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研究リポート
人的資本研究会
人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート 2024.07.18

よなよなエール流 働きがいのある会社づくり ヤッホーブルーイング

【第3回の趣旨】
企業が経営環境の変化に対応しながら、持続的に企業価値を高めるためには、事業ポートフォリオのみならず、人材ポートフォリオの構築や、付加価値を生み出す人材の確保・育成など、経営戦略と適合する人的資本戦略が重要となる。
タナベコンサルティングの人的資本研究会の第3回は、「事業と連動した経営戦略×人的資本戦略の最大化」を探求すべく、特別ゲスト2社による講義のほか、人事制度構築の実績を数多く持つコンサルタントの基調講義や、研究会参加者の異業種交流を通じて、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)を体系的に学んだ。

開催日時:2024年6月18日(大阪開催)

 

株式会社ヤッホーブルーイング
ヤッホー盛り上げ隊ユニット(人事労務総務) 長岡 知之 氏(ちょーさん)

 

 

はじめに

 

長野県軽井沢町を拠点とする1997年創業の革新的なクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイング。代表作「よなよなエール」や「インドの青鬼」は、その卓越した品質と個性で国内外のビール愛好者を魅了している。創業から3年間は地ビールブームによって好調だったが、2000年よりブームが衰退して売り上げが低迷し、4年連続の減収となった。

 

当時は、仕事の判断基準やスタッフのエンゲージメントが高い状況とは言えなかった。同社の代表取締役社長・井手直行氏は、「このままではいけない。皆が同じ方向を向くために、経営理念を定めて共有しよう。チームで主体的に活動する会社にしたい。働きがいのある会社になりたい」と決意した。そして、事業改革に加え、経営理念の浸透、チームビルディングプログラム、心理的安全性の醸成など、さまざまな改革を行った。

 

その結果、2021年11月期までの19期連続で増収を果たし、過去最高益も更新。明るく、コミュニケーションが活発で楽しそうな会社として企業ブランディングにも成功し、従業員数は10年で5倍になった。

 

また、近年は同社の働き方や組織文化が認められ、Great Place to Work® Institute Japanが主催する「働きがいのある会社」ランキング(日本版)の中規模部門において、2024年版まで8年連続でベストカンパニーに選出されている。

 

 


8年連続でベストカンパニーに進出!2024年は中規模部門で9位
出所:ヤッホーブルーイング講演資料


 

まなびのポイント1:質の高い打ち手×実行力が重要

 

質の高い打ち手を見いだし、打ち手の実行力を高めるには、①十分な議論と合意形成、②チーム成果を最大化することが重要である。

 

①十分な議論と合意形成を行うためには、経営理念を定め、自社が大切にする価値観を明確化することに加え、状況共有・相互理解により、共通の判断基準をつくる必要がある。

 

②チームの成果を最大化するためには、心理的安全性を高め、コミュニケーションの質を高めて量を増やし、チームビルディング理論を理解・実践する必要がある。

 

同社は①②を実践するため、さまざまなコミュニケーション施策や人事施策を実装し、会社としてサポートしている。次項で具体的な取り組みを紹介する。

 

 


出所:ヤッホーブルーイング講演資料

 

 

 

 

まなびのポイント2:経営理念の浸透と情報共有で判断基準を統一

 

同社は「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げ、「画一的な味しかなかった日本のビール市場にバラエティを提供し、新たなビール文化を創出することでビールファンにささやかな幸せを届けること」を目標にしている。価値観をそろえるための経営理念の浸透、入力情報をそろえるための情報共有を行うことで、スタッフの判断が統一されていくと同社は考えている。

 

経営理念浸透のポイントは、「トップから伝え続けること」と「スタッフの自発的な取り組みの推奨」だ。まずは、トップがさまざまな場面で何度も経営理念について言い続けること、諦めずに伝え続けることが重要である。同時に、企業文化・価値観に沿った良い行動を賞賛し合う朝礼や、理解を深めるための勉強会、経営理念に特化した社内報(最近は動画が主流)など、ボトムアップの取り組みも重要である。

 


出所:ヤッホーブルーイング講演資料

 

 

 

 

まなびのポイント3:チームビルディングによる心理的安全性の構築

 

同社は「ガッホー文化(頑張れヤッホー!)」を掲げて全スタッフに浸透させ、スタッフ一人一人の力と自発的な努力を原動力に、一人では成し遂げられないことをチームとして達成することを大切にしている。

 

出所:ヤッホーブルーイング講演資料

 

 

スタッフの心理的安全性が損なわれ、エンゲージメントが低くなっていた売上低迷時、同社は井手氏が外部で学んだ知見を活用し、アクティビティーを通じてチーム形成を体感・理解する研修「TBP(チームビルディングプログラミング)」を開始。2024年で15年連続実施している。

 

TBP実施のポイントは、①参加したい人だけが参加する(やらされ感=NG)、②全員一気に変わることはできないので変われる人から優先的に!、③現場から広め全体を変えていこう!(急がば回れ)。結果として、今ではほとんどのスタッフが受講し、社内向けに講師育成講座も開講している。このような取り組みが組織の一体感を醸成し、高い心理的安全性の構築を実現している。

 


「TBP(チームビルディングプログラミング)」の様子 出所:ヤッホーブルーイング講演資料