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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.09.01

社会との信頼を築くPR戦略 飯島 智佳

社会との信頼を築くPR戦略:飯島 智佳

 

時代に即したPR戦略へ再考が必要

 

「PR」と聞いて何を思い浮かべるだろうか ? 日本においては、PRと聞くと「プレスリリースを出すこと」「パブリシティー獲得を目指すこと」と捉える人が多くいる。

 

しかし、本来のPRとは「Public Relations(パブリックリレーションズ)」の略称であり、その定義は「企業とステークホルダーが良好な関係を共に創っていくための活動および考え方」である。要約すると、「社会と良い関係を築くためのコミュニケーション」、つまり「社会からの信頼づくり」だ。そのために行う活動は、プレスリリースやパブリシティーにとどまらず、広告やSNS、セールスプロモーション、コーポレートサイトなど、ステークホルダーに向けた全てのコミュニケーションがPR活動と言える。

 

では、なぜ日本において本来のPRの意味があまり浸透していないのか。それはPRが日本に広まった歴史をさかのぼると理解しやすい。

 

そもそもPRの起源は、18世紀後半の米国独立戦争と言われている。その後、19世紀末から20世紀に鉄道会社が米国内で鉄道インフラを広げる上で、さまざまな利害関係や地域社会との軋轢あつれきが生じる中、社会的な合意形成のために行った活動が、事業におけるPRの始まりとされている。

 

日本では第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本の民主化政策実現のために米国のPRを紹介したことで始まったが、その際に日本政府がPublic Relationsを「広報」と訳したこと、そして、本来の意味のPRが浸透する前にGHQが撤退したこと、さらに、高度成長期において日本全体が大量生産・大量消費の「露出すればするほど売れる」というマスメディア・広告主体の社会であったことによって、「マスメディアに取り上げてもらうこと=パブリシティー獲得のための活動」という独自の考え方が形成されたと考えられる

 

一昔前は、ステークホルダーに対するアプローチ方法は限られており、BtoC企業の場合はテレビの情報番組に取り上げられること、BtoB企業の場合は専門誌・業界紙に取り上げられることが主要なアプローチ方法であった。

 

しかし、SNSやオウンドメディアなど、企業が直接ステークホルダーに情報発信できるデジタルツールが増えたことにより、アプローチ方法の選択肢は多岐にわたり、さらに、コンテンツも文字情報だけでなく、画像や動画など多様化するようになった。

 

また、人々の価値観、習慣も多様化してきており、かつてのように広告やテレビ番組からの情報で国民の大多数の行動変容が促されることもほとんどなくなった。とある情報番組で紹介された翌日に全国のスーパーマーケットで納豆が売り切れたことも、人気ドラマの放送翌日はその話さえすれば誰とでも語り合えたことも、今ではあまり見ない光景だ。

 

このように、PR活動における正解がワンパターンではなくなってきたことから、今の時代に即した新しいPR戦略が求められている。

 

 

BtoB企業におけるPRの重要性

 

このような話をすると、BtoB企業の方から「PRはBtoC企業がするものだ」と言われることが少なくない。しかし、BtoB企業こそPRの力を発揮できると考えている。

 

なぜなら、BtoB企業は組織ビジネスのため、契約・購買には複数関係者や決裁権者の了承を得る必要があり、さらに、個人の買い物以上に失敗が許されないことから、「相手企業への信頼」が購買の後押し、時には決め手にもなる。

 

また、BtoC企業の場合は日常生活の中で認知されることが多いが、BtoB企業だとその業界の関係者でなければ知られていないことも多いため、PR活動で学生やその家族に対して認知度および信頼・信用度を上げておくことで、商品・サービスの販売だけでなく、採用活動にも良い影響を与える。以上から、PRを取り入れることが、BtoB企業の経営にとっても必須と言える。

 

PRは「社会からの信頼づくり」であると前述したが、そのために重要となるポイントが5つある。

 

 

ポイント1 ブランディングとPR

 

PR戦略はブランディング戦略の基になくてはならない。ユニークなプロモーションで一時的に話題になり、短期的に売り上げを伸ばした事例もあるが、そのプロモーションがブランディング戦略から離れたものだと、あくまで影響は一時的であり、すぐにバブルは弾けてしまう。それだけならまだ良いが、もともとあるブランドと異なるイメージを拡散するプロモーションであった場合、すでにそのブランドに共感していた人々からの信頼を損ねることとなり、ブランドの成長に悪影響を及ぼすことになる。

 

ステークホルダーとの信頼関係を構築し、自社の持続的な成長に貢献するPRとするためには、ブランディング戦略に沿ったコミュニケーションを設計していくことが重要である。

 

※ 参考文献:『体系パブリック・リレーションズ』(2008年、ピアソンエデュケーション)、『広報・PR論 パブリック・リレーションズの理論と実際』(2014年、有斐閣ブックス)

 

PROFILE
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飯島 智佳
Chika Iijima
タナベコンサルティング ブランド&PR ゼネラルパートナー

販促代理店のアカウントエグゼクティブとして大手食品メーカーの販促プロモーションの企画立案、実行推進に従事した後、タナベコンサルティングに入社。消費者心理、顧客心理を理解したソリューション提案を強みとし、ブランドの魅力を最大化するマーケティング戦略のトータルサポートで、クライアントの厚い信頼を得ている。