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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

人にしかできない仕事を創造する製造自動化戦略 千葉 惟平:HILLTOPの戦略解説

HILLTOP

多品種少量・無人稼働・高収益を実現

 

京都府宇治市に本社を構えるHILLTOP株式会社は1961年の創業で、社員は142名(2024年3月現在)を数える。精密な切削加工によって自動車・医療・半導体関連など多様な分野のアルミニウム製試作部品を生産。国内メーカーのみならず、米国の娯楽産業や宇宙開発機関、大手IT企業との取引も実現させ、顧客数は世界で4000社以上に達している。

 

驚くべきは多品種少量生産、24時間無人稼働の工場、高収益という、製造業が理想とするビジネスモデルを実現していることだ。月間約4000品目を生産するが、受注全体の約80%は1、2品の少量生産である。

 

同社を世界的なニッチトップに成長させた要因として真っ先に挙げられるのは、生産現場の劇的な変化だ。1981年に撮影された同社工場の写真を見ると、典型的な3K(きつい、汚い、危険)の町工場である。しかし、現在は5軸マシニングセンタなど約20台の工作機械が黙々と24時間無人稼働する工場になっている。

 

この変化を生んだのは「人には人にしかできないクリエーティブな業務に集中する」という経営改革である。そのポイントは、①ルーティンワークの自動化、②脱下請けによる1社依存率の低減、③人が活躍するシステム構築の3つだ。

 

①についてはアルミ切削加工への集中特化を進めたことが大きく影響している。自動化を推進するためには、高度な技能の標準化や切削加工技術への知見が不可欠だ。同社は試作品の素材として使われることの多いアルミニウムを選び、その加工に集中特化するという決断を下した。そこには「アルミ加工なら何でもできる」という評判を呼んで企業価値を高めつつ、自動化のノウハウを向上させる狙いがあった。

 

②の背景には、「単純作業の繰り返しからクリエーティブは生まれない。毎回新たなことに挑戦することによって創意工夫が培われる」との代表取締役社長・山本勇輝氏の思いがあった。「人材育成」という使命達成に向け、戦略的に推し進めてきたのである。

 

③に関しては、人がやるべき仕事とルーチンワークを明確に分け、ルーチンワークは機械に任せ、人が活躍できるシステム構築に取り組んだ。

 

こうした経営改革にまい進した結果、2010年以降は社員数の増加につながっている。

 

 

業態転換、生産革新を行い社員の創意工夫の向上へ

 

同社の大きなターニングポイントは、多品種少量生産モデルへの業態転換だ。1980年代に自動車部品メーカーからの脱下請けを決断し、顧客中心の多重下請構造からの脱却を図った。

 

それまでの主力であった大量生産モデルから撤退して大手メーカーが取り組まない試作品製造への転換を図り、FA(ファクトリー・オートメーション)による生産自動化に着手したのである。それを機に①大量生産と1社依存、②業務の属人化、③ルーチンワークの3つを「やらない」と決断した。

 

また、人が活躍できるシステム構築に力を注いだ成果も大きい。切削加工技能の実績や加工条件、工具の耐久度などをデータベース化し、それを活用したプログラムによって工場の24時間無人稼働を実現する「HILLTOP System」を構築し、運用した。さらに、人がやるべき仕事を「標準化」「見える化」して同システムに反映させることで運用効率を上げ、同社が顧客から選ばれる強みとしている。

 

加えて、同社は社員の働く環境整備にも積極的な投資を行っている。「先モ後利(モチベーション向上を優先すれば、利益は後から付いてくる)の経営」と、「5%理論(売上高の5%で新しいことにチャレンジする)」である。

 

先モ後利の経営においては、「人らしく働ける場所」をコンセプトに、本社のさまざまな施設や福利厚生などの制度充実を推進。斬新なデザインの本社では壁を少なくして社員の交流を促したり、社員食堂をカフェテラスのようなくつろげる空間にし、「人らしく働ける」「モチベーションの上がる」環境を整備。そうすることで、社員の創意工夫の向上をバックアップしている。さらに5%理論の導入も、開発機能の強化や米国現地法人の設立による宇宙開発機関などの新規取引先の開拓につながっている。

 

 

世界の開発を加速させる新ビジネスモデルを追求

 

HILLTOPが目指す未来のモノづくりは、「サービタイゼーション(サービスによって価値を提供する)」というワードで総括できる。「インダストリー4.0」を皮切りにIoTやAI分野への投資、スマートファクトリーの拡大が進み、「モノづくりからコトづくりへ」という動きも活発化する中で、サービタイゼーションは製造業の新たなビジネスモデルとして注目を集めている。

 

同社は40年以上かけて培ってきた自社変革のノウハウとデータを活用したHILLTOP SystemにAI機能を搭載し、加工プログラム作成の完全自動化を開発している。

 

このシステムを他社へもサブスクリプション方式で提供する「COMlogiQ」を2020年から展開。人の手仕事では4時間以上かかる作業を6分に短縮するという目覚ましい成果を上げている。さらに、モノづくりの開発期間を短縮するなどの、新たなビジネスモデルを誕生させる可能性も秘めている。

 

ミッションに掲げる「世界の開発を加速させる」を体現しながら、同社がビジネスモデルを変革して成長する姿が予測できる。現状に満足することなく、新たなビジネスモデルを常に追い求めるHILLTOPの姿勢と風土は、あらゆる企業の参考になるだろう。

 

※ ドイツ政府が2011年に発表した産業政策。第4次産業革命。製造業においてIT技術を取り入れ、改革することを目指すというもの。

PROFILE
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千葉 惟平
Yuihei Chiba
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン ゼネラルマネジャー
建設会社にて土木建設資材を製造する工場のマネジメントに従事後、タナベコンサルティングへ入社。現場で培った経験を基に、クライアントの「現場力」向上を支援。工場の生産管理指導をはじめ、製造業の現場改善、生産性改革、社員教育、人事戦略構築(採用・人事制度・教育計画策定)などを得意としている。