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FCC FORUMリポート
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コラム 2024.10.01

未来を見据えた投資で成長する環境と建設の循環型ワンストップ戦略 山内 一成:成友興業の戦略解説

成友興業

成長投資に不可欠な「意思と覚悟」

 

企業が成長発展するためには、事業や人への投資が欠かせない。成長スピードは企業によって異なり、また同じ会社でも成長段階で変わる。

 

成長には次の3タイプがある。1つ目は、企業・売上規模が劇的に変わるような、M&Aなど大きな投資によって「ダイナミック成長」を遂げるタイプ。

 

2つ目は、注力している事業に戦略的・重点的に投資し、成り行きでは実現し得ない成長を目指す「チャレンジング成長」タイプ。

 

3つ目は、中長期の計画的な投資で、ステップ・バイ・ステップで成長する「オーガニック成長」タイプ。

 

どの成長タイプを目指すかは「意思」が、その実現に向けた相応の投資判断には「覚悟」が不可欠だ。

 

投資による成長戦略のモデルケースが成友興業株式会社(東京都)である。事業内容は、土木工事を主体とする建設事業、建設廃材のリサイクルや再生建設資材を生産する環境事業、汚染土壌処理事業である。土木・解体工事を受注して施工し、そこで出た建設廃材や汚染土壌を自社プラントでリサイクルし、製品化した再生建設資材を新たな土木工事現場で活用する「循環型ワンストップ事業サービス」モデルと言える。

 

1975年に砕石の販売業として創業して以来、建設から環境、エンジニアリングへと事業領域を拡大。半世紀で連結売上高122億円、グループ従業員数242名(2023年9月期)、名古屋証券取引所メイン市場上場企業に成長を遂げた理由は、「成長市場」「収益基盤の強化」「人材」への3つの投資にある。

 

 

「成長市場」「収益基盤の強化」「人材」に投資

 

成長市場に活路を見いだしても、必ず成功するわけではない。自社の成長につながる市場を見極めるアプローチとして、適切な市場規模か、参入障壁はないか、自社の強み・特徴・経営資源を生かせるか、収益構造の改善につながるかをポイントとしていただきたい。

 

成友興業が大きく飛躍したきっかけは2009年、産廃処理施設を拡充する第一工場の開設である。東京都スーパーエコタウン事業構想(当時)の選定施設として、廃棄物処理問題の解決を担う事業投資を戦略的に判断した。年商30億円規模の企業には相当な投資負担だったが、投資の決断には「Think ahead」(将来を先取りした企業を目指す)という経営哲学の価値観があった。首都圏の産廃リサイクル市場は間違いなく成長分野になるとの見通しがあり、建設事業との親和性が高く相乗効果が得られる投資だったのだ。

 

自社の事業が成長分野でも、未来永劫えいごうに高い収益を維持できる保証はない。成長を望むなら、今ある事業の収益基盤を成長性と投資効率の観点から評価すること、将来を見据えてどの事業分野を伸ばすかの判断が必要だ。どんな投資も原資の確保は不可欠であり、既存の基幹事業の収益力を高めることが求められる。

 

成友興業では、収益基盤強化へ投資してきた。環境事業は廃棄物処理品目を拡充しながら2011年に東京都初の汚染土壌処理業許可を取得。他にも「地域・業界初」となる認証取得実績を積み重ねることで、先発者利益が期待できる収益の入り口を創り出した。全社利益の多くを占め、稼ぎ頭の基幹事業となった環境事業は、その収益を建設事業の事業・人材投資に振り向けている。建設事業は2024年に大型の水道工事を手掛ける企業を子会社化し、グループ事業として拡大。環境事業にとっても建設廃材の安定的な受け入れにつながる、意義あるM&Aとなった。

 

また、2023年に名古屋証券取引所に上場を果たし、今後は資金調達や人材確保、営業情報の取得がしやすくなる期待が高まっている。特に建設事業は、技術者・技能者の数が売り上げづくりの決め手となるため、上場企業の知名度や魅力が求職者の意思決定を後押しした。数千万円規模の上場関連費用や上場維持にかかる年間コストも、コーポレートブランディング活動への投資と言える。

 

人材採用の難しさが増す昨今、これまで以上に「人が集まる会社づくり」に注力することが重要である。人材確保を成り立たせるための要素としては採用(「社風・仕事・社会貢献」を伝える)、育成(予算と育成システム)、活躍(成功体験をサポート)、定着(魅力ある職場づくり)が挙げられる。この4つの要素は全てそろっていなければならない。

 

成友興業は2023年、建設人材育成優良企業表彰・国土交通大臣賞を受賞した。人材育成の注目点は「若手技術者育成への重点投資」にある。建設現場に配置する若手技術者の休日を確保するために、現場業務の効率化と負荷軽減、高生産性を進めるDXや支援体制の強化を推進。若手に対するハラスメントリスクを徹底的に排除し、上司や先輩による問題行動の防止にも努めている。

 

同様の取り組みは建設業界で増えたが、同社は若手技術者が優良工事表彰を受賞したことで自信を付けている。社員が辞めてしまえばもう育てられないため、「未来のわが社を担う社員・技術者を育て、確保する」ことを重視し、若手の育成・活躍・定着へ注力している。

 

あらためて、同社の3つの投資テーマを整理したい。「成長市場への投資」は、自社の「勝てる場」の発見である先見力と、成長分野の何に投資するかの判断力が問われる。「収益基盤の強化への投資」は、「初めて」「オンリーワン」への挑戦で付加価値率を高める視点を持つことが重要になる。「人材への投資」は、未来を担う若手社員の成長と活躍を信じて投資することに尽きる。これらのポイントを踏まえながら、適切な投資で自社の未来を創造していただきたい。

 

PROFILE
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山内 一成
Kazushige Yamauchi
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー
経営管理システムの構築から人材育成制度の構築まで幅広くコンサルティング活動を展開。特に、社員教育の企画・運営、研修教材の開発・制作などに従事してきた実務経験を基に、人材教育で数多くの実績がある。また、建設ソリューション成長戦略研究会のサブリーダーを務め、建設業界の支援実績も豊富に持ち、クライアントから高い信頼を得ている。