多くの商品やサービスがあふれている現代では、価格競争やコモディティー化に陥ってしまう企業が増えている。ブランドが持つ価値観やストーリーに共感を生み出し、機能や価格ではないブランド力で差別化を図ることにより、競争力が強化され、企業成長につながっていく。
「共感」を得るためには、ブランドの価値を一貫性のあるメッセージで発信し、伝えることが不可欠である。しかし、伝えるべき本質的な価値(ブランドベネフィット)の定義ができていない企業も数多く存在する。そのような状況では、どれだけ情報を発信しても、共感を得ることなどできるはずがない。まずは大前提となるブランド価値の整理から解説する。
ブランドの本質的価値の整理
ブランドベネフィットとは、ブランドが顧客に対して提供する付加価値であり、“顧客に約束する価値=利益”という視点で定義していく必要がある。ファーストステップとしては、ブランドの現状認識である。
まず、社内・取引先・クライアントなど、立場の異なる視点からのブランドイメージ調査によるギャップ分析や認知度調査、競合分析などを行う。
次に、それらを掛け合わせ、客観的かつ立体的にブランド資源の棚卸しを行い、現在地を明確にする。ここで重要なポイントは、社内メンバーのインタビューやディスカッションだけで結論を出してしまい、客観的視点が抜けてしまわないようにすることである。
そして、専門価値(商品・サービスの独自性、技術力で選ばれる)、人材価値(社員の能力や人柄、組織風土の良さで顧客の信頼を得る)、社会価値(地域貢献や環境保護など世の中に良い影響を与え支持される)の3つの観点から唯一無二の提供価値を抽出し、伝えるべきブランドターゲット(真の顧客)を設計し、ブランドの本質的価値(ブランドベネフィット)を定義する。(【図表1】)
【図表1】ブランドの3つの価値
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
共感してもらうためのPRストーリー設計とPESOモデル活用
前段で設計したブランドベネフィットを顧客に情報を届け、広げてもらうためには、商品・サービスの情報(価格・機能・キャンペーン情報など)を一方的に届けるのではなく、顧客や社会に価値を感じて共感してもらうという「PR発想」をもって情報を届けることが重要となる。
社会の共感を生むPRストーリーの設計には、メディア(世の中)の関心事やトレンド、ターゲットインサイトの要素にブランドベネフィットを掛け合わせ、メッセージやイメージへ変換し、最適なメディアを選定していく必要がある。
PRコミュニケーション戦略において、PESOモデルは基本的な考え方である。「Paid Media(ペイドメディア:テレビCM・ウェブ広告など費用を掛けて拡散するメディア)」「Earned Media(アーンドメディア:ニュース・新聞記事などマスメディアや生活者などの第三者から発信される情報メディア)」「Owned Media(オウンドメディア:自社サイトやECサイトなど自社で運用し発信するメディア)」に、「Shared Media(シェアードメディア:Instagram、Facebook、X、YouTubeなどのSNSを起点に情報発信されるメディア)」を組み合わせたものである。(【図表2】)
【図表2】PESOモデルにおけるPR手法の位置付け
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
これまでのメディア戦略は、テレビCMや広告など企業からの一方的な発信が主軸だった。しかし、SNSなどの台頭により、情報主体が企業から生活者へ変化しており、現在は情報を広くステークホルダーに届けるために「生活者に情報を広めてもらう」視点が重要となっている。
ただし、Earned MediaとShared Mediaは情報をコントロールできないため、第三者にどのような情報を発信してもらいたいのか、内容をイメージし、PRストーリーを組み立てる必要がある。そして、4つのメディア特性を理解した上で各メディアを組み合わせるメディアミックスにより、一貫性のあるPRコミュニケーション戦略を構築することができる。これが、生活者の共感を得ることにつながっていく。
実装に向けたアクションプラン・KPI設計
PRストーリーとコミュニケーション戦略策定ができれば、次に、実装に向けた具体的なアクションプランをつくり上げていくことが必要となる。アクションプランが作成できていなければ、いつまでに・誰が・何を実行するのかが曖昧になり、適切なマネジメントができない状況に陥ってしまう。
まずは、顧客とブランドのタッチポイントを洗い出し、各フェーズでの行動を可視化して、最適化するためのカスタマージャーニーマップを設計。メディアごとの行動計画を5W2Hの観点からつくり、実現可能なスケジュールでアクションプランへ落とし込んでいく。その際に適切なKPI(重要業績評価指標)を設計することも欠かせないポイントとなる。ブランド認知度の向上やメディア露出の増加、生活者とのエンゲージメント強化など、効果を測定するための具体的な指標を、メディアごとに目標設計していく。
そして、定期的な効果検証のモニタリングを行い、進捗状況の確認と変化する世の中の関心事やトレンドに合わせたプラン変更など、必要に応じて戦略を修正。PR効果を最大化させ、ブランド価値を高めるためのPDCAサイクルを仕組み化していくことが重要となる。
ブランディング戦略パートナーとして、SNSなどのデジタル活用や動画活用を得意とし、ブランド構築からコミュニケーション設計までリアル×デジタルでブランド価値を最大化するコンサルティングを実行。戦略策定から実行推進まで並走しトータルでサポート。特にブランドストーリーに沿った企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。