その他 2024.06.01

M&A実行企業、譲受・譲渡とも約2倍に増加 「2023年度M&A・事業承継に関するアンケート調査」リポート

タナベコンサルティングは、全国の企業経営者・役員・経営幹部・経営企画部責任者・M&A担当者などを対象とした「2023年度M&A・事業承継に関するアンケート調査」の結果を公表した。本リポートでは、調査結果の一部を抜粋して紹介する。

 

 

M&Aは「興味」から「実行」フェーズへ

 

新規事業の立ち上げや経営改善にかかる時間を短縮するために、他社の事業を買収、もしくは自社の事業を売却するM&Aの実践が広がりつつある。今やM&Aは大手・中堅企業から中小企業にまで浸透しており、この手法を企業経営にどのように取り入れていくかが、譲受・譲渡双方にとって大きな課題となっている。

 

【図表1】を見ると、2022年度に比べ、譲渡側・譲受側とも、M&Aの興味・関心段階から、具体的に検討・実施している企業の割合が高まっている。「譲受を検討中または実施済み」との回答は14.4ポイント増、「譲渡を検討中または実施済み」は4.3ポイント増と、実行フェーズは2倍近くになった。これまでは興味・関心止まりだった企業が、M&Aを戦略実現の手段と捉え、実行に移していると推測される。

 

【図表1】「M&A」の検討状況の比較 (M&Aを検討していない企業を除く)
【図表1】「M&A」の検討状況の比較 (M&Aを検討していない企業を除く)
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

マクロで見ると、人口減少や原材料費の高騰などによりマーケット環境が悪化または縮小する業界が多く、業界内での企業の生き残り競争は激しさを増している。生き残る手段としてM&Aを実行する企業が増えていると考えられる。

 

また、投資を控えていた企業の投資意欲が回復してきたことも一因だ。短期間での事業強化・事業ポートフォリオ転換のため、M&Aを用いていることがうかがえる。

 

M&Aは多額の投資や人員を必要とするため、実行に踏み切るには経営者にとって相当の覚悟が必要になる。未着手の企業には、まず実行までのスケジュールを立てることをお勧めする。

 

 

外部パートナー活用で実行をスピードアップ

 

M&Aの準備に当たって質の高い情報収集を行うため、譲受側・譲渡側ともに、M&Aアドバイザリー会社や仲介会社などの専門家をパートナーとして活用している。譲渡(売却)を検討する際の相談者と情報収集の方法は、「M&Aのアドバイザリー会社や仲介会社」や「顧問税理士と顧問弁護士」に相談しているとの回答が最も多く、共に31.3%だった。「HPから情報収集」や「自社の役員」という回答も18.8%に上ったが、やはりファーストステップとして専門家への相談は欠かせないようだ。

 

一方、譲受側が買収を検討する際の相談相手と情報収集の方法は、「M&Aのアドバイザリー会社や仲介会社」が46.3%で最も多く(2022年度比17.1ポイント増)、次いで「自社の役員」(41.8%)、「顧問税理士や顧問弁護士」(36.6%)と続いている(【図表2】)。これは、M&A支援会社の数が増え、アドバイザーが積極的に譲渡案件を提案しているためと考えられる。

 

 

【図表2】譲受を検討する際の相談者と情報収集方法 (複数回答)
【図表2】譲受を検討する際の相談者と情報収集方法 (複数回答)
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

また、2022年度と比べて大きく回答数を増やしたのが、「M&Aマッチングサイト」(14.9%、同11.5ポイント増)である。譲渡を検討する企業がM&Aマッチングサイトに情報を掲載するケースが増えたことで、M&Aの情報をインターネット上で得る手法が広がりつつあることが見て取れる。

 

顧問税理士や顧問弁護士も重要なパートナーである。ただし、士業の全てがM&Aに詳しいわけではないため、譲受企業は「この分野はこの専門家に相談する」という、相談内容ごとの相談相手を見つけておくことをお勧めする。

 

M&Aの実行に当たり、譲渡側には自社の強みの整理が、譲受側にはM&A戦略の構築や経営者人材の育成システムの構築が必要である。また、譲渡側は譲受側の準備状況に関心がある。譲受側は、譲渡側から選ばれる企業になるべく、スピード感を持って準備に取り掛かることがM&A成功の近道である。

 


【調査概要】
調査名称 : 2023年度 M&A・事業承継に関するアンケート調査
調査主体 : タナベコンサルティング
調査手法 : インターネットによるアンケート調査
調査対象 : 全国の企業経営者、役員、経営幹部、経営企画部責任者・M&A担当者など299件(有効回答数)
調査期間 : 2023年6月5日~2023年6月19日