油脂に含まれる天然の保湿成分(グリセリン)が残るため、肌に優しい石けんが製造可能である。
工場では釜炊き職人が石けんの出来具合を五感(見る・聞く・におう・触る・舐める)で確認し、石けんのもとが良質にものになるかどうか判断している。もちろん検査機器も通し、厳しい基準をクリアしたものだけが世に出る。五感で判断ができるようになるために熟練が必要とされ、「釜炊き10年」と言われている。
※石けんは食べられません。
「釜炊き製法」を守り、職人は石けんの出来具合を舌で確かめる。口に入れても構わないという事実が安全性を物語る
まなびのポイント 2:製品を軸にした地域社会への貢献
「健康な体ときれいな水を守る。」という企業理念のもと、「無添加石けん」を軸に、①従業員の健康と幸福の向上、②消費者や顧客のウェルビーイング、③持続可能な社会との共生に資する活動を展開している。
ビジョンの中に「石けんと合成洗剤の違いを一般常識レベルにまで広げる」という項目があり、「無添加石けん」の良さを周知する活動に力を入れている。出前授業などにも積極的に取り組み、環境教育を展開。手あらいうた、地域の方や著名人を活用した手あらいダンスによる手洗いの啓蒙などを継続的に実施している。北九州市等、産官学民での地域の利害関係者との関係を構築し、感染症対策の領域にまで活動範囲は広がっている。
また、人気商品の売り上げの1%を“人と環境にやさしい活動”に寄付する「1% for Natureプロジェクト」を通じて、人と環境にやさしい活動を支援し、消費者や顧客のウェルビーイング増大に積極的に取り組んでいる。
人と自然にやさしい「無添加石けん」の良さを周知する活動にも力を入れている
まなびのポイント 3:健康経営に向けた取り組みを通じた社員のウェルビーイング向上
「合成洗剤を使用している人は採用しない」「喫煙者の採用はしない」など、強いポリシーを持って人材に向き合っており、社員の喫煙率は0%と他社にはない特徴を持っている。また、産休・育休復帰率は100%に達しており、子育て応援サークルの定期開催や、家族手当1人当たり月1.3万円支給など、社員の健康増進や子育て支援の施策が充実している。
コロナ禍が明けリアルコミュニケーションの重要性が再認識されているが、社員交流会・設立記念および新入社員歓迎会・クリスマス会・社員旅行・懇親会経費補助・各種部活動の活動支援、社内カフェなど、社員間のコミュニケーションを促す仕掛け・仕組みが多く活用されており、社員のウェルビーイング向上に一役買っている。
このような特長が、多様な人財を呼び込み、お客様・社員ともにウェルビーイングになる善循環にもつながっている。
社会課題の解決を目指し、消費者や顧客のウェルビーイング実現、社員のウェルビーイング向上に向けた取り組みを展開