【第3回の趣旨】
企業価値を高める戦略CFO研究会第3回テーマは「事業ポートフォリオと事業評価・企業価値評価」。
戦略CFOの役割は、経営者のビジネスパートナーとして持続的な企業価値向上に向けて、資本コストを軸とした全社戦略・事業戦略の立案と実行、そして適時適切な開示のもと、投資家との対話を促進することである。
全社戦略は、M&Aを含めた事業ポートフォリオの最適化、事業戦略は、既存事業の推進・拡大と新規事業への投資の両輪である。
そのような中で、既存事業の評価は、事業別ROICスプレッドの算出、新規事業は、NPVをはじめとした投資評価により、マネジメントしていくことを学んだ。すなわち、事業ポートフォリオ評価に基づき、優先投資領域を決定し、成長投資や株主還元にアロケーションすることにより、企業価値を向上させることがCFOの役割である。
開催日時:2024年6月13日(東京開催)
代表取締役CEO 吉松 加雄 氏
はじめに
大手事業会社の第一線で活躍する一方で、MBAをはじめ経営について学ぶ姿勢を貫いてきた結果、「現場実践」と「理論学習」の科学的で合理的な経営スタイルを確立させた吉松氏。理論をベースに現場実践をされてきた経験を基に、現代において求められる「CFOとしての役割」を踏まえたM&A・PMIの概観や、従来の経理・財務としての責任者から、「多彩な役割を担うCFO」への変化について説明いただいた。
吉松氏の「現場実践」×「理論学習」をバックボーンに、 メインテーマであるM&A・PMIに対してのCFOとしての役割について、ご自身の経験と理論学習を基に成功の要諦をご講義いただいた。
M&A・PMI成功の要諦だけでなく、日本企業が苦しんできたクロスボーダー案件の成功ポイントも解説いただいた
まなびのポイント1:クロスボーダーM&Aの課題
現代における日本企業のクロスボーダーM&Aの実態、そしてPMIにおける課題は一体どういった所にあるのか。M&Aにおける各工程から挙げられる課題に対して、真因を提起する。
一貫して言えることは、「一貫的な責任者の不在(実行のギャップ)」「計画の甘さによるギャップの発生」「不明確なM&A戦略(不十分なゴール設定)」「撤退ラインの不在」が挙げられた。
特にPMIにおける課題としては、「PMI体制の未整備」「計画と実行のギャップ」が挙げられ、さらにクロスボーダー案件の失敗例として、「異文化理解の不足」「性急な日本化要求」「そもそものグローバル化モデルへの進化意識の欠如」などが挙げられた。
まなびのポイント2:M&AとPMIの主要プロセスについて
M&A~PMIプロセスの各工程における要点を講義いただいた。特に、財務におけるデューデリジェンス(DD)だけでなく、M&Aや自社対応(内製化・自社開発など)を定量的に測定することの重要性を説明いただいた。測定項目として、経営リソースの見直し、時間・スピード、収益差額などが挙げられた。
また、「どの工程に重点を置くか?」の問いに対して、多くの企業は買収における「クロージング(譲渡完了)」を目的として重点を置くが、日本電産では買収主体部門の一貫責任に基づきPMI工程に9割のウエイトを置く意識で成功を収めてきた。
クロージング後のPMIノウハウ・重要ポイントについて学ぶことは、今後のM&A戦略立案・推進における最も重要な点となり、M&Aにおける成功と失敗を分けると説明いただいた。
M&AとPMI成功の要諦① ※講演資料より抜粋
まなびのポイント3:クロスボーダーM&AとPMI成功の要諦
高値掴みによるのれん減損などの失敗事例の多い日本企業のクロスボーダーM&AとPMIにおける成功のポイントをご提示いただいた。
1.十分な準備;「目指すべき姿」と「成長戦略(ストーリー)」の立案と体制整備
2.「計画のギャップ」と「実行のギャップ」を生じさせない仕組み作り
買収主体の事業部門がM&AからPMIの全プロセスに一貫責任を担う
3.「買収先の見える化の徹底」と「任せて任せず」
4.経営哲学・経営ノウハウの伝達方法と受容度向上
PMIの好結果による被買収会社の受容度向上と現地幹部の積極活用の重要性
5.グローバルモデルへの転換:「親会社集権」 ⇒ 「全体最適と DE&I を踏まえたトランスナショナルモデル」
などが、クロスボーダー案件を成功に導くポイントであると説明いただいた。
M&AとPMI成功の要諦② ※講演資料より抜粋