【第2回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに様々な分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第11期第2回のテーマを「To the new place, new future~新たな場所へ、新たな未来へ~」とし、サブテーマに下記3点をおいて、ゲスト企業の視察を実施した。
1.超速で変化する世界の中で挑む新領域への挑戦
2.未知・未見に対する好奇心ドリブン経営
3.New 3C イノベーション戦略の実践
“Curiosity, Creativity, Collaboration”
研究会参加者は、JAXA視察、スパークス・アセット・マネジメントの講話と霧島酒造の講話と視察から、新たな領域への可能性を感じ、自社のブランディングについて学びを深めた。
開催日時:2024年4月24日(鹿児島(宮崎)開催)
企画室部長 福田 達之 氏
はじめに
霧島酒造株式会社は「黒霧島」を筆頭とする「霧島」ブランドで知られる、本格焼酎メーカーである。2012年の売上高で初の日本一を獲得後、 直近の2022 年まで11 年連続で焼酎メーカー売上トップの座を継続している。
「黒霧島」を主体に、「白霧島」「赤霧島」などを展開。焼酎造りに適した風土といわれる宮崎県都城市で、もともとは焼酎を仕入れ販売する小さな商店に端を発し、1916年に本格焼酎の製造に着手。他のメーカーに先駆けて焼酎造りの近代化を進め、杜氏制を廃止し、麹や酒母、もろみづくりなど、工場のオートメーションを実現している。
今回は、日本一の銘柄を販売するに至ったブランディングストーリーや霧島酒造の未来について学んだ。
まなびのポイント 1:ローカリティブランド「霧島酒造」の成長ストーリー
「品質をときめきに」というスローガンを掲げて、創業から108年の歴史をもつ霧島酒造。
創業者である、江夏吉助が「川東江夏商店」を創業し、製造工場から販路の拡大まで霧島酒造の基盤をつくった。2代目の順吉が社名を「霧島酒造」へ変更し、江夏式蒸留機の発明と芋焼酎のブレンド技術を確立させた。その後、3代目となる現社長の順行社長に引き継がれ、拓三専務とお互いの得意領域を分担して企業の発展に尽力し、現在に至る。
創業の地である宮崎県都城市は、霧島連山、シラス台地という自然に恵まれており、焼酎に必要なさつまいも、霧島裂罅水という美味しい焼酎の製造に適した材料が揃う。「九州産さつまいも100%」、「霧島裂罅水100%」、「国産米100%」、「自社工場生産100%」の4つの100%にこだわって焼酎を製造しており、創業の土地ならではの大地の恵みを存分に活用している。
まなびのポイント 2:黒霧島の商品に込めた想い ~開発とブランドの展開~
芋焼酎はくさいというイメージが強い中、“黒麴”を使用することでどのような食事にも合い、飲み続けられる「黒霧島」を開発し、“黒キリ”という親しみやすい愛称と“トロッとキリッと”という味わいを表現するキャッチコピーで市場に展開した。また、黒霧島のラベルはカーナビの画面の切り替わりに着想を得て、当時の主力商品「霧島」のラベルを白から黒へ反転しデザインされている。
黒霧島の展開の際には、黒霧島一本に絞り、地元での営業を徹底的に行った。急に首都圏を狙うのではなく、福岡、広島、仙台という同サイズの市場へ横展開した後に首都圏の攻略に取り組み、全国一位の銘柄となった。また、「焼酎文化は食文化の基にありき」として地元宮崎・九州の食文化情報発信に注力し、新たな商品開発にもチャレンジングかつダイナミックに取り組んでいる。独自開発酵母を使用した商品、若者をターゲットとしたフルーティーな味わいの商品など多種多様な商品の開発を続けている。
黒霧島を“黒キリ”の愛称で展開(左)。黒キリ隊の活動風景(2001年頃、右)
まなびのポイント 3:持続可能な焼酎造りを目指して
霧島酒造は持続可能な製造・拡大を目指して原料不足への対応、DX、海外進出など様々な取り組みを実施している。昨今さつまいも農家では転作、離農、サツマイモ基腐病の発生という課題を抱えている中で、健全な苗の育成・供給を行う施設「イモテラス」を建設し、生産農家の安心できる生産環境を整えている。また、焼酎粕リサイクルプラントを建設し、製造過程で発生する焼酎粕や芋くずをエネルギーへ変換し全てのエネルギーを無駄にしないための取り組みを拡大している。
DXの取り組みとしては、製販×顧客体験×ひとづくりの3領域でのDX化に着手し、ダイナミックな全社変革に取り組んでいる。地元宮崎では顧客をおもてなしする「霧島まつり」を開催し、日頃の感謝を顧客へ伝える場を設け、霧島ブランドを大切にしつつ、海外市場への強化も行いさらなる霧島ブランドの拡大を目指している。