【第4回の趣旨】
日本では総人口が減少するなか、65歳以上の人口は増加しており高齢化が進んでいる。内閣府の推計によると、2036年において国民の3人に1人が65歳以上となるとされている。(出所:内閣府 令和4年版高齢社会白書)。現在は人口ボーナスが訪れたあとに必ず訪れると言われている人口オーナス到来の時代。生産性人口減少の懸念から健康経営の重要性が叫ばれて久しいが、経営者が志高く健康経営を推進する例はまだまだ少ない。
SDGs・ESG経営研究会第4回1日目は、2015年から、当時は非常識と捉えられるような独自の視点で働き方改革に向き合い、事実として現場の意識改革や企業の体質改善に成功した、株式会社サカタ製作所代表取締役社長の坂田匠氏にご登壇頂いた。併せて同社を視察させて頂き、坂田氏がこれまで取り組んできた成果を実際に見学させて頂いた。イノベーターとしての発想力、クリエイターとしてのひらめき力を駆使し、「一事を持って万端を知る」精神を以て推進してきたイノベーションの軌跡をたどる。
開催日時:2024年5月21日(新潟開催)
代表取締役社長 坂田 匠 氏
はじめに
株式会社サカタ製作所は、屋根金具メーカーとしてマーケットのニッチトップクラスを担う企業だ。屋根を取り付けるための金具、異物侵入を防止するための金具、ソーラーパネルの取付金具、雪の落下を防止するための金具などをメインに取り扱っている。
同社代表取締役社長の坂田氏は、1985年に入社して、大黒柱として会社を支え続けてきた経験から、現場目線で常に先を見据え、クリエイティブな視点で現場改革に取り組んできた。坂田氏が働き方改革に本格着手した契機は、2014年に(株)ワーク・ライフバランス代表小室淑恵氏を招へいし、講演会を実施したときだった。
当時、残業20%削減を目指していた同社は、小室氏に「それでは全く足りない、少子化対策にならない」と厳しい指摘を受けたことを契機に、「残業ゼロ」と「男性の育休取得率100%」を掲げたのだ。男性の長時間勤務は少子化の助長要因になりうる。坂田氏は「業績が落ちても構わない」「育休を取得した社員、育休取得を推進した管理職を高く評価する!」と熱のこもったメッセージを展開。
その結果、現場の意識改革の成功と属人化を促す取り組み、そして無駄な作業の排除のために行われた業務の棚卸しの成果により、2016年には「残業ゼロ」をほぼ実現することができた。
サカタ製作所は屋根金具のニッチトップメーカー兼働き方改革イノベーターとして業界をけん引
まなびのポイント 1:非常識なアイデアを肯定し、非常識を常識に変える
「男性の育休取得率100%」を実現するために、6段階の進め方を検討。①休めない現状の把握、②方針の明確化、③仕組みの構築、④不安解消のためのフォロー、⑤イクメンを称賛、⑥育休の効果確認、の流れで浸透を促進した。①休めない現状の把握段階では、休めない雰囲気や収入源に対する不安など、暗黙のうちに蔓延していたネガティブな感情が原因だった。そのため②方針の明確化段階で、坂田氏自ら方針徹底が最優先であり、社員が不安に感じていることを払しょくするメッセージングを強化した。
③仕組みの構築段階では、制度の整備や業務の棚卸を進め、 ④不安解消のためのフォローとして属人化解消トレーニングを進めた。 ⑤イクメンを称賛する取り組みについては、イクメン・イクボスの表彰をイベントとして取り入れ、⑥育休の効果確認を定量面、定性面の両軸で評価した。これらの取り組みの結果、2018年からは男性育休取得率100%を達成し続けている。また、ある女性社員からは、別会社で働く夫の職場も同じような取り組みをしてほしいという声が上がるほど、手ごたえを感じられる結果となった。
男性の育休取得率100%を掲げ、抜本的な改革を現場目線で推進。特に、休めない雰囲気を暗黙のうちに感じている社員が多数いることを問題視し、イクメン・イクボスを称賛する社風づくりを強化した
まなびのポイント 2:斬新なひらめきを生むクリエイター思考と成果を出すまで諦めない経営者マインド
サカタ製作所で取り組む働き方改革のトピックスのなかには、現在の常識と照らし合わせると思い切った判断だと捉えられるものも多い。例えば、全社禁煙化。健康経営の一環であり、喫煙者には禁煙外来の費用を補助し禁煙を推進した。さらに、採用時点で喫煙者は採用しないという方針が立てられている。
社員の生産性管理について、評価システムを導入して徹底管理。個人によって設定が異なり、評価者も一次(係長)、二次(課長)、最終評価者で設定。決定評価については年二回実施し、社長である坂田氏も必ず立ち会うことをルール化した。評価システムの導入については、残業を減らす基準を画一的に定め、全員一律的な取り組みを強要することに対する危機感があった。
一律化すると、それができない人間が落ちこぼれてしまう。そうならないように、現場社員が自分達で考え抜き、時間内に終わらせる工夫を自分たちで編み出せるよう導いた。そのため、同社の就業規則は頻繁に変更される。それは社員たちの意志が反映されている証なのだ。
座りっぱなしの状態で仕事をすることは健康上良くない。ならば「PC作業は座って行わなければならないという決まりはない」という逆転の発想のもと、昇降デスクを導入
まなびのポイント 3:過重労働から超ホワイト企業へ。現在推進中の働き方改革
健康経営を推進するサカタ製作所は、厚生労働省や新潟県などから関連する多数のアワードを受賞している。現在同社で推進する働き方改革のトピックスを以下の通り整理する。
①休日が多い(平成4年に完全週休二日制導入)、②有給休暇が取得しやすい、③有給休暇は一時間単位で取得可能、④男性の育児休業取得率立100%、⑤残業ゼロ、⑥残業を一分単位で管理、⑦副業兼業の規制撤廃、⑧全社禁煙化、⑨リモートワーク推進、⑩労働環境改善(例:昇降デスク、バランスボールの導入、スポGOMIワーク、ベジファースト、社員の飲料水は水素水)、⑪ダイバーシティ、⑫2024年所得50%アップ(2020年比)、⑬DX:RPA(業務の自動化)、モノづくりの自動化、CAE、生成AIの全社的運用
社員想いと現場目線を貫く同社の働き方改革は、今後も進化していくだろう。
海外の優秀な人材を積極採用し、生産性向上とともにダイバーシティ化促進にも挑戦中